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子連れで帰ったら、御曹司が偏愛してきた  作者: zhaozhao


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第16話 両親は当時、何を勧めた

 座敷が静かになった。

 厳が私を見て、長く、息を吐く。

「子よ。この件は、篠宮が説明を欠いている」

「夕食までに、明細を渡す」


 立ち上がり、きらの手を取る。

「伯父上、ありがとうございます。先に戻ります」


「待て」

 呼び止められ、懐から赤い包みを出し、しゃがんで、きらの手に押し込む。

 厚い。

「祖父からだ。お年玉だ」

 間を置く。

「前倒しだ。来年の正月——」

 私を一目見て、声が少し緩む。

「連れて来い」


 きらが包みを抱き、大声で言う。

「ありがとう、おじいちゃん! また来るね!」


 厳が手を振り、書斎へ向かう。杖が床を点す。一声、一声。

 出口で止まり、背を向けたまま。

「パズルだ」

「は?」

「卓の盤だ」

 言う。

「一週間組んで、いつも数片足りない。次に息子が来たら——」

 間を置く。

「探させてくれ」


 帰りの車、きらは包みを抱いて眠った。

 篠宮玲は運転したまま、長く喋らない。

 家の近くで、ふいに口を開く。

「母さんは、お前の母に電話したか」


「は?」


「当時のことだ」

 ハンドルを握る指が白い。

「二十億の小切手は表だ。六千九百万の『援助』は、俺は初耳だ。だが綾瀬家が空で金を打つはずがない——両親に受け取らせ、協力させた人間は、必ず口を利いている」

「昭」

 赤。車を止め、こちらを向く。

「両親は当時、何を勧めた」


 黙った。

 中絶を勧めた。

 中絶さえ聞き入れない親が、どうして六千九百万を「協力」して受け取り、五年、放っておいたのか。


 携帯を出し、母にかける。

 四鳴りで、出た。


「昭?」

 声が少し浮いている。

「こんな時間に。ご飯は」


「ママ」

 私は言った。

「五年前、篠宮から、あなたとパパに金は渡ってない?」


 向こうが、黙った。

 長い、長い一秒。


「……知ってたの」


 四文字。

 目を閉じた。


「ママ、いくら」


「昭、聞いて。あの頃、パパの工場が潰れて、家が本当に——」


「いくら」


 また沈黙。

 それから、聞きたくなかった数字。

「ろ……六千九百万」


 こちら側、篠宮玲の顔色も変わる。

 母は向こうで何か縷々と話し、金は浪費していない、あなたのために残してある、パパが商売を少しやって一部損した、と——

 一語も、はっきり入ってこない。

 覚えているのは、五年前の冬だけだ。

 二十億の小切手を裂き、空腹で雪に三時間立った。

 腹を抱えて家主に追い出され、一人で健診に行き、一人で手術同意書に書いた。

 両親から、電話一本なかった。

 理由が、なかったわけではなかった。

 実の父母が、六千九百万を受け取っていた。

 私と、腹の子で、換えた。


「昭? 昭、聞いてる?」

 母の声が焦る。


 窓の外を見る。空が、少しずつ暗くなる。


「ママ」

 私は言った。

「来月、きらを連れて、あなたとパパに会いに行く」


「ええ、ええ、いいわ——」


 切った。

 篠宮玲が私を見て、口を開けない。

 向き直り、見て、一字ずつ。


「篠宮玲」

「ん」

「当時、受け取った記録。振込、仲介、サイン——」

「全部」

「出して」


 長く、私を見る。

 それから手を伸ばし、氷みたいな指を、一本ずつ、熱い掌に握り込んだ。

「いい」

 言う。

「一人も逃さない」


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