白い部屋の終わりと、謎の健康体
視界にあるのは、いつもと変わらない白い天井。
耳に届くのは、自分の心臓の音を淡々と刻み続ける電子音だけ。
私の世界のすべては、この数畳ほどの病室のベッドの上だった。
「みんなと同じように、自分の足で外を走れたらなぁ」なんて、叶うはずのない願いを心の奥底で繰り返す毎日。ぶっちゃけ、退屈すぎてスマホのゲームもやり尽くした。今日もそんな感じで、1日が終わるんだと思っていた。
――その時、視界がぐにゃりと歪んだ。
「え、何これ、めまい? ついに私逝っちゃう感じ?」
心電図の音が不自然に遠ざかり、代わりに頭の芯を揺さぶるような、低い地鳴りのような音が響き始める。
ベッドの感触がふっと消え、まるで底のない暗闇へと真っ逆さまに落ちていくような奇妙な浮遊感。私は怖くなって、ぎゅっと目を閉じた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
ふと、頬を撫でる心地よい風の感触に気づいた。病室の、あのツンとした消毒液の匂いではない。草や土の、生命力に満ちた青々とした匂いがする。
「……おい、光が収まったぞ! 中を見ろ!」
「儀式は成功か!?」
聞き覚えのない、低くて荒々しい男たちの声が耳に届く。
恐るおそる目を開けると、そこはファンタジー映画に出てきそうな石造りの広い部屋だった。
足元には、漫画で見たことあるような怪しい魔法陣。
そしてそれを囲むように、長い髭を生やしたローブの老人たちや、全身を金属の鎧で固めた兵士みたいな男たちが、ギョッとした顔で私を見つめていた。
「え、何この超本格的なコスプレ集団。TRPGのオフ会?」
口を開いてみて、自分でびっくりした。
声が、めちゃくちゃ通る。いつもなら一言喋るだけで息切れするのに、肺活量が爆発している感じがする。
床に足をつけ、立ち上がってみる。
いつも鉛みたいに重かった足が、嘘みたいに軽い。
「待って、私の足がゼリーじゃない! ちゃんと動く……!」
その場で小さくジャンプしてみたり、屈伸してみたりする私を見て、ローブのおじさんたちが一歩引いた。
「お、おい……あれが本当に伝説の『勇者』なのか……?」
「なんか、急に動き出したぞ……」
「あ、すみません、変な動きして。……あの、ここは一体どこですか? 私、誘拐された感じですかね?」
病室からいきなり怪しい部屋にワープした恐怖と、それ以上に「五体満足で動ける身体」を手に入れた感動が混ざり合って、私の声は少し上ずっていた。




