コスプレ集団と、大真面目な儀式
「あ、すみません、変な動きして。……あの、ここは一体どこですか? 私、誘拐された感じですかね?」
上ずった声で問いかける私を、石造りの大部屋を囲む「コスプレ集団」――もとい、きらびやかなローブ姿の老人たちと鎧の兵士たちが、信じられないものを見るような目で見つめている。
沈黙を破ったのは、一番立派な白い髭を蓄えた、いかにも偉そうな老人だった。彼は深くため息をつくと、手に持った精緻な彫刻の杖を床にコツンと打ち鳴らした。
「……誘拐、ではない。我が名はエリオット、このアルカディア王国の宮廷魔法士長である。異世界の迷い人よ、驚くのも無理はないが、落ち着いて聞いてほしい。そなたは我が国の命運をかけ、古の『勇者召喚の魔法』によってこの世界へと導かれたのだ」
「ゆうしゃ、しょうかん」
オウム返しに呟きながら、私は自分の手をグーパーと動かしてみる。
やっぱり、どこも痛くない。指の先までちゃんと力が入る。大気の中に、なんだか粒子のような、不思議な温かい力が満ちているのまで肌で感じられる。これが魔法の世界ってやつだろうか。
エリオットと名乗ったおじいちゃんは、私のそんな落ち着きのない態度を「突然の事態に混乱している」と解釈したのか、少し声を和げて続けた。
「現在、この世界は絶大なる力を持つ『魔王』の脅威に晒されている。我が国の存亡、いや、人類の未来は、召喚されし勇者――そなたの双肩にかかっているのだ」
「なるほど、魔王退治。……って、えええええっ!?」
遅れてやってきた事の重大さに、私は思わず素っ頓狂な声をあげて頭を抱えた。
「いやいやいや、無理ですよおじいちゃん! 私、さっきまでベッドの上で寝たきりだった超インドア派ですよ!? 運動神経だって、最後に計ったのがいつか思い出せないくらいなんですけど!」
「なっ、寝たきり……!? 伝説の勇者が、そのような虚弱な者であるはずが……」
「しかしエリオット様、召喚魔法の聖痕は確かにこの娘を指し示しております!」
周囲の魔法士たちがざわざわと慌て始め、部屋の空気が一気に混沌とし始める。
そりゃあ焦るよね、世界を救う救世主を呼び出したら、ただの元・病弱な女子高生が出てきたんだから。
外見はシリアスな魔法の世界なのに、起きている会話がなんだかちょっと噛み合っていなくて可笑しい。
でも、彼らが慌てて議論を交わすのを横目に、私はやっぱり、心の中で小さなガッツポーズを崩せずにいた。世界がピンチなのは大変申し訳ないけれど、この、どこまでも走れそうな軽い身体が手に入っただけで、今の私にとっては割と本気で「異世界、最高なのでは?」と思い始めていたのだ。
「とにかく、そなたの処遇については、まずは陛下と王女殿下にお目通り願ってからだ。……おい、そなた達、勇者様を別室へご案内し、旅装を整える手伝いを」
エリオットの指示で、二人の若い兵士が緊張した面持ちで私に近づいてくる。
こうして私は、戸惑いと、それ以上のワクワク感を胸に抱えたまま、人生で初めて「自分の足」で、異世界のお城の廊下へと踏み出すことになった。




