第61話:キャラ被りの上位互換
日が暮れかけていた。
「アデルさん、我々から事前にアカデミーにも話をつけてある。今回の件は、王より直々に命を授かっておりますので」
「そうですか、分かりました」
オルドランの言葉に、アデルさんは静かにうなずいた。
「では、明日の朝、王都の大門前で。ヴェリウスのいる町へ出発しよう」
そう言って、二人と別れた。
私たちは一度、宿へ戻ることにした。私たちは以前泊まった宿へ向かおうとしたが、ノエルが引き止めた。
「家に泊まらないのですか? 皆さまを歓迎しておりますのに」
「ありがとう。でも、さすがに二泊続けては悪いから、今日は宿屋に泊まろうと思う」
「そうですか……」
残念そうなノエルの横で、ドロワくんが少しほっとしたような顔をしていた。気のせいではないと思う。
「えー、また豪華な料理が――」
「中村さんもいいよね?」
「え、はい……」
強めに念を押すと、中村さんはしぶしぶ了承した。
「そうですか。それでは本日私も皆さんと同じ宿に泊まることにいたします」
ノエルはそう言って、名残惜しそうにしながらも受け入れた。
「明日の朝に備えて、今日は早く休むとしよう」
黒田さんの言葉で、その日は解散になった。
宿の受付を済ませ、それぞれの部屋に入る。
別々の部屋だと分かると、ノエルはひどく残念そうな顔をしていたが、大人しく自分の部屋へ入っていった。
ドロワくんは小さく息をついて、部屋の扉を閉める。
(やっぱり、人が多いのは苦手なんだろうなぁ)
私も部屋に入り、寝台に腰を下ろす。
どっと疲労が押し寄せてきた。
(なんとか、ここまで来た。いよいよ明日からだ)
そう思いながら、目を閉じた。
◆◇◆
翌朝、身支度と軽い食事を済ませ、全員で宿を出た。
町の入口、大門へ向かうと、すでにオルドランとアデルさんが待っていた。
そばには、二台の馬車が並んで待機している。
「おはようございます。お待たせしました」
「ああ、気にしないでくれ。こちらが早く来すぎたようだ」
「よろしくお願いしますね」
手を挙げるオルドランと、声をかけるアデルさん。
「これで全員ですね。出発しましょうか」
私がそう言うと、オルドランは珍しくバツの悪い顔をした。
「大変申し訳ないのだが……もう一人来る予定なのだ。まだ来ておらず、すまない……」
「騎士の方ですか?」
「ああ。今回、騎士団全員での同行は叶わないのだが、腕の立つ者を一人、同行させることにしてな」
珍しく聖騎士の彼が、ひどく落ち着かない様子だった。
しばらく待つと、遠くから騎士らしき人影が歩いてくるのが見えた。
「団長ー、すみません。寝坊しちゃって」
風になびく金髪。線の細い、華奢な出で立ちの男だった。端正な顔立ちで、笑みを浮かべている。
「せめて走ってこい、カイル!」
「へいへーい」
カイルと呼ばれた彼が、やや小走りでこちらへ向かってくる。
「お待たせしました、すみませんねぇ、皆さん」
少しも悪びれた様子はなかったが、その分、爽やかに聞こえた。
「すみません、皆さん。彼が、もう一人連れてくると言っていた騎士です」
「どうもー、カイル・ランスロットです。よろしくお願いしまーす」
(軽いなあ……)
でも、ビジュは良い。良すぎる。危うくその笑顔に心を許してしまいそうになる。
「なんで寝坊なんかしてるんだ。今日は大事な護衛だと言っただろう」
「いやー、それが話せば長くて。たまたま飲み屋に行ったら、団長のゴシップネタを聞かせろって、しつこい男がいましてね」
「まず前日に酒を飲むな。それがなぜ寝坊につながるんだ」
「あ、僕は決して団長のことを売ったりしませんでしたよ。お酒を奢るという卑劣な手から、なんとか耐えしのぎました」
「だから酒を飲むな!」
カイルは軽い足取りで、オルドランから距離をとる。
(騎士団って、硬派な人ばかりじゃないんだなぁ……それにしても――)
「中村さんとキャラ被ってるなぁ……」
「ちょっと姐さん!?」
中村さんが、すぐに突っ込んでくる。
「私の心、読まないでよ」
「声、出てますから。声帯、震わせてますから」
「上位互換って感じだよね。ビジュ含めて」
「ひどい! ルッキズム反対!」
「SNSに投稿しなければセーフだって知ってた?」
「いや、声に出したらアウトですから。しかも本人に直接言ってるじゃないですか」
「ああ、やっぱり中村さんのツッコミからしか摂取できない栄養があるなぁ」
「そんな栄養、ありませんから!」
そう言って、二人で少し笑い合った。
久しぶりに、こんなふうに冗談を言い合った気がした。
「なんだ、俺もガールズトークに混ぜてくれよ」
「ガールズトークじゃありません」
強く否定しておく。
「それに、クロさんが混じったら、ガールズではないですよ」
「お前もだろ」
「う……たしかに」
黒田さんが、珍しく正論めいたことを口にした。
「らしくなってきたな」
「そうですね」
中村さん、黒田さん、ノエルにドロワくん。アデルさんと、騎士団の二人。
見渡す顔ぶれに、これ以上ないメンツだと思った。
「今回、私とカイルとで護衛につかせていただく。目的地までの道中、アデル殿は貴重な書物の内容を頭の中に収めておられる、いわば生き証人だ。それに、ノエル殿はロシュフォード家の方でもある。お二人の身に何かあれば、それこそ一大事だ」
(たしかに……)
「無論、冒険者の皆さんを軽んじているわけではない。国王陛下より、道中の安全も含めて、しかとその身を守るようにと直々に命を受けている」
オルドランの声には、いつもの生真面目さがにじんでいた。
「では、そろそろ馬車に」
「私はこちらに」
アデルさんが、迷うことなく一台目の馬車へ歩いていく。ノエルもすっと、その後に続いた。
「では、私もこちらで」
私も自然と、女性陣のいる馬車へ足を向けた。
「じゃあ、俺たちはこっちだな」
黒田さんが、もう一台の馬車の方へ歩き出す。ドロワくんと中村さんも、当たり前のようにそれに続いた。
綺麗に、男女で分かれたようだった。
(あ……中村さんは、一応女性ということになってるんだった。今、うっかり言いそうになった……危ない危ない)
私は内心でそっと胸を撫で下ろした。色々と説明が面倒だろうし。
「私とカイルで、それぞれの馬車の手綱を取らせていただく。今回の旅のことは、あまり他の者に知られないようにしたくてな」
その言葉に、オルドランの慎重さが滲んでいた。
「準備はいいな。よし、行こう!」
オルドランが言った。
私たちの旅を後押しするかのように、朝日が輝いていた。
でもこの時の私たちは知らなかった。
これから待ち受けることを。




