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フランチェスコとその友人たち  作者: はまゆう


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第三十三話 なぜ、私のあとを追うのか

マッセオは、しばらく黙っていた。


フランチェスコの前に立ちながら、胸の中で何度も言葉を選び直しているようだった。彼の指先が、木の幹の表面をそっと撫でていた。何かを確かめるように。何かを待つように。


けれど、やがて彼は、いつもの穏やかな調子で口を開いた。その声には、真剣さと、親しみとが混ざっていた。


「私は、ひとつ尋ねたいことがあるのです」


「はい」


「あなたは、私の問いにお答えくださいますか」


「私に答えられることであれば」


フランチェスコは微笑んだ。その笑顔には、森の中で祈りを終えた者の静けさが残っていた。彼の目は穏やかで、そこにはまだ森の光が宿っているようだった。


マッセオは、その表情を見つめた。これから自分が尋ねることによって、フランチェスコを傷つけるつもりはなかった。まして、彼を辱めようとしているのでもない。ただ、知りたかった。フランチェスコが、自分自身をどのように見ているのか。人々が彼を慕い、彼の言葉を聞くために集まり、彼のあとを歩いていくとき、そのことをフランチェスコはどう受け止めているのか。それを知りたかったのである。


「なぜ、あなたのあとを?」


マッセオは、先ほどと同じ言葉を、今度はゆっくりと言った。その言葉の一つ一つに、重みを込めて。


フランチェスコの眉が、わずかに動いた。


「なぜ、私のあとを追うのか、ということですか」


「そうです」


「誰が、私のあとを追うのでしょう」


「兄弟たちです」


マッセオは答えた。その声には、確信があった。


「この修道院にいる兄弟たちだけではありません。遠くからあなたに会いに来る人々もそうです。あなたの話を聞きたいと言って訪ねてくる者。あなたとともに歩きたいと言う者。あなたの言葉を聞いて、家を捨て、財産を手放し、修道服を身にまとった者」


フランチェスコは黙っていた。彼の顔には、驚きも戸惑いもなかった。ただ、静かに聞いていた。


「あなたが町へ行けば、人々は道へ出てきます。病に苦しむ者も、貧しい者も、罪に悩む者も、あなたのそばへ来ようとします。あなたが何かを語れば、人々は耳を傾けます。あなたが祈れば、皆、祈り始めます」


マッセオは、少し首を傾けた。


「それなのに、あなた自身は、まるで何も起こっていないかのように振る舞っておられる」


「何も起こっていないのです」


フランチェスコが静かに答えた。その声は、まるで子供のように澄んでいた。


「私には、何もありません」


「本当に、そう思っておられるのですか」


「はい」


答えはあまりにも早かった。マッセオは、思わず笑いそうになった。しかし、それは嘲笑ではなかった。むしろ、その潔さに感心するような笑いだった。


「では、もう少し詳しく尋ねましょう」


「どうぞ」


「なぜ、全世界があなたのあとを追うのでしょう」


フランチェスコは、マッセオの顔を見た。その目には、真剣な光が宿っていた。


「全世界が、私のあとを追う?」


「そうです」


「それは、少し大げさではありませんか」


「大げさではありません」


マッセオは、今度は笑わなかった。彼の声には、深い真実が込められていた。


「あなたがそう思っていないだけです」


風が森から吹き抜けた。フランチェスコの衣の裾が揺れた。マッセオは、声を落とした。


「あなたは、どこへ行っても人々の目を引きます。人々はあなたを見ます。あなたの話を聞きます。そして、あなたに従おうとします」


「それは、私ではありません」


「では、誰ですか」


「神です」


フランチェスコは、迷いなく答えた。その答えは、まるで最初から決まっていたかのようだった。


「人々が見ているのは、私ではなく、神が憐れみをもって働かれる場所なのです」


「それでも、その場所はあなたの中にあります」


「私の中には、罪しかありません」


マッセオは、黙って彼を見つめた。フランチェスコは、決して自分を美しく見せようとしているのではなかった。謙遜な人間らしく振る舞おうとして、あえて自分を低くしているのでもない。彼は、本当にそう信じていた。自分の中を見つめたとき、そこに最初に見えるのは、神の恵みではなく、自分の弱さだった。


祈りの途中でさえ、心は何度も散った。人々の前で語りながら、心の片隅に、自分の言葉が届いてほしいという願いが生まれることがあった。誰かに感謝されれば、喜びが湧いた。その喜びの中に、自分が役に立ったのだという思いが混じることもあった。兄弟たちに愛されれば、嬉しかった。その嬉しさの中に、愛されるに値する人間でありたいという欲望が忍び込むこともあった。


フランチェスコは、それらを知っていた。人の目には見えないものを、自分だけは見ていた。だからこそ、誰かが自分を立派な者として語ると、胸の奥に恐れが生まれた。人々が自分を見ている。その視線が、神ではなく自分に留まってしまうのではないか。自分の姿が、神へ向かう道を塞いでしまうのではないか。そのことを、フランチェスコは何より恐れていた。


「あなたは、美しい人ではありません」


マッセオは言った。


「ええ」


「身なりも、立派ではありません」


「その通りです」


「大きな学問を修めたわけでもありません」


「私は、学問のある人間ではありません」


「高貴な家柄でもありません」


フランチェスコは、少し考えるように目を伏せた。


「高貴な家柄と呼べるものが、私にあるとは思えません」


「それでも、人々はあなたのあとを追います」


「神のためです」


「あなたの言葉を聞くために来ます」


「神の言葉を聞きたいからです」


「あなたに従って、財産を捨てる者もいます」


「彼らが捨てたのではありません。神が、彼らの心を自由にされたのです」


「あなたとともに、貧しさを選ぶ者もいます」


「貧しさを愛する心を与えられたのは、神です」


マッセオは、そこで言葉を止めた。どのように尋ねても、フランチェスコはすべてを神へ返してしまう。自分へ向かってくる問いを、ひとつも自分のものにしない。人々の称賛も、信頼も、愛情も、彼の手の中へ留まることはなかった。フランチェスコは、それらを受け取るたび、両手を開いて神へ差し出していた。


マッセオは、その姿を見ながら、ある種の畏れを覚えた。それは、謙遜という言葉だけでは言い表せないものだった。謙遜な人は、自分を低く語ることがある。しかし、フランチェスコは、自分を語る場所そのものを持っていなかった。彼の中で、自分はいつも神の前に置かれていた。神の光の中で見れば、自分は小さく、弱く、貧しかった。神の慈悲がなければ、ひとときも立っていられない存在だった。


「では、もう一度尋ねます」


マッセオは言った。フランチェスコは顔を上げた。


「なぜ、全世界があなたのあとを追うのでしょう」


その問いが、森の出口に静かに落ちた。フランチェスコは答えなかった。風が止まった。鳥の声も、遠くなったように思われた。彼はマッセオを見ていたが、やがてその視線は、彼の肩越しにある空へ向かった。白い雲が、ゆっくりと流れている。その向こうに、目には見えない神の御顔があるように思われた。


フランチェスコの胸の内に、ひとつの喜びが湧き上がった。それは、褒められた者の喜びではなかった。自分が認められた者の喜びでもなかった。神が、自分のような者を通して働かれるという、その不思議への喜びだった。


フランチェスコは、空を見上げたまま、長いあいだ動かなかった。マッセオは、何も言わずに待った。フランチェスコの顔には、少しずつ光が満ちていった。その瞳は、目の前の森を見ていなかった。ポルツィウンクラの壁も、朝の空も、そこに立つマッセオの姿も見ていなかった。彼は、ただ神の御前に立っていた。そして、神の御目の中に映る自分を、初めて見つめようとしていた。


その瞬間、森の出口に立つ二人の間に、言葉では言い表せない何かが流れた。それは、問いと答えの間にある静かな空間だった。そこには、すべての理解を超えたものが息づいていた。それは、人間の言葉が届かない場所で、ただ神だけがご存じの何かだった。


マッセオは、それを感じ取った。そして、それ以上何も尋ねなかった。彼はただ、フランチェスコの横顔を見つめていた。その横顔は、朝の光を受けて、まるで別の世界から来た人のように見えた。彼はそこに立っていた。ただ立っていた。それだけで、彼の存在は、すべてを語っていた。


風が再び吹き始めた。鳥が一鳴きした。森の出口の静けさが、少しずつ解けていった。


フランチェスコは、ゆっくりと視線を戻した。そして、マッセオに向かって、静かに微笑んだ。


「さあ、戻りましょう」


その言葉は、すべての問いに答えるかのようだった。


---


*この章は、フランチェスコの真の謙遜がどのようなものであるかを、マッセオとの対話を通して描いている。フランチェスコは、自分に向けられる称賛や関心をすべて神へと還元する。それは、彼が自分を低く見ていたからではない。彼は、自分自身と神を区別することを知っていたのである。彼は、神の器として生きることの意味を、最も深いところで理解していた。彼の謙遜は、自己否定ではなく、自己の真実を見つめることだった。彼は、自分の中にある罪と弱さを知っていた。しかし、その罪と弱さのただ中で、神が働かれることを信じていた。それこそが、彼の霊性の核であり、彼のあとを追う人々が惹かれる理由だった。*

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