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フランチェスコとその友人たち  作者: はまゆう


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第三十四話 主を誇る者

フランシスコは、長いあいだ空を見上げていた。


マッセオは、彼のそばに立ったまま、何も言わなかった。風が二人の間を吹き抜け、木々の葉を揺らす。その音だけが、しばらくの間、森の出口に満ちていた。


人は、沈黙を恐れることがある。何かを尋ねたあと、すぐに答えが返ってこないと、不安になる。相手が怒っているのか、困っているのか、自分の問いが間違っていたのかと考えてしまう。けれど、フランチェスコの沈黙は、言葉を失った者の沈黙ではなかった。言葉があまりにも深い場所から上ってくるために、まだ口へ届いていない者の沈黙だった。その沈黙には、重さがなかった。むしろ、軽やかさがあった。


やがて、フランチェスコはゆっくりと目を閉じた。その顔に、喜びが浮かんでいる。しかし、その喜びは、先ほどマッセオが見たどのような喜びとも違っていた。誰かから褒められたときの喜びではない。兄弟たちに愛されていると知ったときの喜びでもない。まして、自分の働きが認められたことへの誇りでもない。それは、自分が神の御手の中に置かれていることを、あらためて知った者の喜びだった。


フランチェスコは、胸の前で手を組んだ。そして、しばらくのあいだ、何も言わずに立っていた。その姿を見ているうちに、マッセオの胸にも、静かな畏れが生まれてきた。彼は、自分が今、何か神聖なものの前に立っているような気がした。


やがてフランチェスコは、ゆっくりと顔を下ろした。


「マッセオ兄弟」


「はい」


「あなたは、本当に知りたいのですか」


「はい。知りたいのです」


「なぜ私のあとを追うのか」


「はい」


フランチェスコは、穏やかに頷いた。


「なぜ全世界が、私のあとを追うのか」


「はい」


マッセオは、もう冗談めかした表情をしていなかった。フランチェスコの言葉を、ひとつも取り落とさぬように聞こうとしていた。


フランチェスコは、再び空を見上げた。


「それは、私が優れているからではありません」


静かな声だった。その声には、自分の限界を認める者の静けさがあった。


「私に、人々を導く力があるからでもありません」


風が、木々の葉を揺らした。


「私が美しいからでもありません。学識があるからでも、身分が高いからでもありません」


そこで、フランチェスコは一度、言葉を切った。


「私には、そのようなものは何もないのです」


マッセオは黙って聞いていた。彼は、フランチェスコの言葉が深く沈んでいくのを感じていた。


「私が自分の中を見つめるとき、そこに見えるのは、神の恵みにふさわしい人間ではありません。弱く、愚かで、罪深く、何度も同じ過ちを繰り返す者です」


フランチェスコの声には、悲しみがなかった。自分を卑しめている者の声でもなかった。ただ、神の前で自分を正確に見ようとする者の、静かな真実があった。それは、自分を愛する者の自己弁護でも、自分を嫌う者の自己否定でもなかった。ただ、そこにあるものを、そのまま見つめるということだった。


「私は、善いことをしたから神に選ばれたのではありません。正しい人間だったから、神の御手に置かれたのでもありません」


彼は、自分の胸に手を当てた。


「神が私を見られたとき、私の中に、誇ることのできるものは何もなかったのです」


マッセオは、わずかに息を呑んだ。その言葉の重みが、彼の胸に響いた。


フランチェスコは続けた。


「神の御目は、すべてをご覧になります。人が人の前に隠しているものも、本人が自分から隠しているものも、神の御目からは隠れることがありません」


朝の光が、フランチェスコの顔を照らしていた。


「その御目が、罪人たちの中から私をご覧になった」


彼は、ゆっくりと言った。


「そして、私よりも卑しい者を見いだされなかった」


マッセオの表情が変わった。その言葉は、フランチェスコの謙遜が、単なる言葉遊びではないことを示していた。


「私よりも力のない者を見いだされなかった。私よりも大きな罪人を見いだされなかった」


「兄弟……」


マッセオが口を挟もうとした。しかし、フランチェスコは首を振った。


「聞いてください。これは、私が自分を低く見せようとして言っているのではありません。私は、自分がどれほど貧しい者であるかを知っているのです」


彼は、まっすぐにマッセオを見た。その目には、深い真実が宿っていた。


「神が大きな御業をなさろうとされるとき、強い者をお選びになれば、人々はその力を見て、その人を称えるでしょう」


マッセオは、黙って頷いた。


「美しい者をお選びになれば、人々はその美しさを見つめるでしょう。賢い者をお選びになれば、人々はその知恵を称えるでしょう。身分の高い者をお選びになれば、人々はその家柄を敬うでしょう」


フランチェスコの声は、次第に熱を帯びていった。それは、自分自身に言い聞かせるような熱だった。


「けれど、神は、世が称えるものを持たない者をお選びになった」


彼は、自分の衣を見下ろした。粗末な布。擦り切れた裾。土のついた足。それは、彼のすべてを物語っていた。


「この私をお選びになったのです」


マッセオの目に、驚きが浮かんだ。


「なぜなら、人々が私を見たとき、私自身を誇ることができないようにするためです」


フランチェスコは、両手を広げた。その仕草は、すべてを差し出すかのようだった。


「私の力だと言うことができないようにするためです。私の美しさだと言うことができないようにするためです。私の知恵だ、私の身分だ、私の徳だと言うことができないようにするためです」


森の中に、彼の声が静かに響いた。


「人々が私を見て、それでもなお何かを見いだすなら、それは私の中にあるものではありません」


彼は、胸の前で手を組み直した。


「神が、私の貧しさを通して働いておられるのです」


マッセオは、じっと彼を見つめていた。その目には、理解と驚きが混ざっていた。


「だから、兄弟たちが私のあとを歩くのだとすれば、それは私に従っているのではありません。私を通して、神へ向かっているのです」


その言葉を口にしたとき、フランチェスコの顔には、ほとんど苦しみに似た真剣さが浮かんだ。


「もし彼らが、私のことを偉大な者だと思うなら、私は恐れます。もし彼らが、私の言葉を私自身のものだと思うなら、私は悲しみます」


「なぜですか」


「彼らの目が、神から私へ移ってしまうからです」


フランチェスコは、しばらく黙った。その沈黙は、言葉よりも多くのことを語っていた。


「私は、道ではありません。ただ、道の上に置かれた小さな石です。人が私につまずくことなく、神へ向かって歩いていけるなら、それで十分なのです」


マッセオは、深く息を吐いた。フランチェスコの言葉は、ひどく厳しかった。自分自身を、あまりにも低い場所へ置いている。けれど、その低さには、暗さがなかった。それは、神の偉大さを見上げるための低さだった。自分が小さくなるほど、神の恵みは大きく見えた。自分が弱いほど、神の力は明らかになった。自分が何者でもないほど、神がすべてであることが、はっきりとわかった。


「マッセオ兄弟」


フランチェスコは言った。


「私たちは、神の御前で何を誇ることができるでしょう」


マッセオは、すぐには答えられなかった。その問いは、彼自身の心に深く突き刺さった。


フランチェスコは、優しく微笑んだ。


「善い行いですか」


「いいえ」


「祈りですか」


「いいえ」


「貧しさですか。従順ですか。兄弟愛ですか」


マッセオは、首を横に振った。それらすべてが大切なものであることを、彼は知っていた。しかし、それらを自分の手柄として神の御前に差し出した瞬間、それらは別のものに変わってしまう。徳でさえ、誇りの道具になり得る。そのことに、彼は初めて気づいた。


「私たちにある善いものは、すべて神から来ます」


フランチェスコは言った。


「私たちが神を愛する心も、祈る力も、誰かを赦す力も、貧しい者のそばに座ることのできる心も、すべて神が与えてくださったものです」


彼の目に、柔らかな光が宿った。


「だから、もし誰かが誇るなら、主を誇りなさい」


その言葉は、森の朝の空気の中へ、静かに広がっていった。


「人が私のあとを追うのだとすれば、それは私が偉大だからではありません。神が、弱い者を通して御自分の慈悲を示されるからです」


フランチェスコは、深く頭を垂れた。


「すべての誉れと栄光は、永遠に主のものです」


マッセオは、何も言えなかった。目の前にいるフランチェスコは、世の人々が語るような偉大な指導者ではなかった。自分の力を知り、それを人々に示そうとする者でもなかった。彼は、自分の中に何もないことを知っていた。そして、何もない者の中に、神がすべてを満たしてくださることを知っていた。


そのとき、マッセオはようやく悟った。人々がフランチェスコのあとを追うのは、フランチェスコが自分を大きく見せるからではない。むしろ、彼が自分を完全に小さくしているからだった。自分の名を消し、神の名だけを残そうとしているからだった。


マッセオは、深く頭を下げた。冗談から始めた問いは、いつのまにか、自分自身の心を照らす問いになっていた。自分は、何を誇っているのか。自分の祈りを誇ってはいないか。自分の理解を誇ってはいないか。人に親切にしたことさえ、自分の善さとして心の中に数えてはいないか。


マッセオは、胸の奥にある小さな誇りの数々を思い出した。それらは、フランチェスコの言葉を聞く前には、ほとんど見えなかった。しかし今は、朝の光に照らされた塵のように、ひとつひとつ浮かび上がっていた。


フランチェスコは、そんなマッセオを責めなかった。ただ、彼の肩へ静かに手を置いた。


「さあ、戻りましょう」


「はい」


「兄弟たちが待っています」


二人は並んで、ポルツィウンクラへ向かって歩き始めた。フランチェスコは先を歩かなかった。マッセオも、後ろへ下がらなかった。二人は同じ歩みで、朝の光の中を進んだ。


その背後で、森の木々が静かに揺れていた。そこには、二人の言葉を聞いていた者は誰もいなかった。けれど、神だけは、すべてを聞いておられた。そして、その言葉を、永遠に記憶しておられた。


---


*この章は、フランチェスコの謙遜の最も深い根源に触れている。彼は、自分に誇るべきものがないことを知っていた。その「何もない」という事実が、彼の最大の強さだった。彼は、神の恵みが何もないところに最も輝くことを知っていた。彼のあとを追う人々は、彼の人格や能力に惹かれたのではなかった。彼の「空っぽさ」に、神の満ち満ちた恵みを見たのである。それが、彼の最も深い魅力だった。そして、その魅力は、彼自身の努力によるものではなかった。神が、彼を通して働かれたからである。*

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