第50話:アウトローと2期生志願者たち
「『ドロワ・マルテル』です。あの、よろしく、お願いします……」
さっきまでの暴れっぷりが嘘みたいに、小さな声だった。
「まるで別人だな……」
黒田さんが苦笑する。
「あの、すんません……自分、こういうの、苦手で……」
頭をかくドロワくん。
(ギャップがすごいな……)
さて、問題はさっき捕まえた盗賊団の扱いだ。
手負いで逃げていた連中を、再びまとめて拘束したところまではいい。
「これ、どうします?」
中村さんが縄で縛られた男たちを見ながら言う。
「王都に連れていくのが筋だろうな」
「実績アピールにもなりますね。脱走犯の確保ってことで」
「いいと思うが……距離がな」
たしかにそうだ。王都まではまだそこそこある。この人数を引き連れて歩くのは、正直大変だ。
そんなことを考えていると――
「あ、これならどうですか?」
中村さんが手をぽんと打った。
嫌な予感がする。
「ちょっと試してみますね!」
そう言って、空間に手をかざす。
ぐにゃり、と空気が歪んだ。
「もしかして……」
盗賊たちの顔が青ざめる。
「はい、ここに入れちゃいましょう!」
「おい! ちょっと待て!」
リーダー格の赤い服の男が叫ぶ。
「倫理的にどうなんだ!?」
(お前が言うなと思ったが、たしかに機能的にも不安だ……)
「大丈夫ですよ、たぶん」
「たぶん!?」
「いきますよー、えい」
ズボッ。
「うああああああああああ!」
男は吸い込まれていった。
「アイタッ!!」
しばらくして中から声がした。
「大丈夫ですかー?」
「大丈夫じゃない!」
「大丈夫そうですね!」
そう言うと、中村さんは次々と盗賊たちを吸い込んでいった。
「ええ……」
(絵面的に、完全に人さらいでは……?)
ノエルが若干引いている。
「まあ、定期的に様子見ていきましょう。王都までの連行ってことで」
「マリア様がそうおっしゃるなら」
ノエルも静かに頷いた。
「それにしても、ドロワさん」
黒田さんが向き直って言う。
「本当に助かりました。改めてありがとうございます!」
「い、いえ、自分なんか……大したことしてないんで……」
「あ、そういえば」
中村さんが口を挟む。
「姐さんって呼んでましたけど、二人はどういう関係なんですか?」
「ああ、それは――」
私は、以前一人でヴェリウスさんのところへ向かった時のことを簡単に説明した。
「――って感じで知り合ったんだよね」
「なるほど」
「で、姐さんってのは?」
ドロワくんが、少しだけ気まずそうに言う。
「その、自分……まだ18歳なので」
「えええええ!?」
全員の声が揃った。
「すまない、完全に年上かと……」
「よく言われます……」
「外見で判断するのは良くないな、悪かった」
黒田さんが謝っていると――
「私と同い年ですね」
ノエルがぽつりと言った。
「え、そうなの?」
「はい」
(もう少し若い年齢かと思ってた……)
改めて並べてみる。
どう見ても同い年には見えない。
(人は見かけによらないなぁ……)
「それにしても、そのハンマーすごいな」
黒田さんが興味深そうに見る。
「持ってみてもいいか?」
「うす」
「重っ……」
黒田さんとドロワくんが会話している。
「うーん……」
中村さんが腕を組む。
「パーティーのクセ、どんどん強くなってません?」
「ん?」
「正直、『普通枠』は僕くらいですよねー」
(お前が言うな……)
私は心の中で突っ込んだ。
◆◇◆
「よし、行くか」
黒田さんが言った、そのときだった。
「じゃあ自分はここで……」
「え? 帰るの?」
「その……自分なんかがいたら、迷惑かけるので……」
「そんなことない!」
即答だった。黒田さんが真っ直ぐに言う。
「君のおかげで俺たちは助かった。それだけじゃない。近くの町だって、被害が及んでいたかもしれない」
少しだけ間を置いて言う。
「……正直に言う。俺は一度撤退しようと思っていた。どうにもならないと思ったからだ。正直なところ、罪悪感もあった。だけど、君が来てくれて本当に助かったんだ。ありがとう」
静かに続ける。
「もしよかったら、俺たちと一緒に来てくれないか?」
ドロワくんは、少しだけ目を見開いた。
そして――
「……お願いします、兄貴!」
「ああ!」
がっしりと握手した。
「……なんかイカついなあ」
中村さんがぼそっと言った。
◆◇◆
こうして、私たちは五人になった。
時々、異空間の中の盗賊団の様子を確認しながら、王都へ向かう。
その道中、少しでも逃げる素振りを見せた者がいないわけではなかった。
しかし――
「少しでも逃げる素振り見せたら、分かってんだろうなァ!!」
私たちの中で最もイカつい男が、大鎚を振り回して脅し続けていた。
(さっきの人見知りしてた人と、同じ人……?)
「どうか命だけは……」
「そいつはどうかな? 姐さんの機嫌次第だな」
「ひぃ……」
(ええ……)
完全にギャングの親玉にしか見えなかった。
すかさずフォローを入れる。
「逃げないなら、大丈夫だよー……」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
そんなやり取りもあって、男たちはすっかり大人しくなっていた。
そして、ようやく――
「見えてきたな」
フィリアの大門。王都だ。
「そろそろ出しますか」
中村さんが空間を開く。
ぞろぞろと、盗賊団が吐き出された。
「意外と快適だった……」
赤い服の男がぽつりと言った。
途中から反省の様子も見えたので、拘束を解いて食事や必要な対応ができるようにしてあった。どうやらそれが功を奏したらしい。
王都の門を守る騎士に声をかける。
私たちの様子に気づいて、異常を察した様子だった。
「あのー、この人たちを捕まえたのですが」
「彼らは、もしや……!?」
「はい、以前脱走した盗賊団たちです」
私たちはそこで経緯を簡単に説明した。
騎士は絶句していた。
無理もない。盗賊団たちは20人ほどいたのだ。
ぞろぞろと縄で縛られたまま、抵抗する様子もなく並んでいる。
引き渡しを終えて、私は少し迷ってから騎士に声をかけた。
「あの、お願いがあるのですが……」
「はい、何でしょうか?」
「聖騎士の方と、お会いすることはできますか?」
「団長は、失礼、聖騎士はあいにく外出しており、現在街にはおりません。お名前とご用件をお聞きしてもいいですか?」
(そうだよね、いきなりは厳しいか。でも言うだけ言おう)
「私たちは『ダリオスの翼』という冒険者です。私の名前は河瀬真理亜。魔法研究に関わる、ある古い書物について確認したいことがありまして、聖騎士の方を通じてお話できればと思っています」
「……ダリオスの翼、ですか」
騎士はやや間を置いてから繰り返した。
(変なパーティー名だからかな?)
「分かりました、伝えます。もし聖騎士も会いたいということであれば、ご連絡します」
私たちはフィリアの宿に滞在することを伝え、騎士団からの連絡を待つことになった。
「なんとか伝言は取り次いでもらえそうだが、どうなるだろうか」
「待つしかなさそうですね、会う価値がなければ面談は厳しそうですけど……」
「まあ、今日はとりあえず、宿に向かいますか」
そうやって街の中を歩いていると、女性の集団がこちらに向かってきた。
「ノエル様!」
女性たちがノエルに群がり、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
(ノエル、様……? もしかして偉い人だったりする? そういえば以前、わざわざ従者が迎えに来ていたような……)
そんなことを考えていると、女性の一人がこちらに向かってきた。
「こちらの方々は、もしや――」
「ええ、マリア様とその仲間たちです」
「ええ!?」
「なんかその他大勢扱いですね」
中村さんがぼそりとつぶやいた。
「マリア様! 一度お会いしてみたかったです! あ、これ見てください!」
そう言って示された宝石。
夕日に照らされて、赤色に光っている。
「あ! 私も持ってます!」
「私も!」
気づけば、周りの女性たちが次々と同じ宝石を掲げていた。
(いつの間にそんなことになってたの……?)
「お願いがあります! 私を、メンバーに加えていただけませんか?」
「え?」
「女性メンバーの入れ替えがあったと聞いて。私で良ければ、ぜひお供させてください!」
「え?」
「私もお願いします!」
「私も加えてください!」
「どうかよろしくお願いします!」
次々と声が上がる。
気づけば、広場の一角が完全に埋まっていた。
するとさらに人が増えてきた。
「マリア様は、戦場の女神ミネルヴァのように、知略を用いて華麗に戦場を駆けていると聞きました! そして時には死神のように敵を薙ぎ払うとも……!」
口々に語り始める女性たち。
(変なあだ名……浸透してて嫌だなぁ……)
「ところでノエル様、マリア様は実際どのようなお方なのですか?」
ノエルに矛先が向いた。
「そうですね……」
ノエルが静かに口を開く。
「慈愛の心で、私を漆黒の竜からお救いくださいました。そして、マリア様とその仲間たちが、あの竜を討伐されたのです」
(あ、言っちゃった……)
「ええ!?」
ざわめきが一気に広がった。
女性冒険者たちの目がさらに輝く。
周囲の人通りも足を止め始めていた。
「もっと教えてください!」
「あの……」
私が言いかけたとき――
「おい、漆黒の竜を討伐したって言ってたぞ!」
「それに、死神の女がいるぞ!」
今度は屈強な男たちが集まってきた。
「なあ! こんな弱そうな男じゃなくて、俺と旅しねえか!」
一人の男が、黒田さんを指差しながら私に言う。
黒田さんが反応しかけたとき――
「なめてんじゃねえぞ!」
ドロワくんが一歩前に出る。
「兄貴、コイツ締めていいですか?」
「え?」
「おい、やんのかコラァ!」
「アァ? 来いよ!?」
男たちの小競り合いが突如始まった。
私から見て左側には、歓声を上げる女性たちの集団。
右側には、荒くれ者たちが一触即発の気配。
(なにこれ……)
「みなさん、あの宝石はお持ちのようですね」
ノエルが群がる女性たちに静かに問う。
「はい!」
「えー、マリアお姉様のそばにいるためには、“トーク力”も大事になってくるので――」
中村さんが女性たちに語りかけ始めた。
(コイツ……)
女性たちは必死にメモを取りながら、真剣な顔で頷いている。
(なんか病棟にいた頃の院内勉強会みたいだ……あの頃の自分も、こんな顔してたっけ……)
そんなことを思っていると――
「表出ろや!!」
近くにいる男の怒号が広場に響く。
(もうここは表だよ……)
広場は完全に騒然としていた。
その様子は少しも落ち着く気配がない。
(どうしてこうなった……)
私は王都のど真ん中で、頭を抱えた。




