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すれちがい、恋初め、恋結び、 ~ほろ苦くも甘い初恋~  作者: 鯣 肴
第三章 並んで歩く彼と彼女。それはとても心地良い距離。だけど、度を越して心地良すぎた。だから再び浮上する最初の出会いの特異さが、心地良さを依存と疑わせる。

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第43話 GW開け初日 彼と彼女は、合わせて昼休みの輪を作る Ⅲ

「おいおい、朴木ぃ、俺は擦ってくれないのかよぉ~」


 と、隼人の肩を叩いてきたのは、もう一人の男子生徒。隼人に匹敵する程の大柄ではないが、数センチ縮めただけのような、似たような体形で、それでいて隼人とは顔付きが全く違う、その巨漢が、隼人の弁当を摘まんだもう一人の男子生徒、像谷ぞうや しゅうである。


 その顔付きは、隼人とは違って、爽やかで、矢鱈に女受けする顔をした、人当たりの良い、所謂イケメン。甘いマスクは、爽快な風や煌びやかな輝きを纏っているかのような幻影を、見る者に抱かせる程。


 上は爽やかイケメン。下は、筋肉の鎧を纏ったような格闘家さながらな肉体。顔から上と下で、印象が違う、妙な男である。


 像谷目的で集まってきていた女子生徒はかなりいた、というか、殆どそうだった。だった、ということから分かるように、以前はということである。今はそういう類の女子生徒はもう一人も残ってはいない。


 こっちも犬江同様、ホモホモしくボディータッチ多用なスタイルであったが、二人とも、ホモホモしさのタイプが違った。


 こっちは、兎に角、暑苦しいのだ。顔面補正を加えてすら、消し切れない暑苦しさ。むさ苦しい男汗の臭いが漂いそうな妙な熱気。だから象谷は正に、残念イケメンと言うに相応しかった。


「おっと、それは悪かったな」


 さすり、さすり、すり、すり。


 そこで隼人が一切の躊躇なく、邪心無く、撫でてしまうものだから、益々、薔薇でも咲くかのような絵面が完成してしまうのだ。


(朴木君、うん、い~よ、とってもいい。でも、でもね、うん、やっぱり、私が撫でて貰った方が!)


 割とそっちも大丈夫な向日葵ではあったが、そうやって撫でられるのは自分であった方がもっといいなと思い、すっと、更に近く、隼人の正面数センチに位置を変えようとしたのだが、


(うぅ、恥ずかしいよぉ……)


 俯いて真っ赤になって、結局、腰を上げただけに留まって、それ以上動けず仕舞い。


「っと。像谷、ちょっと退いてくれないか」


 隼人は囁く。他の者たちには聞こえない位小さく。


「っと、()()()()()()。残念」


 そう、微笑みながら像谷は返すが、隼人はその意味を解しない。


「? 何がだ?」


 首を傾げそう言うのだから。そして、


 さすり、さすり、さすり、さすり――――


 撫でる撫でる。前の二人にそうするよりも優しく丁寧に、撫でる撫でる。背中を撫でる。その大きな手で、優しく優しく撫でる。


「向日葵ちゃん。お腹でも冷やしたのかぁ? 大丈夫かぁ?」


 隼人の自然と他の誰に対してよりも優しく出た声。それは、隼人が向日葵に対しての壁がこの一か月で薄れていったことと、こうやって集まっている周りの者たちの誰もが一切からかったりしないからこそのシチュエーション。


「……、だい、じょぶ……」


(ふふっ、ありがと、朴木君。ふふふ。幸せぇぇ~えへへっ)


 依然俯いたまま、撫でられながら、向日葵がそうやって舌足らずに答えるさまが、何とも。それは、まるで、二人の世界、暖かな光景。砂糖ドバドバ甘々な光景。


 互いに意識していないようで意識していて、恋は意識していない。卑猥さなんて微塵もない。だからこそ、それは、映える。


 二人以外の周りの誰もが、声を出さず、暖かな目で見守っている。微笑ましく向日葵を見守っていたり、男らしくも鈍感で優しく外さない隼人に呆れつつも感心したり、と、そんな甘々な様子を肴にしながら白飯をほおばっているのだった。


 当然、隼人は向日葵のその気持ちの根本には気付かない。向日葵は意識はしてるだろうが、きっとそれが恋とは気付いていない。だが、きっと、それでいいのだ。そういう二人だからこそ、周りはそうやって、見守りたくなるのだ。


 キンコンカンコーン、コンキンキンコーン、キンコンカンコーン、コンキンキンコーン!


 予鈴が、鳴った。甘い空間は、砂糖なひと時の、それが一先ずの幕切れ。だが、もう少しだけこの話は続く。






「っと、そろそろ戻らないと不味いな」

「……、みんな、そろそろ、片づけよっ……」


 平然とそう言う隼人と、未だ顔に紅潮の残滓残す向日葵。ほぼ同時にそうやって、違う言葉で似たような、同じような意味合いのことを言うのだから、この二人は、内面的に似通っている。お似合いである。


「向日葵、朴木君の弁当、まだ残ってるけどさぁ、私もさ、今日はチャレンジしてみていい?」


 そう、向日葵に声を掛けてきたのは、向日葵が連れてきた向日葵の女子クラスメイトの一人、五月雨さみだれ 莉紅りく。背が高く、スタイルが良く、胸は悲しくなる位に薄い。向日葵よりも更に色素薄く赤み掛かった茶色の髪の毛、向日葵よりは焼けた薄褐色の肌は地肌というより、唯の活発さの証明。目付きは鋭く、それも納得してしまう程に、男勝りな性格。不良が慕うような、姉御、という感じの。


「何で私に聞くの?」


 向日葵は何故自分に聞くのだと、まるで顔に書いてあるかのような風であり、口元近くに片手指先を当てつつ、可愛らしく首を傾げる。


「だって、何かそうしたくなったんだよ」


 ふっ、とニヤニヤしながら息を吐くように、五月雨は答えた。当然、わざと向日葵に聞いたのだ。五月雨たち、向日葵の周囲の女子生徒、いや、一年全体の女子生徒たちにとって、向日葵と隼人はカップルみたいなもん、というか、実質カップル。そういう扱いなのだから。


 一年男子生徒は、受け入れていたり応援したり暖かく見守っている者たちと、認めなかったり僻んだり凹んだりする者たちで割れているが、ここにいる者たちは良感情しか持っていない。悪感情を持っているのは他クラスに集中している。


「じゃ、あたしもぉぉ~」


 と、間延びするような口調で便乗して名乗りを挙げた女子生徒が、もう一人、現れた。

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