第45話 GW開け一週間 珍しく彼女といない日の彼の日常はホモホモしくも清らか(ピュア)だった
「偶には男だけというのも善いものだ」
隼人が、そのカフェの中心席でそう言うと、他の席の殆どを占める女性たちの大半が黄色い悲鳴を上げたり、視線を寄せたりと、色めき立った。
平日午後四時頃。遅めのアフタヌーンティーを隼人は二人の男子生徒と共に啜っていた。学校のある町の駅から二つ程右隣の、それなりの都会の、洒落た通りにあるカフェで。
そこは、一回建てで、床と天井が、一辺50メートル程度の広さであり、四方が透明な硝子の壁面で覆われていて、床から天井までの高さが5メートル程度の、何だか、近未来的な建築様式のカフェだった。尚、四方の硝子は、外から中は見えないが、中から外は見える、マジックガラスである。
床が無垢木のフローリングで、天井が、真っ白な漆喰であるから、サイバーな感じは殆どしない意味での近代的である。
そして、椅子が無く、全席立ち席であるというのと、席が決まっていなくて、移動自由であること、机が、よく分からない植物の葉でできていることなど、雰囲気も店内ルールも独特だった。
店員は受付にしかいなくて、飲み物は入るときに買う方式。返却はセルフで、建物から出るときに返却する方式になっており、ちゃんと返却すれば、入口で買った飲み物代に含まれていたデポジットが支払われるようになっている。
そんなだから、客層は女性ばかりだった。そして、値段はそうおかしい位には高くない、具体的には、300ml程度のグラス一杯程度で凡そ、300円~800円程度なので、女子学生なども訪れる。
だから、視線が物凄い。酷く目立っていた。隼人含めた三人は。よりによって、その建物の中央に位置するテーブルを三人で占有しているのだから。隼人と共にいる二人の男子生徒も、隼人と同様落ち着いたものである。そして、隼人同様、隼人の今の発言をそういう目で見ていない、この場で唯一の集団であった。
「うん、そうだね」
隼人といる二人のうちの一人、犬江が、そう、嬉しそうに賛同するのだから余計に場の熱気は高まる。周囲の者たちの興奮によって。
バタン!
バタン!
プシャァァ!
・
・
・
椅子が倒れる音や、鼻血の吹き出す音など、様々なマズい効果音が聞こえるが、三人は全くそんなものにはお構い無しである。
おしゃれな女性や、美人、かわいい子など、結構な割合で紛れているのに。だが、割とそれも当然かも知れない。彼らは、別に、そんな女性たちに声を掛けられてはいないのだ。厳密には、女性たちは、声を掛けたくとも、掛けられない。三人の間には、何か、世界があったから。三人だけの世界が。濃厚な、美しい、世界が。
女性たちの心中で一つ、一致していた。この世界を壊したくない、と。野生風味、爽やか美麗、ちっちゃかわいい、の、三者三様である。だからこその一致である。女性に好まれる三種が揃ったからだ。
そして、そんな目で見られていることを一切気にしない三人も、自分たちの団欒をいつまでも続けていたいと思っていた。取り敢えず今のところは。
楽しんでいるのは、隼人だけでなく、三人全員なのだから。その証拠に、
「ふふっ、ふっ」
プシャァァァァアアアア!
残りの一人、象谷がクールに鼻を使って喜びを表現しようとしたら、やるつもりの無かった過剰演出になってしまっていた。
「犬江は兎も角、象谷も、賛同してくれたのだろうか?」
こくん、プシュッ、こくん。
象谷は、その容姿で絶対そんなことしないだろうという行為を以て、鼻血を遮りながら頷いた。直径1メートル程度の丸い無垢な木肌の机の上の、銀色の台座に差された紙ふきんを丸めて詰めていた。
何なのだろうか、この空間は。
そして、こんな空間は、それから凡そ、三時間程度続いた。周りの女性たちを悶絶させきって。尤も、彼らは、団欒を楽しみつつも、話の内容は、おふざけも最初以外碌になかった真面目なものだったのだが。
そして、それが、僅かに残った、三人のこの男たちのカップリングなどに興味のない連中すらも萌えさせることとなる。というのも、隼人が向日葵と一緒にいない今日だからこそできる話が飛び交ったから。そしてそれは、悉く、甘い。
皆、飲んでいる紅茶に砂糖なんて要らないくらいに。その一部始終は、こんな感じである――
ゴクゴクッ、トンッ!
「で、本題だが、今日集まって貰ったのは他ではない。わざわざ、こんな遠くの洒落た店、絶対に学校の男に見られ知られることのない場所を選んだのには理由がある」
と、隼人がその、ガラスでありながら、白い陶器で作られたアンティークカップそのものの形をしていた、カップを一気に空にしてテーブルに音を立てて勢いよく置き、重々しい口調で、そう言った。
ゴクゴクゴク、トッ!
ゴクゴクゴキュッ、トタッ!
「朴木のことだから、次のデートの為だろう? 分かってるさ、ははっ」
「八月朔日さんの為だよね? 今度一緒に行く為の下見とか」
隼人に遅れてほぼ同時にカップを空にして置いた二人は、全く同じ意味のことを、二人なりの言葉でらしく言った。
「……、ち、違うんだが……」
そう言う隼人の顔は困りつつも、照れている。赤くなっている。まるで乙女のように。三人の周囲のテーブルでは、それなりの数の鼻血が飛んだ。
「で、何なのかな、朴木君」
と、一見無邪気な感じに笑いかける犬江は、明らかに分かって言っている。まるで小悪魔のよう。決して少なくない数の鼻血が舞い、人が倒れる音がちらほら。
「……ぅぅ、認める。その通りだ。だが、理由は、それだけじゃない。そういうことだ。……勘弁してくれ……。こういうことを口にするのは苦手なんだ。これでも覚悟するのに数日掛かったんだ。お前たちのような、信頼できる奴に相談すると決めるまでに、だぞ?」
開き直った隼人は素直だった。素直過ぎて眩しいくらいに、
「向日葵、かわいいからな。今でも、動悸が抑え切れん。俺の悩みと言うのはな、俺、未だ向日葵と付き合ってないってことだ」
砂糖をふりまいた。周囲の目が暖かくなってきたことに、彼らは気付かない。
「いや、知ってる。朴木はそういう奴だって」
「朴木君も、八月朔日さんも、そういうの言い出せないタイプだよね、見てたら分かるよ。君たち、付き合ったら開き直ってもっといちゃつくか、逆に落ち着いて、恋人通り越して夫婦感出るかどっちかだと思うし」
何だ、そんなことか、とでも言いたげな二人。呆れて溜め息でも吐くように各々そう言った後、
「……」
隼人は黙りこくる。一人顔芸するかのように、葛藤する。
告白なんて、恥ずかしくてできない、それに、自分なんかでは向日葵の彼氏になるなんて畏れ多い、でも今のままの良く分からないなあなあじゃあ駄目な気がするし、大手を振って自分のカノジョは向日葵だと言って堂々としたい、とでも言ってるかのよう。それが、二人から見た、隼人の顔芸の際の心境の分析であった。
「じゃぁ、付き合ってしまえばいいだろ? 100%通るだろぉ~」
「じゃ、八月朔日さん待たせたらダメだよぉ」
だから、二人はこう言った。




