嵐の後、愛の告白
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今回は、議会後のお疲れ様会……からの、ルーサー様の重すぎる初恋告白&甘々な攻勢回です。
ウブなジェナと、理性を必死に保つルーサーのやり取りをお楽しみください!
議会での勝利の余韻も冷めやらぬまま、私とルーサー様は大神官様とティーテーブルを囲んでいた。
「「「…………」」」
言葉が、出てこない。
あれほど白熱した泥沼の舌戦を切り抜けた直後だ。張り詰めていた糸が切れ、部屋にはどこか脱力したような静寂が広がっていた。
ようやく、ルーサー様が口を開いた。
「疲れ……ましたね」
「……えぇ、本当に」
私が深く息を吐き出すと、向かいに座る大神官様が静かに苦笑を漏らした。
「ふふ、あの怒濤の論破劇の直後ですから無理もありません。ですがヴァルハイト公爵が議場の後始末を引き受けてくださったおかげで、こうして落ち着いて今後の打ち合わせができます」
「……公爵には感謝しかありませんね。伯爵を床に放り投げた時のお姿は、まこと壮観でした」
ルーサー様が疲れたように眉根を寄せつつも、どこか誇らしげに口元を緩める。
お父様のあの暴れっぷりは私にも新鮮だった。寡黙な姿しか知らなかったから――誇らしさに、私の頬がほんのりと熱くなった。
(……お父様、今頃議場で反対派を徹底的に締め上げているのかしら……)
温かいハーブティーの湯気が立ち上り、むせ返るような政治の匂いから解放された身体が、少しずつ解きほぐされていく。
「さて……」
カップをソーサーに置いた大神官様が、表情を引き締めた。
「本題である『貞節の誓約』についてですが……ひとりの女性に対し、二度の儀式を執り行うなど神殿の歴史においても異例中の異例。議会での可決を受けたとはいえ、神聖なる儀式としての体裁と結界の調整には、少々お時間をいただきたい」
「……どれほどかかりますか」
「最低三日です。三日後、神殿の聖域にて、万全の神威をもって執り行いましょう」
三日後――。
その言葉に、ルーサー様がどこか生殺しにされたような、苦々しい溜め息を漏らした。
「……今日すぐにでも、とはいかないのですね」
「ルーサー殿下。焦りは厳禁ですぞ。ヴァルハイト公爵令嬢を正真正銘、貴方の妃とするための神前での誓いです。ユリシーズ殿下の失態の後です、これ以上の不備があってはなりません」
「わかっています……わかっていますが」
大神官様に宥められ、ルーサー様は渋々と頷いた。
打ち合わせが終わり、大神官様が席を外すと、部屋には私とルーサー様の二人だけが残された。
「……ジェネヴィーヴ」
低く滑らかな声に呼ばれ、ハッと顔を上げる。
ルーサー様がすっと距離を詰め、私の手をとって愛おしそうに指を絡めてきた。
(……あ……っ)
触れ合った指先から、じんわりと熱が伝わってくる。
ただ手を重ねているだけなのに、胸の奥がキュッと締め付けられるように苦しくなり、頬にカッと熱が上った。
(な、なんでこんなにドキドキしているのかしら……っ)
二十一歳にもなって、男性との付き合いに疎すぎる自分に焦りを覚える。
「お嫌では、ないでしょうか」
赦しを乞うような、密やかな声。
「えっ……?」
「僕にとってあなたは初恋のひとでした。明るく奔放な兄の側に静かに佇み、時には諌める言葉を口にしながら微笑む姿を狂おしいほどに愛おしく見つめて――いつからかその気持ちを姉を慕う気持ちだと言い聞かせて『義姉上』と呼んでおりました」
そう言って、ルーサー様は私の手の甲にそっと唇を寄せた。
アメジストの瞳が、狂おしいほどの愛おしさと執着を孕んで私を見つめている。
「『義姉』では足らない。あなたを恋人に……いえ、妻として手に入れたい。その願いだけで走ってきてしまった。だから今、お伺いしております―― 僕と結婚することが、お嫌ではないでしょうか」
(……初恋、のひと……?)
思わぬ打ち明けるような言葉に、私の胸が激しく鳴った。
形式に縛られ、何の疑問も抱かずにユリシーズ様の傍らにいた私を、そんな情熱的な瞳で見つめていてくださっていたなんて。
政治の道具や義務としてではなく、一人の女性としてこれほどまでに深く乞われ、愛されたことなど、私の人生で一度もなかった。
「……嫌な、はずが……ございません」
顔が熱くてたまらない。
膝の上の手をギュッと握り締め、震える声でかろうじて言葉を紡ぎ出す。
「ルーサー様のように……私を大切にしてくださる方の妻になれることを、嫌だと思うはずがありません……っ」
「……ジェネヴィーヴ……」
答えた瞬間、ルーサー様の顔がぱっと輝き、溢れんばかりの歓喜に彩られた。
掴まれた手にかかる力が強くなり、彼は愛おしくてたまらないといったように、何度も何度も私の手に額を押し当てた。
「ジェネヴィーヴ……あぁジェナ。あなたが好きです」
ルーサー様が口紅を気遣うように、軽く唇を合わせる。ちゅ、とリップ音が立ち、身体中に巡る血が一気に湧き立つようだった。
「ルーサー……様……」
その熱量に甘い痺れを覚えながらも、私はどこか夢の中にいるような心地だった。
「この美しい瞳を独占したいと、僕がどれだけ長い月日願っていたと思いますか……?」
ルーサー様はもう一度、唇を重ねる。
ぼんやりとルーサー様を見つめていると、彼は静かに身体を震わせた。
「どうかなさって?」
「――己の欲と戦っておりました」
(『欲』?)
ルーサー様が苦笑する。
「それは、そのうちに。結婚式までにあなたに上手く説明できるよう、努力いたします」
「それは……」
私は思わず、身を乗り出した。ルーサー様がびくりと震えた。
「気になります。その……私にも、わかるように教えていただけないのでしょうか」
心底不思議そうに首を傾げた私の前で、ルーサー様は片手で顔を覆い、深く重い息を吐き出した。
指の隙間から覗くアメジストの瞳が、獣のような暗い光を帯びていることに、鈍感な私ですら気づいて息を飲む。
「……ジェナ。これ以上煽るのは、やめてください」
「あっ……申し訳、ございません……」
低く掠れた声に思わず身を引くと、ルーサー様は諦めたように困り顔で笑い、私の手にそっと額を預けた。
「……君があまりにも純粋で、可愛らしすぎるのがいけないのです。ですが、手始めにひとつだけ教えるとするなら……」
彼はそのまま、私の手首に滑らかな口づけを落とした。
ドクドクと拍動する脈拍の上に重ねられた熱い唇に、身体の芯から爪先まで痺れるような熱が駆け巡る。
「僕が今、どれほど君を全身で抱き締め、唇どころか指の先まで味わい尽くしてしまいたいか……ということです」
「っ……あ……!」
耳元で囁かれたあまりに生々しく甘い言葉に、頭の中が真っ白になった。
カッと頬が燃え上がり、一気に心臓が跳ね上がる。自分がどれほど無防備な問いを投げてしまっていたのかを今更理解して、私は言葉を失って口をパクパクとさせることしかできなかった。
「……ふふ、可憐な反応をありがとうございます。これで少しは、僕の理性に免じて許していただけますか?」
ルーサー様は満足そうに微笑むと、最後にもう一度だけ愛おしそうに私の手の甲に口づけを落とし、優しく手を離した。
「三日後、神殿で待っています。……僕の正式な婚約者として、君を迎えるその時を」
「は、はい……! ルーサー様……っ」
甘い痺れと動悸が収まらないまま、私はなんとか返事を返した。
お読みいただきありがとうございました!
ホッとしたのか、ジェナへの想いを溢れさせたルーサー様でした。無自覚に煽ってしまうジェナも可愛らしいですね……!
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