第46話 GW開け一週間 珍しく彼女といない日の彼の日常を彼女がホモホモしくも清らか(ピュア)だったそれを見てた 前編
前話、これの何処にピュアな感じがあったのか、唯々少しホモホモしかっただけではないかと思う方も多かっただろう。何故たったあらだけのダイジェストで終わってしまったかというと、ああいう場は、当事者であるよりも、観客の方が見ていておもしろいからである。
というのも、あの場に、向日葵は、いたのだ。隼人に気付かれずに、確かに、いたのだ。割と近くの方でその場に居り、鼻血は出さなかったし、倒れもしなかったが、蕩けてはいたのだ。隼人と同じように、二人程伴って。
時間は遡る。隼人たちが店の受付の前で店員から説明を受けているところまで。
隼人と誘われた二人が、その店の様式の説明を受付で受けながら注文するメニューと睨めっこしているのを、道を挟んで反対側の建物の影から見ているのは、向日葵と、それに付き合う二人、大瓶おかめと五月雨莉紅である。
「えぇ、ここぉ……? 嘘だよね、ねぇ?」
と、慌てる向日葵。当然である。そこはどう考えても、男だけで入る店ではない。それでも男が入るとしたら、それは、女たちとの逢瀬。それしか向日葵は思いつかなかった。向日葵の頭の中は、そんな感じで割と単純で、残念だった。
当然、向日葵の付き添い二人は向日葵がそんなのであることを、大体掴んでいる。
「向日葵。それはない。朴木君がいる限り、合コンっていう線は、絶対に、ない。あの二人が一緒にいるとしても、あの威圧感はお釣りが来る」
莉紅はそう冷静に分析する。
「向日葵ちゃん。そんなに不安だったら、実際に見て確かめりゃいいじゃないの。私ここの会員カード持ってるから席もある程度融通効くし、お金もほら。足りなかったとしても、今日くらい立て替えたげるよ」
それでも未だ躊躇している向日葵におかめが優しくそう言いながら、いつの間にかどこかからピンク色の折り畳みサイフを出して、黒塗りのカードをちらり、そして、諭吉札をざっと十枚ほど指を滑らせるように見せた。
「ってことらしいから、ちゃっちゃと覚悟決めよっか、向日葵。覚悟決めるも何も、どうせ何も起こらずいつも通りだろうけどね」
パンッ。
そう、莉紅が向日葵の肩を叩いた。そんな追い打ちに向日葵はふわんと弱音を吐きつつも、
「うあわ、そんなぁ……」
数秒の沈黙の後、
「でも、私、行く!」
と、やけに真剣な面持ちで、首を縦に振った。
「「はぁ、やれやれ」」
二人は口を揃えて溜め息をつくのだった。
(うぉぉ、健気ぇぇ。かわいいわやっぱ、向日葵)
(心洗われるわね……。私とカレとの付き合いが、如何に泥臭くて所帯染みてきてるか分からされるわぁ……。ないわぁ、あいつ。でも、好き!)
と、いう風に、心境はこんなであった訳だが。
愛され向日葵は、保護者二人を伴って、既に店の奥へと消えていた隼人たちを真近でストーキングする為に道路を渡るのだった。
「お帰りなさいませ、おかめお嬢様。お連れになったお嬢様方は、当店は初めてでしょうか?」
店の入口のダークブラウンの木組みの通路を通って、左に曲がり、右手のカウンター越しに三人はそう声を掛けられた。背筋が真っ直ぐしていて、しっかりとした体つきの、白髪だが決して禿げてはいない、それでいて目元は優しい感じの、上品な執事風のおじいさまが、渋柔らかい声で三人に話し掛けてきた。
「はいっ!」
「ここ、そういう店なのか……。あぁ、初めてです」
向日葵は空回り気味に元気に、莉紅は唖然とした後に面倒臭そうにも丁寧にそう答えた。そして、残ったおかめはというと、
「ちょっと今日は急いでるから、手直に済ませたいの。だから、説明は私がしとくので、注文、これとこれとこれ、お願いするわ」
と、二人の分の注文も含めて、レモンハーブティー、ダージリンチェリーティー、アッサムブルーベリーティーを注文し、えぇぇ、という感じの反応をしている二人を急かす。
飲み物が渡されるまでに少しばかり時間があったのと、向日葵が少し納得いかない感じだったのを見て、おかめはこんな風に
「目的を忘れちゃダメよ。私たちは、ここに、何を、しにきたのか。ほら、向日葵ちゃん、言ってみて」
向日葵を諭した。向日葵はそう言われて舞い上がった気分が地についたようで、
「隼人くん……、追い掛けて……」
凹んでしまう。まるで母親に怒られる小さな子供のような反応。そうやって、俯いて、詰まり気味にそう言った。だから、優しく背中を後押しする。
「ほら、復唱! 今度ははっきり。でも大声じゃダメよ」
「隼人くんを追って、ここに来たの!」
「はい、よくできました」
向日葵はそんな風に素直だから。
ナデナデ。
おかめは向日葵の頭を笑顔で優しく撫でまわすのだった。
「えへへ」
向日葵はそんな具合に嬉しそうに笑っている。そしてやっと、
「茶番なんてしてないで、さっさと行くぞ」
莉紅がそう突っ込んで受付の側を見たことで、
「お嬢様方、節度を弁えて、憩いのひと時を御愉しみください」
と、そんな茶番が終わるまで待ってくれていた受付から釘を刺されながら飲み物を渡された。それを受け取り、先へ進んでいく三人を、受付は頭を下げて見送るのだった。
三人は隼人たちの姿を捉えられて、尚且つ、隼人たちに気づかれ難いであろう位置を探す。おかめのお蔭で、位置取りはあっさり済んだ。受付から進んで、客席の並ぶ空間に出て、すぐさま右に曲がって、進んだ先の角。
「ちょっとそこ、合流させて貰ってもいい? ちいちゃん」
「おかめちゃん、久しぶりね。お友達も一緒みたいね、一人はボーイッシュで、一人はとってもちっちゃくて、かわいぃわね。私はちい。貴方たちのお名前は?」
知り合いという名の肉壁を確保するという方法で。おかめがちいちゃんと呼んだその女性は、まさにお嬢様、という雰囲気を纏っていた。
二人はそんなちいちゃんとやらにすっかり呑まれてしまっていた。
袖が二の腕辺りまでで裾が膝上辺りまでの白地に黒い水玉模様のワンピースを着ている。お腹の辺りには、黒い紐が巻かれているが、きつそうな感じはないスタイルの良さ。背が高く、手足のすらりとした長さが映える。靴は青地に白い水玉模様の白い紐のローテクスニーカー。
髪の毛はゆるふわな感じでありつつも、染めてはおらず、肩に僅かに掛かる長さ。唇はばっちり赤く、ナチュラルメイクな肌は吹き出物どころか、シミそばかす一つなく、白い。それでいて頬は薄く色づいている。眉毛は細く整えられている。目は横長でありつつも少し丸みと少し垂れていて、長くくるっとした睫毛に囲まれて、優しさの中に包容力もあった。顔は当然、小さい。
まさしく、オフのお忍びお嬢様、そんな感じであった。
が、ここまでくると、二人の目から見た彼女は、逆に偽物っぽくも見えてしまうような感じになってきていた。見れば見るほど完璧過ぎて、何だか逆に偽物っぽいと。できすぎている、と。
そう感じて、二人は少しばかり平静を取り戻したらしい。
「八月朔日 向日葵です。八月一日の一日を旧字体で書いて、花の向日葵のひまわりです」
「私は五月雨 莉紅。おかめとは普段から仲良くさせて貰ってるぜ。よろしくな」
先に自己紹介した向日葵が自身のそのやたらにめんどくさい苗字と名前の説明っぽくなってしまったような何だかちょっと変な感じにやっちゃったのを見て、莉紅は割と普通に軽く自己紹介した。




