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子連れで帰ったら、御曹司が偏愛してきた  作者: zhaozhao


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第15話 五年前、父の誕生日に、誰が、何をしたか

 昼に、膳が開いた。

 大円卓。厳が上座、右手に夫人——今日の私を見る目は複雑で、言いたげだ。

 綾瀬凛は左手、近い。半ば家人みたいな近さだ。


「綾瀬さんは?」

 何気なく聞いたふりをする。


「おじさまに育てていただいたようなもの」

 凛が取り分け、手つきが馴れている。

「綾瀬家と篠宮は、三十年の付き合い。私はおじさまを叔父と呼び、玲のことは——」

 間を置き、優しく笑う。

「玲くん、と」


 篠宮玲はきらの魚の骨を取っていて、顔も上げない。

「知らないな」


 笑いが半秒硬直する。

「子どもの頃の話よ。覚えてないだけ」


「記憶はいい」

 骨を取った身を、きらの碗へ置く。

「子どもの頃のことは、はっきり覚えてる」

「たとえば——」

 ようやく顔を上げ、凛を見て、ゆっくり足す。

「五年前、父の誕生日に、誰が、何をしたか」


 卓の空気が滞る。

 厳が咳をし、話を引き取る。

「食え」


 半ばで、厳が箸を置く。

 来た、と思う。


「鈴原さん」

 私を見る。

「五年前の件は、聞いた。小切手は裂いたそうだ」


「はい」


「よく裂いた」


 私:「……」

 脚本が違う。


 杖先で床を点す。

「あの小切手は、妻が切るのを私が黙認した。金は、私の帳面だ」


 篠宮玲が顔を上げる。

「父さん?」


「黙れ」

 息子は見ず、目は私に固定したまま。

「だからこの五年、篠宮はお前に借りがある。その言葉は、私が言う」


 茶を持ち、立ち上がり、こちらへ——

 わずかに、腰を折った。


 慌てて一緒に立つ。

「伯父上、それは——」


「借りだ」

 厳が座り直し、口調は古井戸のまま。

「だが今日呼んだのは、謝罪ではない」

「条件が一つある」

「きらは先祖に戻れ。姓を篠宮にし、族譜に入れ、来年から篠宮の教育を受けろ。学問、暮らし、相続——家の最上をやる」

 私を見て、一字ずつ。

「お前は、どんな条件でも出せ。どんな、でもだ」


 卓は静かだ。

 夫人が箸を握り、言いたげ。玲の顔が沈む。

 凛の目が光る。


 箸を置き、口を拭いた。

「伯父上、条件を一つ」


「言え」


「今の条件を、撤回してください」


 目が細くなる。


「第一、姓は鈴原です。五年使った名前で、園の名簿も保険証も、自分で最初に書いた字も、鈴原 煌です」

「第二、来年どの小学校かは、父親と相談して決めます。族譜の世話は不要です」

「第三——」

 見て、一字ずつ。

「私が与えられるものは、篠宮には与えられません」


「たとえば」


「たとえば、売られなかった子ども時代です」


 杖を握る手が、一度締まる。

 そのとき、きらが匙を置いた。


「おじいちゃん」

 顔を上げ、真剣に言う。

「ぼくも、姓を変えたくない」


「なぜだ」


「姓を変えたら」

 指を折る。

「ママが夜ひとりで寝るとき、誰が守るの」

「約束したんだ。ぼくはうちの男だって」


 厳が彼を見る。

 まる五秒。

 それから、入門以来古井戸だった男が、低く、一度笑った。


「よい」

 言う。

「変えぬ」


「おじさま——」

 凛が焦り、口が滑る。


 瞼すら上げない。

「綾瀬さん、篠宮の家事に、何を焦る」


 顔が、一層白くなる。

 自分の失態に気づいたのだろう。無理に笑い、茶杯を上げ、隠すみたいだった。

 それから私を見て、天気の話みたいに軽く言う。


「それにしても——昭さん、一つ、おじさまはご存じかしら」


 胸に警報が鳴る。


「あの頃……ご両親のほうへ、篠宮からも生活援助が出ていましたわ」

 首を傾げ、無邪気に笑う。

「六千九百万円。ねえ、お姉さまはご存じ?」


 卓が、死んだように静まる。

 頭の中で「ワン」と鳴った。

 両親。

 援助。

 六千九百万。


 厳がゆっくり顔を向ける。

「何の援助だ」


「その……」

 笑いが揺れ始める。

「綾瀬家が仲介したんです。昭さんが一人で大変そうで、ご両親の負担を心配して、月々——」


「綾瀬家が?」

 声が沈む。

「誰が裁可した」


「ち、父も親切のつもりで——」


「周」

 厳が声を上げる。

 執事がすぐ前へ。

「旦那様」


「調べろ。五年前から今まで、綾瀬家が篠宮名義で出した金、夕食までに明細を」


「はっ」


「おじさま——」

 凛が立ち上がり、声が震える。


「送れ」

 二字に、温度がない。


 その場に立ち、顔が白から青へ変わる。玲を一目やる。玲はきらに汁をよそい、視線一つ欠品だ。

 最後に、私を一目見た。

 その目の中身は、五年前の喫茶店で、別の顔にもあった。

 執事が「どうぞ」と手を示す。

 凛が高ヒールで出ていく。かかとが青煉瓦に、急で乱れて当たる。


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