第12話 心の声
第12話 心の声
「ほら、やっぱり子供にはわかるんだよ! 子供は素直で正直なんだよ」
俺はいつもの仕返しと言わんばかりに笑ってみせた。
「本当にあなたって、救いようのない馬鹿ね」
巴美は心底呆れたように深いため息をつき、額を押さえてうなだれた。
俺は女の子に振り返り、目線を合わせて優しく、小声で語りかけた。
「あのお姉さん、怖そうに見えるけど、本当は優しいところもあるんだぞ」
「……怖いけど、好き!」
女の子はいきなり声を張り上げた。
「おい、そんな大きな声で言うなよ」
「和樹は、わたしのことそう思ってるんだ……」
「俺は『好き』なんて一言も言ってないぞ! この子が勝手に言ったんだ!」
「ふーん、そうなんだ……」
巴美は何故か少し照れたように、小さな声で呟いた。
「あっちから来たのか?」
俺は照れ隠しに、これから進む本宮側の道を指さして女の子に尋ねた。
「あっちからきたのか」
「そうか、じゃあ一緒に歩こうか」
女の子と並んで山道を歩き出す。
後ろから巴美が追いつき、俺の背中越しに話す。
「和樹、あの子はね……」
「わかってるよ、少しおしゃべりで、真似っこが好きなお年頃なんだろ?」
「おにいさん、見たかった」
女の子が呟く。
「ん? 何をだ?」
俺が視線を向けると、山道の傍らに『鼻欠地蔵』の古い立札の脇に磨崖仏が鎮座していた。
「ああ、これのことか。昔の地蔵像だな。鼻が欠けてるだけで、怖くないぞ」
「本当に、煩悩だらけね……」
隣で巴美が、本日何度目かわからない溜め息を漏らした。
鼻欠地蔵を過ぎて少し坂を下ると、杉の巨木に囲まれたひっそりとした神社が現れた。
『月見ヶ丘神社』だ。
その境内には古い木の扉が固く閉ざされた『大日堂』が佇んでいる。
俺たちは木陰で少し休憩をとることにした。
「のぞきたい! 不思議、知りたい!」
木の扉が閉まった大日堂の前で女の子が跳ねる。
「ダメだよ、勝手に開けて覗いたら。中には仏様が祀られているんだよ」
俺が説明すると、後ろの巴美が呆れ果てた目で睨みつけていた。
「和樹……あなたって人は、どこまで恥ずかしい人なの……」
「なんだよ? 女の子が俺だけに懐くから妬いてるのか?」
「違うわよ、馬鹿!」
休憩を終え、大日越の山道をそのまま下っていくと、急に視界が開け、道は立派な石段に変わった。
麓の民家と道路が見えてきたので、俺はこの子は集落の子供だったのかと一人で納得して頷いた。
「ずっと、一緒にいたい」
女の子が俺の手をぎゅっと握り締めながら言った。
俺は素直に、この子にここまで懐かれていることが嬉しかった。
その時。
不意に後ろから、巴美の冷たい手が俺の肩に置かれた。
「和樹……その子。『木霊』よ……」
「えっ……?」
俺が固まった瞬間、女の子は無邪気な笑顔で叫んだ。
「バイクの背中気持ちいい、混浴したい、水着見たい!」
「……あなたの心の中にある『思っていること』を、そのまま口にする怪異よ」
「おねえさんの、心の中……みえない」
女の子は俺の手を離し、もと来た道に走り出した。
「バイバイ! おにいさん、おねえさん」
女の子の姿が山道に消えた。
そして、俺は絶望的な叫びを上げた。
「ちょっと待て……全部じゃない! ……俺は……そんなこと思ってない!」
巴美はくすくすと肩を揺らして笑い、下から俺の真っ赤な顔を覗き込んだ。
「……子供は正直ね、和樹」




