聖地巡礼への旅立ちと同行者
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禁書庫で解呪の鍵を見つけたルーサーとジェナ。
報告のため国王陛下の元へ向かった二人ですが、出された旅の条件はあまりにも思いがけないもので……?
「……よし。すぐに行くぞ」
ルーサー様は迷うことなく立ち上がると、傍らに置かれていた上衣を羽織り、禁書庫を後にした。
向かったのは、城の最上階にある国王陛下の執務室。
大神官様を伴い、私とルーサー様は重々しい扉をくぐり、国王陛下の前へと進み出た。
重厚な執務机の奥に座る国王陛下――ルーサー様とユリシーズ様の父である絶対の君主は、鋭い眼光で私たちを見下ろした。
「……三日三晩、禁書庫に籠もっていたと思えば、どのような報告だ、ルーサー」
「父上。聖女アネットの『貞操の誓約』の解呪について、手がかりを得ました」
ルーサー様は掠れた声でありながらも、毅然とした態度で報告を始めた。
呪いの真のカラクリ、そして解呪の鍵が聖女の生誕の地『聖地ナブレール』に残されている可能性が高いことを、一気に伝える。
「……なるほど。古代の秘法にそのような裏があったとはな」
国王陛下は深く組み合わされた手元を見つめ、静かに息を吐いた。
「聖地ナブレールへ向かう許可を出そう。……だが、条件がある」
「条件……?」
眉をひそめるルーサー様に、国王陛下は一切の情を排した声で言い放った。
「ユリシーズと、マリアンヌも連れて行け」
「――なっ!?」
ルーサー様がハッと息を呑み、血走ったアメジストの瞳を激しく見開いた。
「本気で言っておられるのですか、父上! 兄上とあの女は、ジェナを裏切り、この凄まじい呪いを引き起こした元凶だぞ! なぜそんな真似を……っ」
「黙れ!」
国王陛下の一喝が執務室に鋭く響き渡り、室内の空気が一瞬で凍りついた。
「ユリシーズが原因不明の事態で女の姿に変貌し、国政から離脱している現状を、いつまでも隠し通せると思うか? 王家の醜聞を揉み消し、誓約の呪いを解くためには、当事者であるユリシーズとあの女をその場に立ち合わせるのが筋だ」
国王陛下は私へと視線を向け、どこか品定めするような冷ややかな眼差しを注いだ。
「ユリシーズを導ききれなかった私の罪は認めよう――しかし、元はと言えば、お前たちの感情のもつれが招いた災厄だ。ユリシーズの体を元に戻し、誓約の呪いを完全に清算するまで……全員で責任を果たして参れ」
「ふざけるな……! ジェナにこれ以上の屈辱と苦痛を与えようというのか!?」
ルーサー様の全身から、激しい怒りが膨れ上がる。
興奮のあまり私の方へと一歩踏み出した瞬間、ルーサー様の感情の高ぶりに反応した呪いが暴走しかけ、私たちの間の空間でバチバチと赤黒い火花が激しく弾けた。
「ルーサー様、おやめください……!」
私が思わず叫ぶと、ルーサー様はハッと息を呑み、苦しげに歯を食いしばって拳を握りしめた。
怒りと悔しさに体を震わせ、血の気の引いた顔で耐えるルーサー様。
重苦しい沈黙が流れる中、私はそっと深く息を吐き出し、まっすぐに前を見据えた。
(……ユリシーズ様と、マリアンヌ……)
二人を同行させるのは、考えるだけでも頭が痛む条件だ。
けれど……呪いを引き起こした当事者が目の前にいるのなら、聖地ナブレールで真相が明かされた時、彼らは自分たちのしでかした罪から二度と逃げられなくなる。
「……分かりました、陛下」
私の言葉に、ルーサー様が信じられないものを見る目でこちらを振り返る。
「ジェナ……!? 正気か!? あいつらの顔を見るだけでも不快だろうに――」
「大丈夫です、ルーサー様」
私は毅然とした声で、苦しむルーサー様を見つめ返した。
ユリシーズ様とマリアンヌにも、この旅は有意義なものになるはずだ――きっと。
「ジェナがそう言うのなら、僕は従う」
ルーサー様は唇を噛み締め、悔しそうに拳を握り直すと、国王陛下へ深く一礼した。
「ですが父上。旅の道中、あの二人がジェナに対して不遜な態度をとれば……僕は王命であっても容赦はしません」
「好きにせよ。ただし、生きて聖地へ辿り着かせろ――いや、生きて連れて帰れ」
国王陛下の冷徹な一言をもって、話はまとまりかけた。
その時、静観していた大神官様が一歩前に進み出で、恭しく頭を下げた。
「陛下、殿下。聖地ナブレールは神殿にとっても至高の聖域。また、お立場上、大人数でのご移動は避けねばなりませぬ。そこで……私めの代わりに、神殿の意を受けた信頼できる者を一人、案内と警護として同行させたく存じます」
大神官様が視線を送ると、執務室の壁際に控えていた一人の若い神殿騎士が、静かに進み出て跪いた。
「神殿騎士のシリルと申します。ナブレールまでの道案内ならびに、皆様の道中の御身の警護、雑務全般を務めさせていただきます」
「うむ。神殿の者が一人口を添えるならば、道中の偽装や手配も都合が良かろう。許す」
国王陛下の許可が下り、シリルと呼ばれた青年騎士は深く叩頭した。
こうして、王家の秘密を守る最小限の従者として、神殿騎士シリルの同行が決まったのだった。
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次回はいよいよ『波乱の出立』!
気まずさMAXの馬車の中で、まさかの「手繋ぎ検証」が始まります。
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