90.ただ会いたくて
ララの零した疑問は、まさに目から鱗だった。
前世の記憶を取り戻してからというもの、私は攻略キャラたちの変貌ぶりに驚かされてきた。ネージュに至っては女の子だったわけだし。
だけど、千年前のエクラタン王国をモデルにしたはずのマジラブと、今のこの世界が似て非なるものだとしたら、話はまったく変わってくる。
むしろ問題は、キャラの中身が違うことじゃない。
どうして中身が同じキャラがいるのか。そっちの方が、よっぽど不自然でおかしいのだ。
「確かに奇妙な話だな。それに統一性がない」
カトリーヌが口元に手を当てて、疑問を呈する。
「どのような理屈かは知らないが、外見や名前、役職まで千年前を忠実になぞっているのは分かった。だが解せないのは、何故精神の再現が一部の者に留まっているのかだ。これほど大規模な仕掛けを施せる者にしては、いささか詰めが甘いのではないか?」
「それに関しては、私と写し狐から後ほど説明しよう」
そう言って、ラヴォント殿下と写し狐は目配せをして頷き合った。
「エイボン様は途中で爆発しちゃったけど、エリファスの話には続きがあるんだ」
「命がけで精霊界に行ったけど、結局リリアナには会えなかったって話よね? 確か、彼女をこっちの世界に引き戻すって……」
「そう。要するに召喚するってことなんだけど、普通の精霊でさえ難しいのに女王様なんて絶対に不可能だよ。僕たち神獣が束になって力を合わせても、まず無理無理~」
リラ王太子妃の顔で、写し狐がふにゃふにゃと笑って手を振る。いまいち緊張感に欠ける写し狐の言葉を引き取るようにして、ラヴォント殿下が口を開いた。
「そこはエリファスも承知していたはずだ。だが、寸分の狂いもなく彼女がかつて過ごしたエクラタン王国を作り出すことで、リリアナの魂と国そのものを共鳴させ、強引にこの世界へ引きずり出すことを思いついたのだろう」
「共鳴って、そんなオカルトみたいな……いえ、それよりも……」
リリアナへの執念じみた想い。
千年前の世界の完全な再現。
その二点がぴたりと重なった瞬間、私の心臓は嫌な音を立てて波打った。
「つまりエリファスは、リリアナと再会するためだけに、文字通りエクラタン王国をそっくりそのまま蘇らせた……?」
私の言葉に、カトリーヌの顔が緊張で強張った。
「……にわかには信じがたい話だが、話の筋は通っている。しかし、そんな芸当が本当に可能なのか? そもそもエリファスは千年前の人間だろう。寿命を引き延ばす魔法など聞いたことがないぞ」
「人間の魔法であればな」
ラヴォント殿下が意味深な返しをする。
「エリファスは精霊界に踏み入れた際、望みは叶わず精神と肉体を破壊されたが、代わりに膨大な魔力を手に入れた。彼は治癒魔法を『魂の操作』にまで昇華させ、自らの寿命を延ばすだけでなく、当時のエクラタン王国にいた者たちの魂をこの地に転生させたのだ。千年前と同一の人物として」
理論上可能だということと、実際にやってのけることは全くの別物だ。
それがどれほど途方もない苦行なのか、深く考えなくても分かる。普通の人間なら、確実に心が壊れているはずだ。
……いや。とっくに壊れて振り切れているからこそ、できてしまったことなのかもしれないけれど。
「でも、それって何だかちょっとロマンチックですよね。千年もの間、ずっと好きな人のために人生も魂も何もかも捧げるって、究極の胸キュン案件じゃないですか」
そこらのヤンデレも裸足で逃げ出すようなドン引きエピソードを披露されたというのに、ララは動じるどころかポジティブに解釈していた。前から薄々感じてはいたけれど、うちのメイドの精神が強靭すぎる。
「……まぁ、純愛と言っても差し支えはないか」
まさかのカトリーヌ様まで同調して頷いている。
エリファスの規格外なガッツぶりに絶句している私の方が繊細なんだろうか。数々の乙女ゲーで場数を踏み、ヤンデレ耐性は完備しているはずだったんだけどな。
「い、いや、胸キュンだの純愛だの、そんな悠長なことを言っている場合ではないぞ! 何としてでも、エリファスの企みは阻止しなければならんのだ」
エリファスの恋路を応援しそうな雰囲気になりつつある二人に、殿下がすかさずツッコミを入れる。
そして、お通夜みたいな顔をした写し狐がぼそりと一言。
「召喚魔法を発動したら、この国の人間みんな死んじゃうもんね……」
「「何ぃぃぃーっ!?」」
耳を疑うような事実の発覚に、恋愛脳コンビの悲鳴に近い叫びが室内に響き渡る。
ネージュが起きちゃ……待って待って。今サラッとエグいこと言ったわね、この獣!?




