東京チョーコーサッカー部・ソク・ソンミン part5
「行きます!」
(!!)
「まだ1年も時間があるので───えっ!?」
ソク・ソンミンは、即答した。
キム監督と八重樫監督、両者とも彼の即答に驚いた顔を浮かべた。
サッカーが東京で一番うまいと言われようともまだ高校2年生。
今後の人生を左右する決断に、こんな早く答えを出すとは思わなかったからだ。
八重樫監督は、即答したソク・ソンミンの顔を観察した。
ソクの顔には自信がみなぎっていた。
先ほどあいさつした時よりも、今の彼は一回り大きく見えた。
「ソク君の気持ちはよく分かった」
パン!
八重樫監督は、自身の右太ももを、右手の平で勢いよく叩いた。
「だが、一つだけ、ソク君にお願いがある!」
(おねがい?)
ソクは、少し身構えた。
どんな要求をされるのか?
もちろん、アスリートとしてハードルが高い事は望むところだが、あまりにも突飛な要求をされたらたまったもんじゃない。
ソクは、そんな考えを巡らしていた。
「来年までの1年間。ケガせず、今まで通りの君らしいプレーをすること。これが条件だ」
(え?)
ソクは、八重樫監督の提案が、あまりに普通な事で内心驚いた。
「それでいいんですか?」
「ああ、そうしてくれれば、来年までに、親会社を説得して見せる。既に君のプレーに親会社の上層部も満足しているから、既に決まったようなものだが。あ、富士丸サッカークラブの方は、既に君のプレーを確認してもらい、卒業後の加入の了承を得ている」
意外な提案に思わず、そう聞き返したソクに、八重樫監督は、自信満々に答えた。
スゥ。
「そういうわけだ。君は、何も心配せず、プレーに集中してくれればいい。ソク君。今後ともよろしく頼む」
「はい」
ソクは、八重樫監督が差し出した右手を、朝鮮の握手で握り返した。
翌年 1979年 10月 昼頃 富士丸サッカークラブ練習場
ソク・ソンミンと富士丸サッカークラブ監督・八重樫誠司との東京チョーコーでの握手から約1年。
ソク・ソンミンは、神奈川県川崎市中原区上小田中にある、富士丸サッカークラブ練習場に来ていた。




