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浮気性の婚約者に「もげてしまえ!」と言ったら古の呪いが発動しましたーー腹黒王子の甘く執拗な検証生活  作者: 櫻庭希翠


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『あなたを僕のものに』(後編)

いつもお読みいただきありがとうございます!

第7話【後編】をお届けいたします。

前編での下品な言いがかりを退けたのも束の間、未練がましく粘る反対派と伯爵がさらなる暴言を吐き捨てます。

お父様の物理的な撃破、大神官様のデータ論破、そしてルーサー様の威厳ある決断――怒濤の「ざまあ」と完全決着をお楽しみください!

 静まり返る会議堂。


 だが、それをすんなり認めようとしない者たちがいた。


「異議あり!……いささか、時期尚早ではなかろうか!」


 口を開いたのは、ユリシーズ様を支持していた反対派の筆頭貴族だった。


「噂では、ユリシーズ殿下は呪いを受け、神殿で療養中とか……。しかし神殿で清めればお戻りになるやもしれん。ルーサー殿下へ第一位を渡すのは時期尚早では!」


 未練がましく粘る言葉に、議場がざわめく。


 そこに同調するように、ネチネチとした嫌味な声を上げて立ち上がる男がいた。


「――いささか、お早い『挿げ替え』ですな」


 声の主は、マリアンヌの父である伯爵だった。


 貴族たちの間では『不貞と呪い』の噂がうっすらと広まっているものの、過激すぎる真実――ユリシーズ様のアレがもげて美少女化し、そのアレを受けたマリアンヌ様がピンクのもふもふに変貌したことは、厳重な極秘事項とされている。


 だが、娘の無惨な姿を実際に見た伯爵は、すべてを知っているのだ。


 やつれ、怨念に満ちた目で私をねめつけながら、伯爵が声を張り上げた。


「王家に侍女として仕えている我が娘マリアンヌは……未だ、神殿の奥で泣いております。それというのも、ユリシーズ殿下の御身を案じるあまりのことでございます! それだというのに、ユリシーズ殿下が療養中であることをいいことに、まるで待ち構えていたかのように別の王子へ乗り換えるとは……少々節操がなさすぎるのでは? まるで最初からルーサー殿下とおデキになっていたかのようだ」


(……は……?)


 思わず私は絶句した。


「第一王子の見舞いに第二王子の馬車で毎日の送り迎え……優雅なものですなぁ。まったく、密室で何をなさっていることやら。我が娘が純愛から殿下をお支えしていた影で、不貞を働いていたのはどなたの方であられますかな」


(自分の娘と派閥ぐるみでユリシーズ様を唆して不貞を働き、私の婚約を破壊しようとしたくせに……! 自業自得の罰を受けた娘を被害者仕立てにして、私に八つ当たりしてうやむやにするつもり……!?)


 私の胸の中で怒りの熱が渦巻く。


 だが、殺気を放ったのは私だけではなかった。 


 冷ややかな笑みを消し、激しい怒りを瞳に宿したルーサー様。


 静かに立ち上がり、眼鏡の奥の目を鋭く光らせた大神官様。


 そして――私の隣で、今まで聞いたこともないような低い地鳴りのような声を漏らし、静かに立ち上がったのは父だ。


「……貴様、今なんと言った?」

「ひっ……!」


 父が放った圧倒的な覇気と威圧感に、調子に乗っていた伯爵の顔色が瞬時に土気色へと変わる。


「己の娘が犯した不貞と不敬の罪を棚に上げ、我が娘に汚言を吐くか。……貴様ら一族は、まだ反省というものを知らんようだな」

「な、何が不貞ですか! 我が娘はユリシーズ殿下に愛されていたただの被害者だ! それをあんな化け物の姿に変えて閉じ込めるなど……っ! 悪いのはそちらの娘の恐ろしい呪いではないか!」


 開き直って叫ぶ伯爵に、大神官様が冷徹な死告の宣告を叩きつける。


「黙れ。貴様の娘が受けたのは、殿下と我が娘の行なった神聖なる誓約を破った不貞に対する『神罰』です。神殿の裁決に異議を唱えるのか?」

「くっ……!」

「さらに言えば」


 父の手が、伯爵の胸元をガッ!と力任せに掴み上げた。


「これ以上の言いがかり、ここで叫びたければ叫ぶが良い。貴様の娘とユリシーズ殿下をここに召喚せよ!『不祥事の全貌』を今この場で全貴族に暴露して、一族郎党路頭に迷わせてやろう」

「ひ、あ…………っ!」


 首根っこを完全に押さえつけられ、ガタガタと震え上がった伯爵は、カエルのように潰れた声を漏らすことしかできない。


 事件の全貌が暴露されれば、伯爵家は即刻全財産没収・改易は免れない。自分の立場を思い出させられた伯爵は、恐怖で顔を歪めて床へ崩れ落ちた。


「……さて。ゴミの始末は終わった」


 父は伯爵を床へ放り捨てると、冷ややかな手袋で手を拭い、反対派の貴族たちと壇上の国王陛下を見渡した。

 しかし反対派筆頭も黙ったままではいない。


「しっ……しかし、いかにユリシーズ殿下が療養中とはいえ、もともとの魔力適性値は殿下の方が上。第二王子であられるルーサー殿下は、魔力値の天賦において兄上に劣るとされてきた。王位継承第一位とするには、いささか懸念が残るのではないか?」


 思わず私が眉をひそめたその時、議場の最前列に座していた大神官様が、静かに立ち上がった。


「その懸念は、完全に的外れと言わざるを得ませんな」


 厳かな声が響き、ざわめく議場が一瞬で静まり返る。大神官様は手元に置かれた神殿の測定記録をめくり、冷ややかな視線を反対派の貴族たちへ向けた。


「確かに、幼少期の素質測定において、ユリシーズ殿下の魔力適性値は類稀なるものでした。……しかし、その類稀なる才能に甘んじ、必要な鍛錬を一切怠ってきたのはどなたでしたかな?」

「ぐ……っ」

「対してルーサー殿下は、第二王子というお立場でありながら『王家のスペア』としての責務を深く自覚され、幼少より常人の倍以上の血を吐くような努力を重ねてこられた。帝王学はすでに数年前に完璧に修了。魔力値に関しても、絶え間ない鍛錬によって限界を押し広げられ、今や怠惰を貪っていたユリシーズ殿下と何ら遜色ない領域にまで達しておられます」


 神殿と学術院の絶対的なデータに基づいた告発に、反対派の貴族たちは顔を青くして言葉を詰まらせた。


「生まれ持った才能に胡坐をかき、己を磨くことすら放棄した者を掲げ続けることこそ、我が国の破滅を招く。……学術と神殿の立場から言わせていただければ、ルーサー殿下こそが第一位に相応しいお方です」


 大神官様の決定的とも言える言葉に、議場からは納得の頷きと賛同のどよめきが広がっていく。


 そこへ畳みかけるように、私の隣で黙って聞いていた父が、ゆっくりと立ち上がった。


「大神官の仰る通りだ。そして――我が公爵家は、これ以上の無駄な猶予を一切認めん」


 父の威圧感にあふれた声が議場を支配する。


「数年間の婚約期間を置くのが王家の慣例だと? ふざけるのも大概にしろ。ユリシーズ殿下の浅慮とそなたら派閥の画策、愚者の気まぐれで娘の貴重な時間を費やしておきながら、さらに数年待てなど言語道断!」


 私は七歳でユリシーズ様と婚約したのに、今、二十一歳――もうすぐ二十二歳になる。


(そう……女性にとっての二十一歳は、貴族社会では『適齢期ギリギリ』を意味するわ)


 ユリシーズ様の帝王学の履修が終わらなかったのが原因だ。今では、他の女性たちにうつつを抜かしていたせいだと、私も知っている。そんな理由で婚約を放置し続けたせいで、私はここまで追い詰められた。


「幸いにも我が娘はすでに王妃教育を完璧に修めておる。直ちに『貞操の儀』を執り行い、年内には挙式としていただく!」

「……しかし」


 なおも食い下がろうとする反対派に、父は一喝した。



「それとも『神罰』を議会招集し、見定めるか? 真実を公にすること、我が公爵家の腹は痛まん……どうなさいますかな、陛下?」


 沈黙を守っていた王は、静かに言葉を発した。


「我が王家はジェネヴィーヴ嬢の身の潔白とヴァルハイト公爵の主張の正当さを認める――第一王子ユリシーズの廃嫡、指導しきらなかった私に責任のすべてを」


 激昂していた父も、反対派も含めた議会も……完全に沈黙した。


「つまり、私が『王太子』として立志することに、どなたも異論はない。そういうことでよろしいですね」


(『獅子』――えぇ、ロッティ。あなたの言う通りだったわ……ルーサー様は……)


 こうして、異例中の異例である『ルーサー様の即時繰り上げ即位』と『スピード挙式』が、満場一致で可決されたのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました!


貴族院を完勝で制した二人ですが、物語はいよいよ【神殿での貞操の儀】へと向かいます。

政治的勝利の裏で待ち受ける新たな波乱を、ぜひ次回もお楽しみに!

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