東京チョーコーサッカー部・ソク・ソンミン part7
1980年 3月2日 日曜日 午前10時過ぎ 東京朝鮮中高級学校体育館
この日は、東京チョーコーの卒業式。
約500名の東京チョーコーの3年のハッセン(学生)達が、卒業式を迎える為に、体育館に一同に集まっていた。
もちろん、3年のハッセン(学生)達を見送るために、卒業するハッセン(学生)達のプモニム(両親)や、在校生たちも体育館に集合していた。
ソク・ソンミンも、卒業生の1人として、その集団に加わっていた。
「ソク・ソンミントンム(同志)!」
「イェ!(はい!)」
「ハナ(1)、トゥル(2)、セッ(3)!」
パシャッ!
校内では、卒業式を終えた卒業生達が、友人たちとインスタントカメラ片手に記念写真に高じていた。
みんなの顔は、笑顔であふれていた。
家族の会社を跡を継ぐもの。
在日関連企業に就職する者。
総連関連に就職する者(朝銀など)。
日本の企業に就職する者。
朝鮮大学校に進学する者。
日本の大学を目指して、夜間の日本の高校へ行く者
そして、差別がない実力の世界であると信じ、ヤクザの道へ進む者も。
上記の様に、卒業生たちの進路は様々で、それぞれ、これからウリハッキョ(私たちの学校)というある種、守られていた空間から、日本社会という荒波へと自らの意思で飛び込んでいくことになる。
卒業生の笑顔の裏には、そういう一抹の不安を抱える者も少なくなかった。
校内のグラウンドを1人見つめていたソク・ソンミンも同様であった。
日本の実業団サッカークラブへ入部は決まったものの、今までと違い、実業団内で在日は自分1人。
本当にやっていけるのか?
通用するのか?
チョーコーのアイドルでもあり、エースストライカーソク・ソンミンもまだ若干18歳。
若人ゆえの悩みを1人抱えながら、グラウンド前で黄昏ていているのであった。
「ソンミン、サジンチッチャ!(写真撮るぞ!)」
そんなソンミンを少し離れた場所から大きな声で呼びかける者がいた。
オク・ムリョル。
ギターが得意な、楽観主義の男であった。
文化祭時には、体育館でバンド演奏したりもした、結構女子生徒達からも人気のある人物である。
オクは、日本の大学に進んだのち、音楽関係の仕事に就くという夢があり、それを実現する為、日本の夜間高校へ進む事が決まっていた。
ソクは、オクの呼びかけに振り返った。
ソクを手招きするオクの周りには、卒業記念に渡された花束を持ちながら、10数人の男女の卒業生達がいた。
皆、ソクに笑顔を向けながら、オクと同じようにソクを呼んでいた。
「ウェグレ!(どうした!)エースストライカー!」
「ヨギソサジンッチクチャ!(こっちで写真撮ろうよ!)」
彼らのその姿を見たソクは、さっきまでの暗い表情が嘘のように笑顔になった。
(ああ、俺は何てバカだったんだ。こんなどうでもいい事にクヨクヨして)
「アラッソ!(分かった)チグムガルケ!(今行くよ)」
ソクは、彼らの集団へと向かって小走りで駆けだした。
(今、俺がこうやって地に足つけて走れてるのは、どんな時も支えあったトンポ(同胞)やウリハッキョ(朝鮮学校)があったからだ。なら、どこに行ったとしても、それに恥じない生き方をしなきゃ)
ソク・ソンミン18歳。
東京チョーコー第31期卒業生。
トンポ(同胞)達との記念写真を撮りながら、チョーコーOBとしての新たな自覚が芽生えた瞬間でもあった。




