浮ついた婚約者など、必要ですか?
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婚約者の不貞現場で魔法が暴走!?
前代未聞のカオスすぎる地獄絵図の中でもどこか冷静な公爵令嬢と、ノリノリで煽ってくるドSな第二王子ルーサーの登場です!
極秘事項として取り扱われるべき、由々しき事態となった――。
不貞の罰とはいえ、第一王子ユリシーズのアレがもげ、伯爵令嬢マリアンヌにすっぽりと入り込んでしまっているのだ。
「うそ、やだ、気持ち悪……っ! や、やぁ! 取ってぇ!!」
「……どうやって?」
私が冷静に返すと、マリアンヌはワナワナと震えた。
「こんなもの、身につけたままにしておける!?」
「こんなもの? 良かったわね。欲しかったんでしょ、王子様のソレが」
そう淡々と言葉をぶつける。
すると、マリアンヌがきらきらと光る自慢の髪を振り乱して飛び掛かってきた。
「はぁッ!? アンタ、正気!?」
謎の物体を引っ提げた凄絶な格好のまま、マリアンヌが血走った目で叫ぶ。
「大体、アンタのこと、昔から嫌いなのよッ! 私は伯爵家の三女だからって侍女として働いてるのに、公爵令嬢ってだけで、地味で愛想もないくせにアンタが将来の王妃!? ふざけないでよ! アンタの婚約者もろとも全部奪って笑ってやるつもりだったのに……ッ!」
伯爵令嬢と公爵令嬢。そう広くもない貴族社会、幼い頃から何をするにも比較されてきた。
目立ちたがり屋のマリアンヌと、立ち位置ゆえに勝手に目立ってしまう私。『ふざけないで』とはこちらが言いたい。もう、うんざりだ。
「嫉妬で身を滅ぼすなんて、浮かれた髪色と同じで、本当におめでたい頭ねッ!」
ここぞとばかりに私はマリアンヌの髪を引っ掴んだ。ずっと目障りだったのは、お互い様だ。
気絶しているロッティの傍らで私たちが揉み合い、ユリシーズが己のこざっぱりとした股間を呆然と眺めているという戦慄すべき光景の中、騒ぎを聞きつけた護衛騎士たちが駆けつけてきた。
皆、あんぐりと口を開け、揉み合う私たちを見つめた。
「これは……一体」
マリアンヌの乱れた衣装の隙間からちょこんと覗く謎の物体に目が釘付けだ。
「何見てんのよ!」
ボサボサ髪のマリアンヌのヒステリックな叫び声に、騎士たちは我に返り真っ青になった。
いくらパニック中とはいえ、あまりにカオスすぎる状況だ。あまりのシュールさと悍ましさに、部屋の隅で胃を押さえて吐きそうになる者まで出る有様だった。
(……まるで地獄絵図ね)
「侍女殿……あの、ソレは」
「ユリシーズ様のよ!」
魂が抜けたようにへたり込むユリシーズを救護しに行った騎士が後ずさる。
「これは……どうして、こんなことが?」
「僕の……僕の……ッあぁ!!」
私もどうしていいかわからない。
小一時間後――艶のある銀髪をさらりとなびかせた第二王子ルーサー様が姿を現した。
彼は顔色ひとつ変えず、シーツに包まって泣きじゃくるユリシーズとマリアンヌを、アメジストより美しい紫の瞳で見下ろしている。
「どうやら兄上は……継承権第一位から離れられたようですね」
継承権は男子にしか与えられない。その当て擦りに私はつい吹き出しそうになった。
「今それ!? お前、正気か!? この魔女が呪いをかけたに違いないだろう!?」
「魔女? 義姉上――麗しの婚約者殿に呪われるようなことでもなさったのでしょうか」
怜悧な美貌の第二王子ルーサー様はしばし考え込んでから、付き添ってきた近衛騎士に命じた。
「兄上とマリアンヌ嬢を神殿へお送りしろ。もしかしたら女神様は、戻す方法も……完全に取り去る方法もご存知かもしれぬ」
すると、マリアンヌが顔を曇らせて叫んだ。
「神殿に行ったら、みんなに知られちゃうわ!」
ルーサー様はすかさず問いかける。
「知られて困るようなことが、何かおありなのでしょうか?」
不思議そうに小首を傾げ、可愛らしく言う。
「それとも……『未来の女主人から奪い取った戦利品』として、兄上の一部をそのまま大事に保管したいと……?」
アメジストの瞳で射るようにマリアンヌを見つめる。
「ひっ……!」
「――たかが伯爵家出身の侍女風情が事切れたソレを取り込んだとて、義姉上に成り代わる道理などない。下剋上など、絶対にあり得ぬのだ」
「……っ!?」
「往ね」
マリアンヌが床にへたり込み、放心した。
完全に戦意を喪失した侍女と、股間を抱えてシーツの隅で丸くなっている元・第一王子。現場の惨状に溜息をつく間もなく、ルーサー様がさらりと銀髪を揺らし、私の方へと歩み寄ってきた。
「怪我はありませんでしたか、義姉上。急な騒動で、さぞお心を痛められたことでしょう……」
アメジストの瞳に深い憂いを含ませ、痛ましそうに私の手をそそっと取ろうとするルーサー様。
先ほどまでマリアンヌを『往ね』と一蹴していた男と同一人物とは思えない、どこまでも思いやり深く、紳士的で慈愛に満ちた完璧な声掛けだ。
(相変わらず、底のまったく見えないお方ね……)
「お心遣い、感謝いたしますわ、ルーサー殿下。……ですが、心配には及びません」
私は差し出された彼の手にそっと自分の手を重ね、すり抜けるように優雅に身を引いた。
そして、シーツの端で惨めにも震えるかつての婚約者を冷たく見下ろし、氷のように毅然と言い放つ。
「このような、浮ついた婚約者など、私に必要だと思われますか?」
――ピキッ、と。
部屋の中の空気そのものが凍りつくような私の静かな一言に、ユリシーズが青くなってビクッと肩を跳ね上がらせた。
ルーサー様は一瞬だけ丸く目を見開いた。
「ええ、仰る通りです。――このような浮ついた婚約者など、爪の先ほども必要ありませんね」
まるで極上の逸品を見つけたとでも言いたげに、ふっと満足そうに口元を歪めた。
お読みいただきありがとうございました!
事態は収束するどころか、完全にカオスな地獄絵図と化してしまいました。
そして、この惨状の中でひとりノリノリで現れたドSな第二王子・ルーサー様。
「ルーサー様のドSっぷりが最高!」「この先どうなっちゃうの!?」と少しでもクスッとしていただけましたら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【★評価】で応援していただけると凄く励みになります!
次回更新本日中予定!
どうぞお楽しみに!




