第42話 GW開け初日 彼と彼女は、合わせて昼休みの輪を作る Ⅱ
中庭の中央。そこにブルーシートが敷かれ、彼らは大体、数重の途切れ途切れの円を描くように座っている。中央に隼人と向日葵が並んで。他の生徒たちは二人から少し離れて。
中心近くにいる者程、目的が、隼人や向日葵との交流である者たち。輪の外側にいる者程、目的は、異性との交遊。
非常に分かりやすい構図だった。とはいえ、輪の外の方にいる者たちも、中心の二人のことが嫌いという訳ではない。寧ろ好きだ。ちょっと、欲が出ているだけということだ。だから、唯単に邪な思惑ある参加者は、自然と淘汰される。冷たい目で見られて、居心地が悪くなって、追い払うまでもなく、自然といなくなる。
だから、大体、面子は固定されてきた。向日葵の思惑は凡そ最大限の効果を発揮している状態であり、そろそろ、この集まりに於ける意義も、既に薄れてきている。
それでもきっと、
「朴木君、僕、それ貰っていい?」
「構わんぞ、寧ろよく、それに手を出そうとしたものだ」
「じゃ、俺は、これな、朴木」
その集まりは当分無くなることはないだろう。一か月前は想像もできなかった、隼人と、その弁当を仲良く分けて貰っている男子生徒たちとの遣り取りを見て、向日葵はそう安心するのだった。
それに、これは、交流というより、今時珍しい位に純情なお付き合いをしていると思われている隼人と向日葵を優しく見守る会のようなものになっていた。だが、見られていると思われて二人の感じが変になってはいけないので、その中央部に何人か好きに入ることになっていた。
そして、この日、入ったのは二人。隼人と同じクラスの男子生徒である。
「うぐぅ、苦ぃぃぃぃ……。けどうん、うん? おいしい? の、かな?」
そんな、謎のコメントが上がったのは、
最初に弁当の具の一つ、灰緑色の半固形の、一辺2センチ程度の正方形の謎料理を手にして、そんな、変な効果が出ているかのような反応をしたのが、隼人が最も好んでいる男子生徒の一人、というより、隼人に最も懐いている男子生徒の一人である、犬江 昂である。
その子柄で童顔な男子生徒というより、男の子という感じである。そんな犬江の首を傾げる頻度が徐々に増え始め、目の瞳孔の開き具合が大きく目立ち始める。と、謎料理を口にしてから約30秒程度というところで、
「おう……。間違い無く、おいしくない、だ。余りの不味さにお前は錯乱しているんだ、犬江」
がしっ、さすり、さすり。
隼人がAの背中にその手を大きくがしっと当て、優しくさするように撫でる。すると犬江は、
「うぅ、ぶふっ……」
急いで口元を抑え、口から出てくる何かの飛び散りを完全に防いだ。そしてそれを口の外には出そうとはせず、
スッ、
水筒を取り、流し込んだ。
ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、
「ふぅあぁ~。危なかったんだね、僕。ありがと、朴木君っ」
と、子犬みたいに人懐っこく隼人にお礼を言う男子生徒犬江は、女の子以上に女の子らしかった。ショタな美少年、ホモ風味。だけど本人にはその気の無い天然。そちらの趣味がある者たちにとっては、逸材中の逸材だった。
隼人がそんな危険な連中? に襲われていた? 犬江を助けたことで、懐かれたのだと、向日葵は聞かされていた。だが、大概、隼人は人に何か自分が関わること、自分が大きく何かしたようなことについては、かなり小事にして言ってしまうので、余り向日葵はそれを宛てにしていなかった。
そして、最初に犬江を見たとき、向日葵は非常に焦った。まあ、最も、犬江は男友達に飢えていただけで、そっちの気は無いようであると向日葵はすぐ見てとれて安心したのだが。
(この子が私の、一番のライバル……なんだよね……。はぁ……。でも、この子は、そういう気無いみたいで、寧ろ、私のこと応援してくれるんだよね……。隼人君関係で困ったことがあったら、何故か一番相談しやすいのこの子だし……、それにこの子、アレを吐かないんだよね)
「無理するもんじゃぁないぞ」
「無理してるなら自分から食べないって」
「なら、いいが」
そんな犬江の答えに、何処かしら隼人は嬉しそうに穏やかな顔をしながらそう言った。
(初めてのときからずっと。私ですら最初思わず吹き出してしまったあの、隼人君のお母さんの、料理っていうより理科の実験材料みたいな何かとしか言えないようなアレを。慣れたら食べられないことは無いけど、私と違って、この子には食べる理由なんて無い訳だし。で、何でって聞いたとき、叶わないな、って一瞬思っちゃったし)
「ん? どうしたの、八月朔日さん?」
突如振り向かれて、犬江に隼人越しに顔を覗き込まれた向日葵は、
「ふふ……、何でもないよっ」
誤魔化し切れない沈黙を作ってしまいつつも、何とか繕った。頭の中にはもやもやが渦巻いていたが。
(あざと……かわいい……。私より、ずっと……。あの時の答え、今でもよく覚えてる。『何も、お弁当を分けて貰うっていうのって、味とか、お腹の足しとかだけじゃないでしょ? 僕の場合、朴木君とそうやってバカやるのが楽しいからかな? 朴木君は僕見てもなよなよしてるとか、女々しいとか、ホモとか、男の娘って言わないし)
「どうしたのって言われるの、私よりも、犬江君でしょ? さっきの、目、物凄くヤバい感じだったよ、ふふ」
「大丈夫だよ、だって、朴木君が撫でてくれたから。ありがとね、朴木君」
「構わんさ。お礼を言うのはこちらだからな、地雷処理してくれて」
「地雷じゃないよ、朴木君のお母さんのやさしさだよ」
何だかとても、ゲイな会話。だが、そこにそういう意味は無い。二人共にそういう気持ちは無いと、向日葵は知っている、信じている。
(で、どうしてって聞いてからのダメ押し。『それに、このお弁当、とっても不味いんだけど、美味しいんだ。だって、朴木君のお母さんの、愛情、みたいなものが、見えてくるような気がするんだ。だから、味的にはお世辞にも絶品とは言えないけれど、吐き捨てるなんて絶対にしたくないから』)
そして、内心、不安になる。
(自信失くすなぁ、もう……。でも、)
そして、隼人の方をちらり、と見る。隼人はそれに気付き微笑みを返す。そして、そのままずっと向日葵を凝視はせずに、自然と目線を外し、この人の輪を遠望するかのような目に戻る。
笑おうとしていなくても、隼人は笑っている。本当に楽しそうに。それは学生というよりは、社会人が、学生を眺めて微笑ましく思うかのような表情。それが隼人の本当に楽しい時の顔だと向日葵は知っている。本当に楽しいのだ。この光景に、浸っているのだ。
だから、
(隼人君が楽しいなら、こうやって笑えるなら、それで全部良いこと、みたいな気がする!)
向日葵も心の底から笑ってみせるのだった。隼人のそれを壊すような野暮な真似など、向日葵は好まないのだから。自身の為にも隼人の為にも。
そして、向日葵は全く意識していないが自然と、ここに集まっていて大概暖かい目で見ているだけの周囲の者たちの為にもなっていた。
度々更新途切れてしまいすみません。にも関わらず、読んで下さっている方々、ありがとうございます。数日おきに更新できるように頑張ります。




