第44話 GW開け初日 彼と彼女は、合わせて昼休みの輪を作る Ⅳ
それは、向日葵と同じ位の背丈で、横幅が向日葵の1.3倍位の感じの、太ましくふくよかな女子生徒。大瓶 おかめ。見掛け通りの名前である。
物凄い丸顔であるが、二重顎ではない。顔のパーツ自体は整っていて、痩せれば美人だろう、と言われているが、痩せること自体が想像できないと言われている。
見掛け通り、大瓶は、食のブラックホールである。量的にも、より好みしないという意味でも。尚、彼氏持ちである。逆に物凄く痩せていてのっぽで、まるで病人のような感じの、
ガシッ。ギュゥゥ!
「痛ぃぃ、たたたたたたた!」
「おかめちゃん、そろそろストップ。カロリー制限、三ヶ月後への僕への誕生日プレゼント、忘れたとは言わせないよ」
今後ろから、大瓶の脇腹の肉を抓って制止して見せたのが、その彼氏、枯枝 尖骨である。こうされたときだけ早口になって痛がる大瓶と、意地悪そうな目付きをした、枯枝。卑屈そうな目をしていて、性格も一件そんな感じに見えるが、実のところそうではない。
「でもぉぉ、ちょっとくらいならぁぁ~」
「うぉおおお、と、止まれ、この、デブゥゥ、だから太るんだろうがぁぁ、止まれやぁあああ……」
ズルルルル、ズズズズル――
うきうき大瓶に泣きベソ暴言枯枝引き摺られていく。そして、
「うふっ。大丈夫ぅ~でしょ~? ホネくんが~、最後の一か月で追い込んでくれるでしょ~?」
ズルルルル、ズルルルル、スルゥッ……。尖骨の手は消沈するかのように力を失くし、離れた。
「あ、あぁ……。はぁ……、僕の、負け、だよ。情けないな……僕」
と、泣きそうな感じに崩れ落ちる。最後に食欲を抑えきれない大瓶でなく、自分を情けないとこう、周りにそれなりの数の人がいる中で言えてしまう辺り、卑屈そうで、卑屈でないのだ。
枯枝の暴言は、人を傷つける為のものでなくて、自身が泥を被るつもりで相手を鞭打ち後押する為の、自為でなく、他為のものなのだから。
大瓶と枯枝の関係は、小学校高学年から恋人として続いているのだし、ここ最近は、ずっとこんな有り様なのだから、目にした者たちは、誤解することは無い。
その証拠に、いつものように、集まっていた者たちの数人、男女混じりで、そんな尖骨を慰め励まし始めたのだから。
向日葵と隼人程のものとは違って、甘々ではないが、また別の種類の、微笑ましい光景であった。
「あぁぁ~不思議な味だけど、美味しかったぁぁ~」
「おかめちゃん、ぐぅぅ……」
「ほら、泣くな……。お前はよくやったさ……」
「おかめちゃん、彼氏のこと、泣かせ過ぎぃ……」
「大瓶、いつもありがとうな」
「い~のよ~。こんな不思議な味のお弁当なんて、朴木君の~だけぇぇっ~」
「おかめちゃん、何かそれなんだかなって気分なるよぉ……」
「向日葵ちゃん、何言ってるの~? まるでぇ~、いや、何でもないわよぉ~」
「え、何、何? 何なの?」
「何でもないわよぉ~」
・
・
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と、いう風に、お開きの寸前が一番賑やかなのが、隼人と向日葵を中心としたお昼のお弁当の集まりだった。さて、向日葵が想定していた以上にどうして、隼人の評判が上方修正されているのか?
答えはすぐに分かるもので、言われれば納得できる類だろう。ご都合主義云々は置いておくとして。割と単純で、見方によっては世知辛い。
彼らの集まりが、リア充の集まりであるからだ。
集まった者たちは、中庭で分かれる。ずるずるぞろぞろ、群れて邪魔になるのを防ぐ為。集まった全員が割と、そういう感じで障害物兼公害になるのを嫌がる分別があったから。
それともう一つ。
「じゃ、朴木君、また放課後、ねっ」
「ああ」
変にそこで留まったり、二人の時間を絞り出すように捻出しようとしたり、いい雰囲気になったりせず、唯それだけで、あっさりとまるで何事もなかったかのように分かれていく向日葵と隼人。
これを見る為だった。
向日葵と隼人。この二人の関係は、とても近くて、とても遠い。繋がりそうで、繋がらない。だが、遠く遠く離れもしない。付かず離れず。
それはまるで、昭和以前かと錯覚するかのような、恋愛の、形。
わざわざ、その余韻すらもしっかり味わうが為に、彼らは、二人とは違う方向に散るように自然にその場から離れていくのだから徹底されている。
だが、それだけのことをする価値が、二人の世界を眺めるには、あるのだ。
コト、コト、――
隼人は振り向かない。また放課後会えると信じているから。向日葵が隣にいることが失われることなどないと信じているから。それが自然と無意識に感じているから。
コトリ、コトリ、――
向日葵は振り向かない。また放課後会えると信じているから。隼人が隣にいることが失われることなどないと信じているから。それが掛けがえなくて、失うなんて考えられないし、考えたくもないから。
同じようなことを考えているようで、少し違う。二人は、それぞれ、別の個なのだ。同一でないのだから、当然である。だが、それに大概の者は気付かない。気付けない。そもそも、違和感すら感じず、妄信している。相手に自分を分かって貰える、相手のことが全て分かる、と。
当然、向日葵と隼人は気付いていない。だが、今はきっと、それでいい。互いに、今見えていない何かが見えてきた、気付いたときに、それに向き合えばいいのだから。
昼が終わってからの二人にとって、残りの授業の過ぎる時間は早かった。隼人は向日葵の昼の撫で心地と、手に残った残り香という役得でいつものように上機嫌で快適な時間を過ごしたし、向日葵は、隼人に撫でられたときの感覚、熱を反芻するかのような夢を見て、つまり、授業中ぽかぽか寝ていたからだ。
チャイムが鳴ってその日最後の授業が終わり、HRが終わり、席を立つ。それはあっという間で、
「待たせたな、向日葵ちゃん」
「今来たとこ」
図書室の前辺りで待っていた向日葵に合流する。次の日からの、GW明けの定期テストの勉強を共にする為に。教える人、隼人。教わる人、向日葵。
「おっ?」
すっ。
隼人が、向日葵の左口元少し下辺りに右手人差し指を伸ばし、触れた。
「っ! ……」
突然のことに、向日葵は赤面し、ゆで上がったかと思うと、固まる。
ねとっ。
右手人差し指と親指を擦り、離すと、張る、糸。それは、向日葵が授業中寝ていた証拠。そして、隼人は向日葵にそれを見せながら言う。
ねとっ。
「向日葵ちゃん……。寝てた……? ……ん? 向日葵ちゃん?」
声を掛けるが、返事が返って来ず、固まっていることに、隼人は焦った。表情は依然固まったままであったが、向日葵の目は潤み始めていた。鈍感な隼人なら、そりゃ、誤解する。
「あっ……。す、すまん……」
と、謝り、頬を染める隼人。
自分がやってしまったことが、度を過ぎたスキンシップの一種? のようなものであると気付き、焦る。物凄く焦る。そして、手持ちのハンカチで右手人差し指と親指をしっかり拭った隼人は、
ギュッ。
「済まん……。不安にさせて……。怖かったよな……。ごめん……」
何故か抱き着いて、涙を流しながら謝罪する。とち狂った行動。隼人なりに理はあるとはいえ。周りから見ても、何故そうなる、というような行動。
ここは図書館前。当然、見られている。上級生が多い。隼人の悪い噂の方が強い。そして、また、評判は悪い方に片寄る。まぁ、それが普通の反応だ。
だが、二人の世界を作ってしまった二人には、もう、割とそんなのどうでもよく、関係無かった。




