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宿り木カフェ  作者: 桜居かのん
Case4 思春期の子供達に悩む主婦43歳
34/49

33


*********



次は4日後だった。


前回30分であっという間だったので、子供の帰るのが遅いこの日にし、1時間にした。




『こんにちは』


「こんにちは」


まだ硬い彼の声に少し笑みが浮かんでしまう。

でも、ここに登録した理由がある。

私は本題を切り出した。


「今日はここに登録した理由を話してもいいかしら」


『もちろんです』


「子供が反抗期ってのは書いたけど、スタッフの要望に母親が専業主婦だった人というのを入れたのは、そういう子はその母親をどう思っていたのかを知りたかったの。

イチロウ君のお母様は専業主婦だったのかしら」


『なるほど、そういう事でしたか。

まずは僕の母の事ですが、僕の母も元は看護師だったそうなんですよ。

なのでケイさんが話された時、とてもびっくりしました』


「まぁ、そうだったのね、奇遇だわ。

お母様が仕事をしていたのはイチロウ君が産まれる前?」


『結婚を機に辞めたそうです』


「ほとんど私と同じね」


『そして僕にも妹が居ました』


「あらうちと・・・・・・、ん?今居たって聞こえたような」


『はい。過去形です。亡くなりましたから』


「・・・・・・ごめんなさい」


『いえ、先に僕のことを話した方が良さそうですね。

僕の父と母と妹は、一緒に住んでいた僕以外の家族は亡くなりました。

あの東北の震災で』


「えっ・・・・・・」


突然聞かされた内容に声が出なくなった。

この真面目そうな、医者を目指す大学生がそんな過酷な状況にいただなんて。


色々と転勤をしたがあの地域には行ったことが無く、友人も親戚も被災しなかった。

だが多くの被害は見聞きしていたものの、まさかこんな所であの時被災した当事者と話すことになるなんて想像もしていなかった。


『すみません、驚かせましたね』


「驚いたけれど、謝罪する事じゃないわ。

もしも大丈夫なら、イチロウ君の事をもう少し聞かせてもらえないかしら」


『そうですね、あの時馬鹿をしてた僕が今医者を目指すことにした理由を話すことになりますし。

では・・・・・・』


彼はゆっくりと話し出した。


『うちは父、母、妹、僕の4人で生活していました。

小学生の時から僕は母に酷く反発していました。

勉強しろ勉強しろとそれはしつこいくらい母は毎日言ってましたよ。

一言で言えばうざい、です。

僕は、段々家によりつかなくなりました。


学校が終われば大きなショッピングセンターで柄の悪い先輩達とつるむのが、大人になった気にもなれて楽しかったんです。

そういうグループで喧嘩を起こし、警察に補導され、両親が警察署に来たこともありました』


「それはご両親も怒ったでしょう」


『えぇ。父には殴られましたし、母には半狂乱のように泣かれました。

でも、そんな事があったって僕には何も響かなかったんです。

むしろ、ざまぁくらい思ってました』


「何故?ご両親が心配していたのはわかったでしょう?」


『そうですね・・・・・・。

心配しているという状況はわかるんですが、心にこないんですよ。

どうせこいつらは世間体とか、自分の事しか考えて無いんだろうなって』


「そんな」


『今ならそうじゃないとも思えますが、その当時はそうは微塵も思えなかったんです。

むしろ憎かったとすら思います』


淡々と話すこの子の言葉に、それがまるで息子から向けられているような気がした。

憎かった。

今も息子はそう思って私から距離を置いているのだろうか。


「どうしよう、息子もそう思っているのかしら」


『息子さん、家に帰ってきていますか?』


「えぇ。

でもオンラインゲームがしたいからだけだと思うわ、パソコンと独りになれる環境が必要でしょうから」


『帰ってきて一歩も部屋から出ませんか?』


「そうじゃないけど、一時期酷くなって何とか話し合いは出来たの。

それで食事だけは一緒にしようと。

でもダイニングに来ても、ずっとスマホをいじってばかりで話もしないけれど」


『ならまだ大丈夫です。

本当に嫌なら食事を持ってこさせるし、わざわざ部屋から出てきませんよ』


「そうかしら・・・・・・。

ごめんなさい話を折って。

続きの話を聞かせてもらえる?」


『えっと、親が憎かったって話をしましたね。

それは両親ができの良い妹の方を大事にしている気がして面白くなくて。

時々妹を苛めたりしました。

妹に嫌われていたのも当然です』


「そうなの・・・・・・。

うちは妹が、お兄ちゃんばかりずるいと言うのよ」


『もしかしたら妹もそう思っていたのかも知れませんね。

当時の僕には絶対思いつきもしなかったでしょうけど』


苦笑いするのが伝わってくる。

急に気がついた。

私に過去のことを話すことで、この子に心の傷を増やしていないだろうか。


「ごめんなさい、辛い思い出を話させてしまって。

聞いておいて勝手だけれど、もうやめて良いから」


『あっ、すみません。そういうのでは無いんです。

話したいから、話しているんです。

そうじゃなきゃ、スタッフに登録したりしませんから』


慌てたように彼は言った。

彼なりに何か理由があって、宿り木カフェのスタッフをしているのだろう。

私は彼に、大丈夫なら話を続けて欲しいとお願いした。

どうしても、そんな彼の人生が知りたくなった。


『まぁ小学生でそんな状態だったので、中学に入ると悪化しました。

付き合う相手がより悪かったんです。

その連中が盗みとかタバコや酒というのをしているのは聞きました。

僕はしてませんでしたが、そんな事をすることに憧れすら持ってましたね。


それで震災のあったあの日。

僕は学校をずる休みし、悪友達とショッピングセンターでたむろしてました。

数日前から家族とろくに会話もしてませんでしたが、別になんとも思っていませんでした。

まさか二度と話せなくなるなんて、思ってもいませんでしたから』


私は淡々と話す、ネットの向こう側にいる現実の男の子の表情が気になりながら、話をじっと聞いていた。


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