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第2話:孤高の同盟

第2話:孤高の同盟


柴桑の軍府は、冬の寒さも忘れるほどの熱気に包まれていた。だが、その熱気は決して融和的なものではない。周瑜と諸葛亮の間には、戦友というにはあまりに冷ややかな、しかし互いの才覚を認め合う者同士の緊張感が張り詰めていた。

挿絵(By みてみん)

「孔明殿、貴殿が劉備殿の軍師として提示した『連合』という策。それは我ら呉にとって、どれほどの利益があるというのだ」


周瑜は地図の上に置かれた駒を指先で弾いた。カチリと乾いた音が室内に響く。彼は諸葛亮の視線をまっすぐに見据え、その真意を探ろうとしていた。周瑜にとって同盟は、あくまで孫権の天下を盤石にするための手段に過ぎない。しかし、その過程で劉備という食えない男を利することは、できれば避けたいというのが本音だった。


諸葛亮は扇をゆっくりと動かし、羽のわずかな震えを落ち着かせた。


「呉の安定は、そのまま我らの生存に繋がります。しかし、今の状況で個別に戦えば、どちらも曹操の餌食となるのは明白。周瑜殿、貴殿は曹操の数に恐れをなしているわけではないのでしょう? 貴殿が恐れているのは、曹操その人よりも『この戦いの後に訪れる、勢力図の変容』ではありませんか」


核心を突く言葉に、周瑜の眉がピクリと動いた。


「……鋭いな。曹操を退けた後、天下は三つに分かれる。我々が血を流して得た勝利の果実を、劉備殿が横から掠め取る可能性を、どう否定する」


「否定はしません。ただ、今この瞬間に曹操を討たねば、掠め取る果実すら存在しないのです」


諸葛亮の声は穏やかでありながら、鋼のような芯があった。周瑜はその言葉に、しばし沈黙した。周瑜は孔明の知略を高く評価している。しかし、それ以上に「底が見えない」ということに警戒心を抱いていた。自分の掌で転がせる相手ではない。それは孔明もまた同じだった。


「良かろう。曹操を討つ。我ら呉の全兵力を出し惜しみなく使う。だが、もしもの時は……諸葛亮殿、貴殿のその智恵が、我らの背を刺すようなことがあれば」


「背を刺すなど、下策です。私と周瑜殿は、この天下という盤面において、ともに同じ時代を生きる『読み手』同士。敵味方である前に、互いの才を競い合う好敵手でありたいものです」


二人の間に、ほんのわずかな沈黙が流れた。それは戦友の誓いではなく、互いの命と知恵を賭けた、静かな火花だった。


「……面白い。では諸葛亮殿、まずは曹操軍を水上に誘い込むための『餌』を用意しなければならない。策の準備を始めよう」


周瑜は椅子から立ち上がり、窓を大きく開け放った。外では、孫権軍の兵たちが鍛錬に励む声が聞こえる。これから始まるのは、単なるぶつかり合いではない。曹操という巨人を翻弄するための、緻密で非情な罠の構築である。


歴史の歯車が、重い音を立てて回り始めた。二人の天才が描く戦略は、長江の波間へと静かに、しかし確実に広がっていく。

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