「困惑」1
「困惑」1
ALの襲撃が迫る中対立するサンフランシスコ。
拓たちの任務は総督たちをシアトルに連れて行くことだが彼は報復に燃え話を聞かない。
そしてBJの入念な英雄計画。
***
7月28日 カリフォルニア州 サンフランシスコ
午前7時24分。
拓は朝早く、総督やホークたちが潜伏する隠れ家を訪れ、そして様子を見て戻ってきた。昨夜は夜中に家に戻った。
姜が三人分の朝ごはんをリビングに用意し、それぞれ席につき、食べながら作屋の報告会になった。食事は即席麺だ。
最初に説明をしはじめたのは時宗だ。
「あのホーリーとかいう女ヤベェ。ガンジー教の狂信者だぜ」
「ガンジー教?」
「無抵抗主義の平和ボケ女」
すでに救世主派の主張は聞いて知っている。これだけで大体状況は分かった。
「俺たちについては?」
「特に何も。珍しいってくらいの感じだぜ? まぁ今のところ敵じゃねーけど」
「そっちはどうなのだ? 拓」
「総督は死にかけていたけどそっちは治した。だから問題はない。後、サッチャーさんが言っていた<サムライ・クルセイダーズ>とも会った。結論からいうと総督も<サムライ・クルセイダーズ>の一員だ。俺と時宗もだけど」
「なんでよ? 祐次の友達だからか?」
「<BJ>と接触した事がある人間、それが共通点だよ。<BJ>はどうやら祐次探しの冒険に名乗り出た人間には何かしら特別なアイテムか能力が与えられていた。総督はハウルの提供、ホークは嘘を見抜く能力、ムンクはALを倒せる槍だ」
「全員並みの人間では手に入らないものだな」と姜。
「俺の英語力なんてカワイイもんじゃねぇーか。俺の美人の秘書ロボットか何かにすりゃ良かった」
「俺はスマホだけど……JOLJU召喚付きで、さらにJOLJU特製だしな」
考えれば拓が一番いい特典だったかもしれない。
回数制限があるとはいえJOLJUの召喚は大きい。
これまで何度も危機を救ってもらったし、多くの情報も得られた。
JOLJUは神だし祐次と一緒にいる。結果論だけでいえば、<BJ>は最後に選んだ拓に特別サービスしたのだろうか。
「こういう面子をBJが用意したって事は、何かしら祐次には助けがいるって事だと思う」
「そりゃあ祐次が化け物みたいに強いからって一人じゃ限度あるぜ。しかし何やらかすんだあいつは」
「それよりも重大なニュースがある」と姜。「南からALの群れが迫っているらしい。目撃者がいる。1万以上はいるらしい」
「狂暴期? 大規模侵攻か?」
「そこまでは分からん。東京の時遭遇した規模ではないのか?」
「中規模だろうな。大規模侵攻はもっと顕著に前兆があるし、ALは全て狂暴期だ。ちょっと経験があれば誰でも分かる。中規模侵攻はただのALでもやってくる。しかしタイミングが最悪だな」
「町の住人は襲撃まで一週間ほどだと見ている。こっちはお前たちのほうが詳しいかもしれんがどうなんだ?」
「そっちは見に行かないと分からんな」
拓は少し考えて時宗を見た。
「時宗はALの様子を見に行ってくれ。姜よりAL経験があるから判断できるだろ? 姜は町の様子を偵察しつつ救世主派をそれとなく見張っていてくれ」
「それが適任だろう」
姜が頷く。姜は元特殊部隊で偵察力は高い。時宗は元々日本の防衛班でAL襲撃の偵察は何度もやっている。
「拓。お前どうすんの?」
「また総督たちのところに行ってくる。とりあえずサンフランシスコからの脱出を薦める。元々連れ帰るのが任務で紛争を起こすことじゃないし、無用な争いは御免だし」
「手間取るとALの侵攻とガチ当たるぜ?」
「そうならないよう説得してみる」
そういうと拓はお椀に残っていた即席麺の残りを啜った。
だが三人とも見通しがあるわけではない。そして時間も余裕があるわけではない。
***
食後一時間後、三人はそれぞれ家を出た。
遠出になる時宗と姜は車で出かけた。途中市内で姜は降りて別行動になる。
拓は徒歩でフィッシャーマンズパークを目指した。
早朝行ったときは町には人がいなかったが、この時間だとチラホラ出歩いている人がいた。出来るだけ目立たないよう拓は移動し、30分後総督たちの隠れ家に到着した。
入ると、全員起きていて彼らも食事を終えた後だった。
ますホークとムンクが拓を出迎え、中に案内された。
薄暗い部屋の奥のソファーのところで、大柄の男が銃を手に座っていた。
「おお、本当に日本人なんだな。ありがとうよ、聞いたぜ、俺を助けてくれたってな」
総督……カルロスはすっかり元気になり両手にカスタムされたM1911を見せながら笑った。早朝来たときはまだ眠っていて、拓と顔を合わせるのはこれが初めてだ。拓が同じ<サムライクルセイダーズ>で、命を救ってくれた事は仲間たちから聞いて知っている。
「感謝するぜ、命の恩人。体調もバッチリだ」
ジャキン……と持っていたM1911カスタムのスライドを操作するカルロス。それを見て拓は彼が考えていることを理解し、顔を顰めた。
「自分を襲った連中に復讐するなんてやめてくれよ」
「なんでだ? 殺されかけたんだ。復讐しないでほっておくなんて俺らしくねぇ」
「戦争させるために命を助けたんじゃない。それに、アンタの使命は英雄を見つける事だろ?」
「聞いたぜ? お前さんたちがもう見つけたンだろ? そっちは」
「元々俺たちの仲間で、医者をやっていた男だ。だけど東部と中部で活動していて俺たちもまだ再会できていない。西海岸から中部に出るのは大変だと聞いている。ホークたちもアンタを連れ帰るためにシアトルから来たんだ。俺たちもだ。余計な争いは困る。それにALの侵攻も迫っている。時間がない」
「小僧たちには世話になったし感謝しているが、俺は俺だ」
拓はカルロスから周りにいるディアナたちに目線を移した。「止めてくれ」と目で言うが、彼女たちは「無理」とばかりに無言で首を振った。
どうも総督は良くも悪くも<米国人>といったタイプのようだ。
拓にはまだ聞きたいことがある。とりあえず話題を変えた。
「ところで総督。アンタはBJに会ってハウルを貰う約束をして英雄探しを頼まれた。その時の事を話してくれないか?」
「ああ、いいぜ。ホークたちから聞いたぜ日本人。お前もBJに会って北米まで来たらしいな。異星人の神に詳しいのか?」
「アンタよりは知っているかもしれない。少なくとも英雄は俺たちの友人だ」
「俺よりつえぇーのか? そいつ」
「多分強いよ。日本で最強の男だった。俺が知る限り最強の男だし、多分最高の医者だ」
「俺がこの崩壊世界で目覚めたのは7年前の郊外の砂漠だ。食料がなくて飢えて死にかけていた時、初老の男が現れて神、BJと名乗った。そして命を救ってもらった。ついでに救世主がいずれ現れる、その英雄の力になるなら今後食料の心配はいらなくなると言われた。その条件で俺は受けた。英雄は日本人の若い男で会えばわかるとも言われたな。だからホーリーの馬鹿が救世主なんてありえんわけだ」
「7年前か」
拓が知る限り一番古い。その時からBJは祐次の存在を知っていた。祐次が目覚める前の話だ。そして拓たちは探せ、でカルロスは現れる、と若干内容が違う。
祐次が北米に来ることも知っていたのだ。さすがは神といったところか。
「困惑」1でした。
AL、救世主派、総督の三つ巴の対立。
どうやら拓たちもこのままでは巻き込まれますね。
拓編では敵はALより人間のほうが怖い、そういうシリーズです。宇宙編にいったエダ編との違いですね。
実は救世主派がのさばる原因は総督にもあるんです。
そのあたりは次回。
ちなみにこのサンフランシスコ編も途中で切れて、そこで八章終わりになり九章に飛びます。
九章のエダ編がゲ・エイル戦争終結編、拓編がサンフランシスコ後編です。
そして十章があって、最終章になります。
長いシリーズですが、こう考えるとゴールがうっすら見えてきました。拓たちも北米まで来ましたしね。祐次も中部までは出てくるようになっていますし。
これからも「AL」を宜しくお願いします。




