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あなた方の元に戻るつもりはございません!【書籍化】  作者: 火野村志紀


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93.異物(???視点)

「マティス家の人間を殺した……だと?」

「ええ。使用人たちにも逃げられて、よっぽど飢えていたんでしょうね。毒入りのパンを恵んでやったら、美味しそうに貪り食っていたわ。……そのあと、すぐに泡を吹いて転がったけど。ふふ、あははっ!」


 当時の光景を思い出しているのか、シャルロットが愉快そうに肩を揺らす。

 その言葉が耳に届いた瞬間、目の前が真っ暗になるほどの衝撃と、腹の底から焼け付くような怒りがせり上がってきた。


「なんて馬鹿なことをしてくれたんだ! 私はマティス家の人間を殺せなど、一言も命じていないぞ!」

「な、何よ……そんなに怒らなくたっていいじゃない。あいつらは私を見捨てて、自分たちだけ生き残ろうとしたのよ! あんな連中をどう片付けようが、私の勝手でしょ!」


 シャルロットは一瞬たじろいだものの、一切悪びれる様子もなくそう言い放った。

 前世の彼女は、レイオンと結婚してマティス伯爵家の財力を乗っ取ろうと画策した女だ。

 しかしリリアナに感化されたクロードによって本性を暴かれ、家を追放。その後は貧民街へ落ち、惨めにのたれ死んだ。

 今世でも、役目を終えたら早々に処分するつもりでいた。だが今この瞬間、魂ごとこの世から消し去ってやろうかという凶暴な衝動に駆られる。


「伯爵夫妻やレイオンなどどうでもいい! だが、クロードには『マティス騎士団・次期団長』という肩書きが必要なんだ! なのに、家そのものが潰れてしまえば、彼がその座に就くための道筋が消えてしまうだろうが!」

「……肩書き? 道筋ぃ?」


 シャルロッテが煩わしそうに目を細める。


「わけ分からないこと言わないでよ。一ヶ月も寝てたから、まだ寝ぼけてるんじゃないの?」

「一ヶ月……」


 そんなに自分は眠っていたのかと、背筋に冷たいものが駆け巡った。心臓もひどくざわつく。

 この一ヶ月の間に、他にも取り返しのつかない事態が起きているのではないか。

 そういえば、シャルロットは先ほど、もう一つ妙なことを口にしていた。


 アンゼリカがリラ王太子妃の茶会に招かれた。

 それが事実なら、ラヴォントの人生を根本から変質させてしまう恐れがある。


 何も国民全員に、千年前と寸分違わぬ道を歩ませる必要はないのだ。

 名前と人格さえ一致していれば、多少の誤差は許容範囲だ。

 だが、リリアナにゆかりの深い面々だけは、最終的に当時とまったく同じ形に嵌め込まなくてはならない。そうして初めて、リリアナの知る千年前が完成するのだから。

 

「メテオール……ラヴォント……クロード……ネージュ……」

「は?」

「たった数人。数人だけだというのに、何故こうなる……っ!?」


 何故千年かけて続けてきた計画に、今さら乱れが生じた?

 元凶は分かっている。

 あのアンゼリカとかいう女だ。

 あれは恐らく、精霊が向こうの世界から連れてきた転生者に違いない。

 千年前の彼女は、レイオンに誑かされ、飯炊き女のようにこき使われるだけの存在だった。シャルロットに男を奪われた後は『悪食伯爵』に無理やり嫁がされ、玩具のように弄ばれて死んでいる。

 なので、さほど脅威とは見なしていなかった。

 たかが異物一つに、何ができるのかと高をくくっていた。


 ところが、実際はどうだ。

 彼女はマティス伯爵家の権威を地の底まで叩き落とし、あろうことかナイトレイ伯爵領で燃え上がるはずだった動乱の火種まで、跡形もなく消し去ってしまった。

 あの女を野放しにすれば、計画のヒビは広がるばかりだ。

 そう危惧してシャルロットに始末を命じたというのに、この愚か者は失敗した挙句、マティス家を再起不能にする決定打まで作った。

 いや、それだけではない。何か、もっと大きなものを見落としている気が──。


「ちょっと! 何一人でぶつぶつ喋ってんのよ、気持ち悪いわね! 早くアンゼリカを陥れる作戦を考えなさいよ。この私がわざわざ協力してあげてるんだか……らっ!?」


 次の瞬間、シャルロットは凄まじい衝撃と共に本棚へと叩きつけられていた。雪崩のように本が崩れ落ちる。

 衝動的に魔法で吹き飛ばしていたのだと、自覚したのはその直後だった。


「あぐっ……い、痛い……いやっ、誰か……っ!」


 シャルロットが苦痛に顔を歪め、床を這って逃げようとする。

 その無様な姿に少しばかり溜飲を下げながら、背後から髪を掴んで無理やり顔を持ち上げた。


「こ、殺さないで! 謝る、謝るからぁっ!」

「何が悪いのかも理解していない者に謝られても、少しも嬉しくはありませんよ」


 今さら一からやり直す時間など、もう残されてはいない。

 ならば、何が何でも計画を完遂させるまでだ。


「……シャルロット様、あなたに挽回のチャンスをあげましょう。それをやり遂げてくれたら、そのあとは好きにして構いません」

「え……?」


 この女にアンゼリカを殺すことは不可能だ。どうせまた、下らない失敗を繰り返すのが目に見えている。

 ならば、先に他の不穏分子を片付けさせるのが得策だ。

 もっとも効率的で、確実な方法で。

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