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フランチェスコとその友人たち  作者: はまゆう


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第三十二話 森から帰る人

ポルツィウンクラの朝は、いつも静かに始まった。


夜のあいだに冷えた土の上へ、薄い光が降りてくる。礼拝堂の壁はまだ青白い闇を含み、屋根の上では、目を覚ましたばかりの鳥たちが、互いの存在を確かめるように小さく鳴いていた。その声はかすかで、まるで夜と朝の間を縫うように、澄んだ空気の中へ溶けていく。遠くの森からはまだ霧が立ち上り、陽の光がそれを通して柔らかな金色の筋となって降り注いでいた。


修道兄弟たちは、それぞれの務めに向かっていた。


水を汲む者。井戸のつるべを静かに引き上げ、冷たい水を桶に満たす。その水音が、朝の静けさの中でやけに大きく聞こえた。


薪を割る者。斧の刃が空気を切る音が、規則正しく響く。


食事の支度をする者。乾いたパンを砕き、昨日摘んだ野草を洗う。壊れかけた籠を編み直す者。その指先は丁寧で、一本一本の蔓を確かめるように編み進めていた。


誰も大きな声では話さなかった。朝の静けさを乱さぬためというより、祈りの中にある者のそばでは、言葉そのものが慎ましくなることを、彼らは知っていたからである。修道院の朝は、そうした静かな営みの中にあった。


その中に、マッセオ修道士の姿があった。


マッセオは、背が高く、手足がよく伸びた男だった。動作には無駄がなく、顔にはいつも穏やかな表情が浮かんでいた。人の話を聞くときには、まるでその人の言葉の奥にあるものまで受け取ろうとするように、静かに相手の目を見た。その視線は決して相手を試すものではなく、むしろ「あなたの言葉を、私はここでしっかりと受け止めていますよ」と伝えるかのようだった。


神について語るとき、マッセオの声には不思議な力があった。難しい教えを説くわけではない。聖書の言葉を長々と解釈するわけでもない。ただ、彼が語ると、聞く者の胸の中に、忘れていた何かがそっと戻ってくるのだった。それは、神は遠くにおられるのではない。貧しい者のそばにも、病む者のそばにも、迷う者のそばにもおられる。そして、人が自分の弱さを認めたその場所にこそ、神の恵みは静かに降りてくる。そう教えられて育ったわけではないが、その言葉を聞けば、誰もが「そうだった」と感じる——そんな語り口だった。


マッセオがそう語るとき、聞いていた兄弟たちは、誰も反論しなかった。その言葉が正しいからではない。彼自身が、その言葉の中に生きていることがわかったからである。彼の言葉には、彼の人生が伴っていた。その一致が、聞く者の心を動かした。


フランチェスコは、そんなマッセオを深く愛していた。


彼がそばにいると、修道院の空気が柔らかくなった。疲れた兄弟がいれば、マッセオはその疲れを責めず、黙って隣に座った。誰かが自分の罪を嘆けば、すぐに慰めようとはせず、その嘆きが十分に神の御前へ運ばれるまで、じっと耳を傾けた。彼は、言葉で解決しようとしなかった。ただ、その人のそばにいること——それが何よりも大切な支えになることを知っていた。


それでいて、彼は決して重苦しい人ではなかった。


人の弱さを知っている者だけが持つ、明るい冗談をよく口にした。


ある夕べ、食事の席で、若い修道兄弟が自分の焼いたパンを焦がしてしまったことがあった。兄弟はすっかり落ち込み、誰にも見られないように、焦げたパンを自分の器の下へ隠そうとした。それを見たマッセオは、真面目な顔で言った。


「そのパンは、ずいぶん深い祈りを捧げたようですね」


兄弟が顔を上げると、マッセオは続けた。


「火の中に長く留まり、ついには黒くなった。私たちも、あれくらい熱心に祈れればよいのですが」


兄弟たちは笑った。焦げたパンを隠そうとしていた若者も、つられて笑った。フランチェスコはその様子を見ながら、目を細めていた。マッセオの言葉は、決して人を傷つけなかった。笑いの中へ、その人を置き去りにしないからである。


---


その日、フランチェスコは朝早くから森へ入っていた。


誰にも告げず、ひとりで出ていった。森は、ポルツィウンクラから遠く離れてはいなかったが、木々の間へ入ると、修道院の気配はすぐに消えた。人の声も聞こえない。鍬の音も、戸を開け閉めする音もない。枝葉の隙間からこぼれる光と、土の匂いと、風に揺れる葉の音だけがあった。それは、彼にとって最も古い友人のような場所だった。何も語らず、何も求めず、ただそこにあるというだけで、彼の心を静めてくれる。


フランチェスコは、森の奥にある古い樹のそばで足を止めた。そこには、誰かが置いた小さな石の十字架があった。十字架は雨に濡れ、木肌はところどころ剥がれていた。けれど、その粗末な姿を見つめると、フランチェスコの胸には深い安らぎが満ちた。彼は地面にひざまずいた。手を組む。けれど、すぐには言葉が出てこなかった。


祈りは、いつも言葉から始まるとは限らない。神の御前に身を置く。自分の心がどれほど乱れているかを知る。その乱れを、整えようとせずに差し出す。それだけで、すでに祈りであることがあった。フランチェスコは目を閉じた。自分の中にあるものが、ひとつずつ浮かんでは消えていった。


兄弟たちへの愛。貧しい人々の顔。病に苦しむ者の呻き。自分の犯した過ち。まだ捨てきれずにいる小さな誇り。神に愛されたいという願いさえも、ときには自分を大きく見せるための欲望へ変わってしまう。そのことを、フランチェスコは知っていた。


「主よ」彼はようやく、低い声で言った。「私を、あなたの平和の道具としてください」


風が枝を揺らした。


「私が語ることではなく、あなたが望まれることを語らせてください」


木々の間から、細い光が差し込んだ。


「私が人の目に正しく見えることではなく、あなたの御前で真実な者となれますように」


祈りながら、フランチェスコは、自分が神の手の中にある小さな器にすぎないことを思った。器は、自分で水を生み出すことができない。光をつくることもできない。ただ、注がれたものを受けるだけである。もし器の中に水があるなら、それは器の功績ではない。もし光を映しているなら、それは光がそこへ届いたからである。フランチェスコは、そのことを何度も思い知らされてきた。自分には何もない。それでも神は、何もない者を通して、何かを成し遂げられる。その不思議を思うと、彼の胸には恐れと喜びが同時に湧いた。


彼は長いあいだ、そこにいた。鳥の声が変わり、太陽が少し高くなった。森の中の影が薄くなり、朝の冷気が和らいでいった。フランチェスコは、最後にもう一度、石の十字架へ頭を垂れた。


「主よ。私を、あなたから遠ざけるものを、すべて取り去ってください」


それから立ち上がった。膝についた土を払うこともせず、彼は森を出た。


---


森の出口に近づくと、遠くにポルツィウンクラの建物が見えた。白い壁。低い屋根。風に揺れる木々。その向こうから、兄弟たちの声がかすかに聞こえてくる。フランチェスコは歩みを緩めた。森の中で得た静けさを、すぐに失いたくなかった。けれど、修道院へ戻ることもまた、彼に与えられた務めだった。ひとりで神の御前に立つ時間が必要であるように、兄弟たちの間へ戻り、彼らとともに生きる時間も必要だった。人は、孤独の中で神を求める。しかし、神から受け取った愛を、誰かとの間で生きなければならない。それが、彼の確信だった。


フランチェスコは、森の出口で一度立ち止まり、空を見上げた。雲の切れ目から、朝の光がこぼれている。彼は胸の前で十字を切った。


そのときだった。


「なぜ、あなたのあとを?」


背後から声がした。フランチェスコが振り返ると、マッセオ修道士が立っていた。木の幹に片手を添え、こちらを見ている。いつもの穏やかな顔だったが、その目には、いたずらを思いついた子どものような光が浮かんでいた。


「なぜ、あなたのあとを?」


マッセオは、もう一度言った。フランチェスコは、少し首を傾けた。


「マッセオ兄弟。何の話ですか」


「なぜ、あなたのあとを?」


マッセオは三度目に、いっそう大げさな調子で言った。


「なぜ、あなたのあとを? なぜ、あなたのあとを? なぜ、あなたのあとを?」


森の中で、声が木々に反響した。フランチェスコは目を瞬いた。マッセオは、口元に笑みを浮かべている。だが、その笑みの奥には、ただの冗談ではない何かがあった。


フランチェスコは、彼を見つめた。マッセオもまた、黙ってフランチェスコを見返した。朝の光が、二人の間に落ちていた。やがてフランチェスコは、静かに尋ねた。


「それはいったい、何を言おうとしているのですか」


マッセオは、そこで初めて、少しだけ姿勢を正した。森の奥では、風が枝を揺らしていた。祈りを終えたばかりのフランチェスコの前で、マッセオは、これから投げかける問いを胸の中で確かめていた。それは、親しい者にしか許されない問いだった。そして、最も深い謙遜を持つ者にしか、尋ねることのできない問いでもあった。


森の光が、二人の間に静かに降りていた。風が通り過ぎ、鳥が一鳴きした。その問いは、まだ言葉になっていなかった。しかし、その形を成そうとしていた。それは、これから始まる対話の最初の一歩だった。

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