第66話:命がけの奴ら
見覚えのある男が、剣を携えて立っていた。
そう、彼の名は――
「中村さん!」
「ようやく戻りましたよ、男に」
そう言って、軽く笑ってみせる。
「カイルさん、団長さんを連れて、一旦下がってください。僕が時間を稼ぎますので!」
「はい、分かりました」
「アデルさん! お願いします!」
「ええ!」
アデルさんが、炎を白い塊へと叩きつける。
「それにしてもここ、熱いなぁ! 火傷しそうです!」
「我慢なさいな」
(でも、すぐに再生されたら、彼らに危険が……)
中村さんが、切り裂いた傷跡を、すかさず炎を纏った剣で切り裂いていく。
『こざかしい』
脳裏に、苛立ちを含んだ声が響いた。
(あれ、再生が遅くなってる……?)
「時間稼ぎだからね、そこを忘れないように」
アデルさんが忠告する。
「じゃあ、これで終わらせるよ!」
アデルさんが右手に力を集中させると、燃えたぎる何かを、白の本体へと叩き込んだ。
衝撃音と、まばゆい光。
その直後、辺りが静寂に包まれる。
目を開けると、視界は真っ白だった。
そこには、オルドランとカイル、アデルさん、ノエル、ドロワくん、黒田さん。そして、男の姿に戻った中村さんがいた。
「あの、あなたはいったい誰ですか?」
ノエルが、中村さんにすかさず突っ込む。
「えーと、ずっと旅してきた中村です。女から男に戻りました」
「ちょっと、何を言っているのか、私には分かりません」
そう言って、ノエルが助けを求めるように私を見る。
「えーと、そうなんだよね。また今度、話すね」
「はぁ……」
そこで、気になっていたことを中村さんに尋ねる。
「そういえば、さっきの剣技、どこで身につけたの?」
フフンと得意げな表情を浮かべていた。
「僕のスキル、覚えてますか?」
「ええ、役になりきると力を発揮するってやつでしょ?」
(たしか、『メソッド・アクト』だったっけ。その能力が強く働きすぎて、これまで女性の姿になっていたんだった)
「お手本があれば、それをコピーできるんですよ。今回は、カイルさんをお手本にさせてもらいました」
キャラ被りの天才騎士。
モデルにするには、うってつけだったわけか。
「それに、その格好と剣は?」
「もしものときに備えて、街で準備してたんですよ。剣士っぽい格好に、剣も一本ね」
「意外としっかりしてたんだ」
「意外は余計ですよ!」
いつものツッコミ。やっぱり内面は少しも変わっていない。それにしても、彼のおかげで窮地を救われた。
(それにしても――)
「ここは、いったい……?」
「私が一時的に作り出した空間です」
アデルさんが説明してくれる。
「あの白い殻の中から抜け出したわけではありません。あくまで、異次元の空間を作り出したに過ぎません」
「いったいどうやって?」
「そこの彼が先ほど使っていたものと、原理は同じですよ。少しサイズと強度を強めただけです」
そう言って、黒田さんの方へ視線を向ける。
「どうやら、この空間までは、あの存在は干渉できないようです。賭けでしたが、そこは大丈夫だったようですね」
アデルさんが私たちを一時的に避難させてくれたということか。
「しかし、私たちが隠れていることは、あちらも把握しているはずです。先ほどから、この空間に介入しようとする力を感じます。そうですね、持ってあと数十分といったところでしょうか」
(やはり、その場しのぎに過ぎない)
「つまり、その間に対策を立てろ、ということですか?」
「ご名答。私にはこれが限界です。どなたか、策はありますか?」
沈黙が流れる。
傷ついている人ばかり。誰もが、息を切らしていた。
私たちの頼みの綱は、聖騎士であるオルドランだった。しかし、彼は負傷した右肩だけでなく、全身が傷だらけだった。それでも、なんとか呼吸を整えている。
黒田さんのスキルで治療を試みたが、思ったより傷は深いようだった。
「楽になった。ありがとう」
オルドランが、黒田さんに礼を言う。
「話したいことがある。あの白い塊の、奥の中心部――脈打つ光のことだ」
カイルが、はっとしたように顔を上げる。
「あの光が、本体の核だと踏んでいる。最初の交戦で、狙ってみた。だが、及ばなかった。何か、目に見えぬ守りがあるようだった。だが、私の剣では、押し通すことすらできなかった」
悔しさを滲ませながら、オルドランはそう言った。
「僕を庇わなければ、団長がこんな傷を負うことは……」
カイルが、目に涙を浮かべて声をかける。
「気にするな、カイル。お前は騎士団、いやこの国の希望だ。お前はいつか、必ず私を追い越す。それに、私が必要だから、ここに連れてきたんだ」
「団長……」
「あの守りさえ、なんとかできれば――このデュランダルをぶつければ、可能性があるはずなのだ」
そう言いかけて再び剣を握ろうとしたが、彼は剣を落とした。
「団長……!」
「這ってでも……この身が尽きようと、私がやらねばならぬのだ」
そう言って落ちた剣を拾い上げようとしたが、彼はその場で崩れ落ちた。
「団長!」
「人々を救うために、私にしかできないことを……」
彼が聖騎士となった、あの日を思い出す。
『聖剣――デュランダル』
もがきながら、苦しみながら、彼は這いずる。
『邪悪な魂を持つ者が触れれば……命を奪うと、言われています』
這いずるたびに、その地面には、血が滲む。
『世界のために、この身を捧げると誓う!』
もう、私に迷いはなかった。
剣のもとへと、歩みを進める。
「河瀬さん、まさか……」
黒田さんが声をかける。
「姐さん!」
「マリア様!」
「やめろ!」
私はその剣を、強く握った。




