「神意」2
「神意」2
市内の隠れ家で総督と会う拓。
怪我は想像よりひどい。
拓の決意。そしてBJの思惑と考えとは。
***
サンフランシスコ フィッシャーマンズワーク 午後10時
フィッシャーマンズワークの倉庫に案内された拓。このあたりは名前の通り元々魚市場で居住に適した建物は多くない。
もう漁師も魚屋もなくなって9年だ。魚臭さはなく、やや湿気が多い。
「このあたりは他に生存者も住んでいない。その割に目立ちにくくて水は使えるんだ。だから隠れ住むには適していた」
ホークが歩きながら説明する。
「怪我人にはあまりいい場所じゃないけど」
「見つかるとヤバいからな。今いる生存者が皆<救世主派>ってワケじゃねぇーけど、頼りになる人間はいない。誰も彼も揉め事は御免だって顔でそっぽ向いている、そんな感じだ」
「あまりいい状況じゃないね」
……崩壊寸前……いや、正しくは崩壊中といえるかもしれない。
どの共同体も最初のコミュニティーを築くのがリーダーだ。サンフランシスコの場合、恐らく総督がその基盤を作った。自分を<総督>と呼ばせているのは、強権的な組織だったのだろう。それが崩壊するまで至ったとすれば、組織はガタガタだ。
「その総督がここにいる?」
「この奥の倉庫だ」
そういうとホークはナイロンカーテンを開けた。
奥は広い倉庫でほのかに明かりがある。半地下のようで、窓は天井にある小さな天窓だけで空気は澱んでいた。そして微かに漂うように匂う血の匂いに拓は目を細めた。
ホークとムンクが先導して中に入り声をかける。
男……総督は倉庫の奥のソファーに寝かされていた。
「彼が総督か?」
「ああ、総督のカルロス=バルドだ」
「成程。怪我をしている」
拓は奥に進む。
ソファーの両脇に二人の女性、さらに奥に携帯カセットコンロでお湯を沸かしている女がいた。
拓は総督の傍にきた。総督は荒い呼吸はしているが意識はなかった。
そっと額に触れた。素人でも高熱を発しているのが分かる。
「何があってこうなったんだ?」
「<救世主派>の連中に闇討ちにあったの。でなきゃ彼みたいに強い男がこんなにならないわ」と左横の女性……ナタリアが言う。
「全身殴られておなかも刺された。肋骨が折れて肺に刺さっているようなの。少ないけどずっと血を吐いている」と右横のクレア。
「成程。これじゃあ動けない。動かしたら死ぬ」
「だからどうにもならない。医者が必要なんだ!」
拓は腕を組んだ。
医術は素人だが、素人目にももう持たないのは分かる。衰弱が甚だしく死相が出ている。今日明日死ぬことはないが数日は持たない。
今から拓たちが車を飛ばしてフォート・レオナード・ウッドに辿り着き、運よく祐次と出会えて戻ってきたとしても10日はかかる。
その頃にはもう死んでいる。
だが拓には他の手段があった。
JOLJUが用意した万能治療器がある。
ただし使えるのは一度だけだ。できれば自分たち用に取っておきたいものだ。
だがこの総督を見た以上、使わず見捨てるわけにはいかない。
ホークやムンクの話では、総督も<BJ>と面識があるという。おそらく<英雄を探せ>という試練を受ける代償として彼はハウルを自由に入手する権利を貰ったと思う。となれば彼も仲間と言えなくもない。
拓は助ける決意を固めた。
「助けられるよ」
「本当か」
「<BJ>の加護じゃないけど、俺も色々ある」
そういうと拓は持ってきたリュックの中から懐中電灯のようなもの……ク・プリの万能治療器を取り出した。シンプルでライト部分と本体にボタンが一つだけで、使い方は患部に光を当てるだけ、とJOLJUが言っていた。
「肺と打撲と腹の傷、だな?」
拓はボタンを押して患部に治療器を向けた。
懐中電灯と同じで、ライトが光り始める。その光が総督の傷に当たる。
「!」
ライトが当たって10秒ほどか。荒れていた肌の艶が戻り、青あざが消えていく。
本当に傷が治った。
そのまま胸、腹、そして念のため頭に光を当て、最後にゆっくり全身に当てた。
見える部分の怪我はなくなり、総督の呼吸も元に戻った。
「それで治ったのか!?」
「多分。見る限り傷はなくなったし肌の艶もよくなった」
もう万能治療器はエネルギーが切れて何も反応しない。一度に何分……という時間制限は聞かなかったが、JOLJU曰くどんな状態でも一回だけなら治るという。時間ではなく症状を完全に改善させたらエネルギーがなくなる仕組みなのだろう。エネルギーが切れたということは治ったということだ。
「衰弱しているから今は寝ているけど、起きて食事を採れば元気になるはずだ」
その拓の言葉を聞いたナタリアとクレアが喜色を浮かべた。
「本当に治ったのか?」
「これも異星人の科学だ。俺も<BJ>と会ったしちょっとだけ宇宙世界の事も知っている。傷は治ったよ。ただもうコレは使えないけど」
そういうと拓は万能治療器をバッグに戻した。これは祐次かク・プリに返還しなければならない。
拓は振り返ってホークたちのほうを向いた。
「俺の用はおたくらをフォート・レオナード・ウッドに連れていくことだ。君たちは<BJ>と接触したと聞いた。何か特別なものを貰ったり能力を貰ったりはしなかった?」
「どうして知っている?」
「あるんだな。そっか。そういうことか」
<BJ>は接触した地球人には何かしらのサービスをしてきたのは間違いなさそうだ。拓はJOLJU限定召喚、時宗は英語力。総督はハウルの提供……そうくればホークたちも何か力を得たのだろう。
「俺は嘘が分かる能力だ。どんな嘘でも俺には通じねぇー。嘘を聞くと頭の中で俺だけに聞こえる警告音が鳴る。随分助けられたぜ」
ニヤリと笑うホーク。
この男はオーストラリアから南太平洋を渡って南米に渡り、さらに北上してシアトルまでたどり着いた男だ。拓たちより冒険してきている。それが可能だったのは、この能力のおかげだ。
「日本人の英雄を探してここまできた。それで世界が救われるっていうんなら面白い話だろ? 俺は人類を救う英雄とやらに会いたい」
成程。ラテン系らしく動機は陽気で単純だ。
「で……メキシコで知り合ったのがこのムンクだ」
そう言って後ろに立つフード姿の中背で細身の黒人の肩を叩いた。
「私はムンクと呼んでくれ。完璧ではないが日本語も少し分かる」
「ムンク? 僧侶?」
「仏教徒だ。人は殺さない。ALは人ではない。私はその武器を神から授かった」
ムンクはそういうと手にしていた木製の棒を掲げた。150cmほどの棒だが両端は削られて鋭くなっている。
拓は理解した。
「これはALを倒せる槍か!? 酸でも溶けない?」
「溶けない。神の槍だ。だが木製だから人を刺すのは難しい。これで人を殺したら神の加護も消える……神はそう言った」
「それは確かに神……BJしかできないな。君も英雄を信じている?」
「私は家族を失った。父と母と妹を。絶望して死を望んだ。だが神に助けられた。そして人類を救う英雄が存在し、その英雄だけが人類を救う。それに人生を賭ける事にした。それから3年……ホークと出会って2年。この米国で初めて英雄と呼ばれる存在がいることを知った。人類全てを救う力があるなら信じる価値がある」
「そうか」
命をBJに救われた。その時ALの事と英雄の話を聞いた。英雄を探すか探さないかは選べる。英雄探しを選べば、何かしら神の加護が与えられる。
すべてはBJの手の中だ。
JOLJUは「BJは中立」と言っていたが、この状況を考えると明確に人類に助け船を出している。何せ人類を救う英雄の祐次自身を助け、才能を強化させた。英雄本人を作ったのもBJだ。
だが英雄は誰でもよかったわけではない。
人類を救う事ができる才能を持つ人間は、全人類の中でも祐次しかいなかった。祐次が世界崩壊から目覚めて2年。ホークやムンクたちは祐次が目覚める前から北米に日本人の英雄がいると聞いている。時間軸が合わないが、それは人間の尺度で考えた話で、相手は神だ。
と……そこまで考えると拓にもJOLJUがどうして祐次の前に現れ、一緒に行動するようになったのか分かる。
元々JOLJUも祐次が英雄になることを知っていたのだ。JOLJUは元々侵略反対派だったから、BJと共同していたのかもしれない。
もしかしたら、今の祐次はもうBJとJOLJUの関係を知っているかもしれない。
「BJが企画した人類救済のためのチームってワケか」
祐次はそれ以上の何かを知ったのかもしれない。
だから拓たちにも北米に来い、と言った。
そして図らずも北米に全員が集まった。
何か運命が待っている。
「神意」2でした。
拓、ここでク・プリの治療器を使いました。
これで拓たちの奥の手……保険は無くなりました。もう怪我もおちおちできませんね。祐次の存在がいかに重要か分かります。まぁその分祐次は本人が怪我しまくっていますが。
BJ人類救済計画……といったところですかね? 対価にいろんな能力を与えたことが判明しました。一番恩恵あったのは祐次本人でしょうけど、そもそもこいつは神の加護が必要ないくらい一流の人間が天井突き破ってチート化した感じなので能力を貰ったというより成長したという感じですが。他にJOLJUが相棒なのは選ばれた人間だったわけですが、JOLJUがああいう奴なので特別感はないですし。そう考えると食料に困らなくなる総督の恩恵が一番大きい能力かもしれません。
なんとなく総督派に流れそうな拓たち。こうなると<救世主派>との対決は避けられない?
そこにALの襲撃もある?
中々容易ならない状況になっていきます。
これからも「AL」を宜しくお願いします。




