表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿り木カフェ  作者: 桜居かのん
Case4 思春期の子供達に悩む主婦43歳
35/49

34


『地震直後、自分達は何がなんだかわかりませんでした。

心配で家に戻るメンバーも居ました。

僕は戻りませんでした。

大した事はないと思っていたんです』


少し言葉が止まった。

泣いているのではと心配になる。


「ごめんなさい、やっぱり止めない?」


『いえ、聞いて下さい。

自分達が居た場所は高台でした。


結果として僕やそこに居た人達、逃げてきた人は助かりました。

僕の家は海岸線に近くで津波にのみ込まれました。

街が津波に飲み込まれるのを多くの人達と目の当たりにしました。

それが現実なのに、それを見ながらも現実に思えなくて。

そして初めて家族が心配になりました。


これは全て後から色々な人達に聞いて回って知ったことですが、父は仕事先から家に向かおうとしていた車に乗ったまま、家には母と妹がいたようで、母は妹を家に居るように言って、僕を捜しに車で出ていったそうです。


僕は家族を探し始めました。

家が無くなったことはわかっていたので避難所を何カ所も回って。

でも人づてに父の遺体があると聞き、父の遺体と向き合って初めて家族が消えてしまったのかも知れないと理解したんです。

妹はそれからかなり探し回って、見つけたのはかなり離れたとある体育館に並んでいる遺体の一つでした。

そして、僕を捜しに行ったまま、母は未だに見つかっていません』


言葉が出ない。


初めて震災の被災者から生々しい言葉を聞いている。

そんなことの経験が無く、なんて言葉を出して、そしてこの子にかけていいのかわからなかった。


画面の下に、ピコンと表示が出た。

終了間近を知らせている。


『あ、そろそろ終わりですね。

すみません、僕ばかりこんな話を』


「いえ、いいのよ」


『これじゃ僕がお客さんです、まずいです』


「ううん、私はこんな事を言ってはいけないのかもしれないけれど、とても貴重な話を聞けているわ。

まだ大丈夫なのならイチロウ君の話を聞かせて。


それと、こういう話をした後は自覚が無くても精神的にダメージがくるから、ゆっくり深呼吸して、温かい飲み物でも飲んで落ち着けてね」


『はい。

さすがは看護師をされていただけありますね、参考にします。

では、失礼します』


通話が終わった。


正直気持ちが重かった。

たった中学生の子供が味わったものとしては重すぎる現実だ。

しかしそれが沢山の人に起きたのだ。

ニュースで知っているようで、当事者から話を聞くという重みの違いを味わった。




「なにそれ」


翌日私は図書館に行って、震災関連の本を数冊借りてきた。

それも子供が経験したことをまとめてある本も含めて。

その本を夜読んでいたら、飲み物を取りに来た長男が珍しく話しかけてきた。


「震災を経験した子供達の話をまとめた本よ」


「へー、俺関係ないし」


「あなたより年下の子が、家族全ていなくなったりしたのよ?」


「だからそれ俺じゃないし」


「あなたが明日その立場にならない保証なんてないでしょ?」


「そんなん知らね」


息子はもの凄く嫌そうな顔をすると、飲み物を持って部屋に戻ってしまった。


そうだ、明日、私やこの子が死ぬかも知れないし、私だけ生き残るかも知れない。

そんなこと、深く考えた事なんて無かった。

それを息子は今話しても自分の事に置き換えて考えられないだろう。

本を読みながら、私は色々と考えていた。



『宿り木カフェ』に登録したきっかけは、私は一体?と思う虚しさだった。

もし明日私が死ぬとしたら?子供達が、夫が死んで私一人残されたら?

全て解放されただなんて思うのだろうか。

いや、必至に人生を注いでいたものを全て失って解放される訳が無い。

むしろ抜け殻になるだろう。


思い返せば今と家族のことしか考えていなかった。

全く違う世界に触れ、それも自分の子供の年齢に近い子供から、いや、遙かに多くの事を経験したであろう彼から聞く言葉は、ずっと主婦という職業で生きていた私には刺激がおそろしく大きかった。


専業主婦の母を嫌っていたあの子も、震災があったから今の彼になったのだろう。

しかし本を読んでいる私に声をかけた息子は、私の問いかけにあんな返答しかしなかった。

それにため息しか出ない。


私の何が悪かったのだろうか。

きっとあの子のお母さんもそんな気持ちだったような気がする。

どんな気持ちで、必至に息子を捜しに行ったのだろう。


私はひたすらに落ち込んでしまった。





「ねぇ、なんで今度は落ち込んでるの」


また娘に指摘された。

私がわかりやすいのか、娘が鋭いのかわからないのだけれど。


「ちょっとね・・・・・・」


ため息混じりに返事をして、娘にも聞いてみようと思った。


「ねぇ、この後震災に巻き込まれて、あなた以外みんな死んでしまったらどうする?」


娘は一瞬ぽかんとしたが、


「私も死ぬ」


それだけ言って部屋に戻っていった。


刺激が強かっただろうか。

でも彼がその立場になったのは娘と同じ年齢。

年齢なんて実際は関係ないのに。


やはり子供と向き合うのは難しい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ