第13話 好きな相手にしか、身をもって報いない
三日後、全校の風向きが変わった。
全校の女子が追いつけなかった篠宮玲が、白日の下、私を追い始めた。
遅れて気づく。あの烈日の下で助けたのが、篠宮玲だった。
学校が割れ、流言が走り、私は完全に衆目の的になった。
煩さに耐えかね、彼を呼びつけて言った。
「篠宮さん、あの日はたまたま見ただけです。ああいう状況なら、誰でも手を貸します。気に病む必要はない。あなたの言う『身をもって報いる』も、要りません」
「好きな相手にしか、身をもって報いない。報恩じゃない。好きな人間への、やり方だ」
毎日形を変えて存在を刷り込まれ、煩さの極みだった。
「私は平凡な家の子です。成り上がりたくない」
「金持ちの家に生まれたのが罪か。金持ちの子に、愛を追う権利はないのか」
篠宮玲が拗ねる。
「あります。好きな子は女子寮から正門まで並べます。好きに選べばいい」
彼は頑固だ。
「愛は、誰でもいい、適当に済ませるものか」
道理を試みる。
「条件が違いすぎる。あとで矛盾ばかり出る」
「たとえば」
「金銭観、仕事観、恋愛観」
「三観を知る機会もくれずに、不一致だと決めつけるのか」
「……」
「豪門は複雑でしょう。決まりが多くて、是非が多い。私がやっていけると思いますか」
「家も知らずに、中身がわかるのか」
「怖いなら、縁を切る。それでもダメなら——父を破産させてもいい」
「!」
その場で固まった。
言う以上、やる男だ。
顔を冷たくした。
「篠宮玲、もう物を送らないで。好きじゃない」
半歩も引かない。
「好きかどうかはお前の問題。追うかどうかは俺の問題だ」
昼は優しく餌を運び、夜はさらに非常識だった。
ギターを抱えて女子寮の下で歌い、晩風が歌声を棟全体に運ぶ。
全員が、見物している。
酒色に溺れていると噂された坊っちゃまが、天下でいちばん純情で、いちばん馬鹿なことをしている。
親友は毎日、生まれつきの一対だとからかう。
時間が経ち、心の防衛が、一層ずつ緩んだ。
豪門を外せば、本物の篠宮玲は、噂と別人だった。
遊びはせず、傍はきれいだ。飛び交う噂を問うと、鼻を触り、正直に言った。
「半分は嫉妬の捏造。もう半分——俺が黙認した」
「寄ってくる連中は香水が辛くて、相手にする気がない。噂を泳がせて、花を防いで、静かにしてた」
わかった。
誰もが思う奔放は、鎧だった。
一途も優しさも、私一人に残していた。
あとで聞いた。
「日射病の日、どうして日の下に寝てたの」
長い沈黙のあと、言う。
「母さんと喧嘩した。金を使う以外、何もできない、と。日の下に寝て、痛むかどうか見た」
「結果は」
「構われなかった」
笑った。
「お前は、構った」




