第59話:ミスターX
中村さんと並んで歩いていると、ふと路地裏から人影が現れた。ドロワくんだった。
声をかけると、彼は小さく頭を下げた。
「ドロワくんは、どこ行ってたの?」
「俺は、石を見てました……」
「石?」
「宝石っす」
「なんでまた」
「ちょっと気になったんで……」
「へえ……」
(……意外)
私はその一言を、かろうじて飲み込んだ。好きなものは人それぞれだ。
「何か良いのあった?」
「ありました。その……“マリア様”の宝石っす」
「え?」
「姉貴が持ってるやつと、同じやつです。客たちがそう呼んでました」
「へ?」
彼は、私が背負っている杖の先端にある宝石を指し示した。
「高くて買えなかったんですけど、すごく綺麗でした」
「え、ああ……そうなんだー、ははっ」
(マリア様? まさかね……いや、うーん)
言葉にならない感情を抱えたまま、私たちは歩き続けた。
◆◇◆
城の前には、すでに黒田さんとノエルが待っていた。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いや、ちょうど来たところだ」
門の前には騎士が二人立っていた。私たちに気づくと、片方が声をかけてくる。
「団長――いえ、オルドラン様はまもなく到着しますので、しばしお待ちください」
「分かりました」
しばらくして、聞き覚えのある声がした。
「すまない、待たせた」
団長ことオルドランだった。
「いえいえ、それではよろしくお願いします」
「ああ」
オルドランの後について、私たちは城の中へ足を踏み入れた。
◆◇◆
「こっちだ」
案内された部屋は、歴史を感じさせる空間だった。
広く、天井も高い。古い書物が、棚に整然と並べられている。
(海外の図書館って、こんな感じなのかな……)
そういえば、図書館自体あまり行った記憶もない。部屋の奥には、何やら責任者らしき人物もいた。
私たちは簡単に自己紹介を済ませると、彼は魔法研究室の室長であることを名乗った。
(この人が、ヴェリウスさんの言ってた人……?)
「あの、ヴェリウスさんのことは、ご存知でしょうか?」
私が尋ねると、その人は少し考えるように目を細めた。
「ヴェリウス、ですか……ああ、かつて在籍されていた方ですよね。あいにく、私は直接お会いしたことはありません。なにしろ、ずいぶん前のことですので……」
「そうですか……」
(この人は違うか……)
現室長が、オルドランに向かって言う。
「オルドラン様、関連しそうな書物を探しているのですが……滅びに関する書物はどこにも見当たらないのです」
「それは本当か」
「はい。古代の記述を含む書物はすべて当たりましたが、駄目でした……何か他に書物の情報や特徴などあれば、改めて探すこともできるのですが……」
「分かった。ありがとう。忙しいときにすまない。君たちの方で、何か分かることはないか?」
オルドランが、私の方へ向き直り尋ねる。
「いえ、すみません。詳しいことは分からなくて……」
「そうか、数も多いのでな。困ったな……」
「あっ」
その時、中村さんが声を上げた。
「どうしたの?」
「いや、もしかして、もう書物はここにないとかって可能性があるかもって」
「え……」
「いや、前の王様が、どこか別の場所に移した可能性とかないですか。あんまり人の目に触れたくないなら、なおさら」
「その可能性はあるな。そうだとすると……」
オルドランが、考え込むように言った。
「国王陛下も知らないとなると、その場所を探すのは難しいかもしれないな……」
「待ってください」
私は思わず声を上げた。
「ヴェリウスさんは、研究室と国王に研究を止められたと言っていました。研究室にも、当時の室長がいたはずです。その人なら、何か知っているかもしれません」
「そうか! それなら……」
オルドランが頷いた。私は現室長に尋ねる。
「あの、当時の室長は、今どこに……?」
「室長なら、今はアカデミーで子供たちに魔法の指導をしていますよ。この街の外れの方です」
「ありがとうございます!」
(まだ、可能性はある……!)
「よし、では早速向かおう」
「はい!」
私たちは書庫の扉を開けて、アカデミーへと向かった。




