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子連れで帰ったら、御曹司が偏愛してきた  作者: zhaozhao


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第6話 玲、ダメ男か?

 きらの園は、団地の向かいにあった。横断歩道を渡らせ、自分で門禁を通るのを見てから、折り返す。

 棟の下まで来て、足が止まった。

 篠宮玲が玄関の前に立ち、足元にコーヒーが二杯、手には——きらの恐竜パズル。


「どうして、うちを」


「三回引っ越した」

 目を上げる。

「一度も、見失ってない」


 背中が痺れた。

 遮る間もなく、横から入られ、靴を替え、ソファに胡坐をかく。自分の家に帰ったみたいだ。


「不法侵入よ。通報する」


「どうぞ」

 パズルをテーブルに広げる。

「ついでに、警察にこれを見せろ」


「説明は?」


「何を」


「甥」


「きらがママと呼ぶのは、小さい頃から預かっていて、真実を言ってないだけ」

 表情を崩さない。


「鈴原 昭」

 パズルを置き、顔を上げる。

「いつまで騙す気だ」


「……」


「一ノ瀬は今、車の中だ」

 立ち上がる。

「親子鑑定は特急だ。明日には出る」


 電話を一本。二分後、眠そうな一ノ瀬が引きずられて上がってきた。髪は鳥の巣、昨夜のシャツのまま。


「玲、ダメ男か?」

 欠伸をする。

「そんなにかかって、まだ奥さんを落とせてないのか」


 それから私へ、一秒で切り替える。

「奥さん、知らないでしょう。昨夜、手術台から降りた瞬間に飲みに引っ張られ、一睡もしてない。今朝六時、車内から運転手にされた。ちょっと、止めてくれませんか——」


 そのとき気づいた。篠宮玲の目が赤い。

 不眠か、それ以外か。


「黙れ」

 私を見て、一字ずつ。

「俺がダメかどうか、あきがいちばん知ってる」


 あき。

 ベッドの上でしか、そう呼ばない。


 篠宮玲がポケットから密封袋を出し、一ノ瀬へ渡す。

 目は早い。見えた。

 髪が数本。黒くて、柔らかい。

 きらのだ。


「どこで——」


「恐竜の鞄」

 悪びれない。

「朝、肩ひもを直してるとき、落ちた」


 手が震えるほど腹が立った。

「篠宮玲! 息子の髪まで盗むの」


「盗む?」

 考える。

「証拠保全、だ」


「篠宮玲」

 息を吸う。

「昨日は四百六十万で清算だと言った。送った。受け取らないのはそっち。今日は人を連れて上がり込む——人として最低限の信用は?」


「嘘吐きには」

 彼が言う。

「信用は要らない」


 外へ出ようとして振り返る前に、一言で釘付けにされた。


「鈴原 煌」

 三音を、ゆっくり読む。

「鈴原はお前だ。煌——は俺だ」


 喉を扼されたみたいだった。


「騙すにしても、息子の名に俺の字を刻む」

 目を伏せ、声が落ちる。

「鈴原 昭、自分の口を、五年待った」


「今夜八時、いつもの場所。来なければ——」

 間を置く。

「明日、鑑定と内容証明を持って、園の門前で待つ」


「やめなさい」


「やってみろ、だ」


 夕方、早めに園へ行き、裏門できらを連れ出した。


「ママ」

 きらが手を引き、ふいに聞く。

「玲さん、ぼくのお父さんになりたいの?」


 通りの向かい、黒いロールス・ロイスがまだ停まっている。

 ライトが、一度、瞬いた。

 口を開いても、一音も出ない。


「ママ、どうして喋らないの」

 きらがつま先立ちで見る。


「考えてる」

 私は言った。

「玲さんって人——本当に、殴りたくなる」


 遠くでロールス・ロイスがゆっくり動き、車列に混じる。

 携帯が震えた。

 篠宮玲:【八時。一分でも遅れたら、明日、園で会う】


 その一行を見て、腹が立って笑った。

 いいだろう。

 八時に、五年の帳面を、一度に付ける。


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