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子連れで帰ったら、御曹司が偏愛してきた  作者: zhaozhao


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第5話 俺を抱いたくせに、なかったことにするのか?

 チャイムが鳴ったとき、眠ったばかりの気がした。

 きらはもう裸足でドアへ走っている。


「ママ、おじさんだよ!」


 身を起こす。古いTシャツが腰まで捲れている。

 隙間から朝の光が漏れる。篠宮玲が外に立ち、明け方の冷気をまとっていた。

 視線は先に顔、それから下へ落ち、裸の足首で止まる。

 つま先を縮め、Tシャツを下ろし、表情を消した。

「何の用」


「おはよう」


 私を越えて家に入り、紙袋をテーブルへ置く。

 蓋を開けると、海老蒸し餃子の甘い匂いが溢れた。

 大学時代、よく通った飲茶の店だ。朝の行列は二時間。

 一目やる。

 目の下に青黒い影。

 ——四時から並んだのだ。


 きらはもう椅子に登り、小さな手で一個摘まむ。

「おじさんも食べて!」


 篠宮玲は隣に座り、ごく自然に一個を挟み、私の口元へ運んだ。


「……手、あるんだけど」


「震えてる」


「……」


 きらは今日、異常に興奮して、よく喋る。


「おじさん、名前は?」


「篠宮 玲」


「へえ——」

 きらが音を伸ばす。

「玲さん、ぼくの名前の煌と、なんか似てる」


 海老蒸し餃子を挟む手が、ごくわずかに止まる。

 心拍が半拍抜け、急いで話題を変えた。

「きら、食べなさい。篠宮玲、食べたら帰って。これから園」


「俺は、ママの元カノだ」

 篠宮玲が突然言った。


「篠宮玲! 余計なこと言わないで」


「なんだ。抱いたくせに、認めないのか」


 きらの目が輝く。

「玲さんも、ママと一緒に寝たの? ママの抱っこ、ふわふわでいい匂い? ぼく、ママに抱かれて寝るの、いちばん好き」


「普通は、俺がママを抱いてた」


 私:「……」


 きらが篠宮玲の耳元へ寄り、ごにょごにょ何か言った。

 箸を握る手が、きゅっと締まる。


「……よく、泣くのか」

 低い声。


 きらは首を横に振る。

「昨日だけ。ママ、普段は泣かない」


 篠宮玲が目を上げて私を見る。

 豆乳を一口飲み、乗らない。

 涙は問題を解決しない。

 一人で子どもを育てた五年で、最初に覚えたことだ。


 食べ終わり、篠宮玲は空の紙袋を提げて辞去する。

 きらが背もたれに掴まり、叫ぶ。

「玲さん、明日も来る?」


 玄関で足を止め、振り返って彼を見る。突然聞いた。

「名前は」


 息が止まる。


「鈴原 煌!」

 小さな声が明るく響く。

「鈴原はママの姓。煌は——」

 首を傾げて考える。

「ママがね、ずっと誰かが守ってくれてるみたい、だって」


 部屋が、一秒、静まった。

 篠宮玲がゆっくりこちらを向く。

 その目は、うまく言えない。鈍い刀で、何かが少しずつ割かれていくみたいだった。


「鈴、原、煌」

 一字ずつ噛み、ふいに笑った。

 目まで赤い笑いだ。


「鈴原 昭」

 彼が言う。

「これを、今生の縁切りと呼ぶのか」


 口を開いても、一音も出ない。

 ドアが背中で閉まった。

 扉に背を預け、長く立っていた。

 きらが裾を引く。

「ママ?」


 しゃがみ、襟を直し、声は安定している。

「大丈夫。今日、園で赤い花もらった?」


「もらった!」


「偉い」

 手を取る。

「さあ、行こう」


 日は、これまでどおり回る。

 空が落ちてきても、この家の大黒柱は私だ。

 携帯が、そのとき震えた。

 知らない番号。備考なし。

 だが一生忘れない数字だ——五年前、この番号の主が、二十億の小切手を渡してきた。

 メッセージは一行だけ。


「鈴原さん、久しぶり。江都に戻ったそうだね」


 朝の光の中で、その一文を三度読んだ。

 五年前、一人できらを産んだ。

 五年後、誰にも、この手から奪わせない。


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