09.出会い(4夜目②)
ブレスレットを買ったあと、俺たちは露店でルナ用の土産も購入した。
「これ絶対喜ぶよね!」
ユナが嬉しそうに両手で掲げたのは、魔物肉の串焼きを包んでもらったものだった。
紙越しでも分かるくらい、香ばしい匂いがふわっと漂ってくる。
「“魔物のお肉食べてた”って言ってたしさ!こういうちゃんと焼いたやつも絶対好きだよね!」
「まぁな……あいつ、妙に食に貪欲そうだし」
「でしょ!?喜んでくれる顔、ちょっと楽しみかも」
くるくると包みを回しながら笑うユナ。
こういう時の顔は、本当に無邪気だと思う。
「でも食い過ぎて変な進化とかしないよな……」
「進化!?」
ユナの目が一瞬で輝く。
「それなにそれなに!?めっちゃ強くなったりするやつ!?」
「いや知らんけど」
「いいじゃんそれ!ルナがドラゴンとかになったらどうする!?」
「街が終わるわ」
思わず即答する。
「えー、でもちょっと見てみたくない?」
「見たくねぇよ。絶対ろくなことにならん」
そんなくだらない会話をしながら、俺たちは再びギルドへと戻った。
⸻
夕方のギルドは、昼間とはまるで別の場所のようだった。
依頼帰りの冒険者たちで溢れ、酒の匂いと笑い声が混ざり合っている。
成功を祝う声、報酬に文句を言う声、仲間同士で肩を組んでいる連中。
「……人、多いな」
思わず呟くと、
「ほんとだね……」
ユナも少し圧倒されたように、きょろきょろと辺りを見回していた。
「なんかさ、昼より“冒険者してる感”あるね」
「まあ、帰ってきた後だからな」
「この中なら仲間になってくれそうな人もいそうじゃない?」
期待を込めた目で俺を見る。
「ああ、さすがにこの時間なら、昼よりは見つけやすいはずだ」
⸻
しばらく周囲を観察する。
装備、雰囲気、会話の内容――
それとなく“新人っぽい”やつを探す。
できれば年齢も近い方がいい。
10代後半か、20代前半。
「……あの人とかどう?」
ユナが小声で耳打ちしてくる。
「いや、あれ絶対ベテランだろ。装備が違う」
「あ、ほんとだ……なんかオーラあるね」
昼にもしたような、そんなやり取りを何度も繰り返しながらも、声をかけていく。
⸻
だが――
「ごめん、もうパーティ組んでるんだ」
「悪いな、ソロでやる主義でさ」
「目標が高すぎるかな」
現実は甘くなかった。
気づけば1時間近く経っていた。
「……今日は諦めるか」
小さく息を吐く。
「えー!?まだ1時間くらいしか経ってないよ?」
ユナが不満そうに頬を膨らませる。
「もうちょっと頑張ろうよ。絶対いい人見つかるって!」
「……」
その顔を見ると、簡単に諦める気にはなれない。
「……分かったよ。あと少しだけな」
「やった!」
ユナはぱっと笑顔になる。
その瞬間――
⸻
「バァーン!!」
ギルドの扉が、勢いよく開かれた。
場の空気が一瞬で変わる。
振り向くと――
ローブ姿の少女が、血だらけの少女を背負って立っていた。
「……っ、助けて……ください……!」
声は震えている。
今にも崩れ落ちそうなほど、限界の状態だった。
「誰か……ポーションを……!」
だが――
誰も動かない。
視線は向く。
けれど、それだけだ。
「……なんで……」
ユナが小さく呟く。
「なんで誰も……」
「…無理なんだよ…」
俺は低く言う。
「ユナもわかってるだろ、あの傷じゃ、ランクの高いポーション必要だ。そんなものを他人に使う奴なんて…」
「……っ」
ユナが言葉を失う。
「……でも……!」
ユナは唇を噛む。
「このままじゃ、あの子……!」
「ねぇミナト……」
ユナが俺の袖を掴む。
「助けられないかな……」
冗談でも、勢いでもない。
本気で――助けたいと思っている声だった。
「……」
俺だって同じことを思っている。
だが――
手段がない。
こんなことならルナを連れて来ていれば、ユナの傷を治したルナならばもしかして…
その時
「ご主人、呼んだ?」
「!?」
宿にいるはずのルナの声が頭の中に響いた。
「ルナ!?」
「そうだよ。なんか大変そうだけど、僕行った方がいい?」
一瞬、理解が追いつかない。
だが――
「……ああ、頼む」
次の瞬間。
足元に、ぴょこんとルナが現れる。
「うわっ!?ル、ルナ!?」
ユナが驚いて声を上げる。
「説明は後だ」
正直、俺にも全くわからないが今は一刻も争う事態だろう。
俺はすぐにローブの少女の方へ向かう。
「俺が治す。だから、ついてきてくれ」
「……え?」
かなり怪しいだろうが、女の子疑う余裕すらないのだろう。
少女は必死に頷いて俺の後ろをついてギルドの外へとでた。
⸻
路地裏へと移動する。
人気のない場所。
ルナが怪我を治すあまり見せたくはなかった。
「……ここなら大丈夫か」
「ミナト……ほんとに大丈夫なんだよね?」
ユナが不安そうに聞いてくる。
「ああ。多分な」
「……多分って」
「でも、信じていいんだよね」
俺にもルナが治せるのかはわからない。
だが、ルナならもしかしたらそう思ってしまう。
⸻
「……今から見ることは秘密にしてくれ」
ローブの少女にそう告げる。
彼女は強く頷いた。
「ルナ、頼む」
「任せて!」
ルナがぴょんと跳ね、傷口を覆う。
「す、スライム……!?」
少女が目を見開く。
だが次の瞬間――
傷が、塞がっていく。
ゆっくりと、確実に。
「……すごい……」
ユナが思わず呟く。
「ほんとに……治ってる……」
その声には、驚きと、少しの誇らしさが混ざっていた。
⸻
「もう大丈夫だよ、ご主人」
ルナの声が頭に響く。
俺は頷き、代わりに伝える。
「もう大丈夫だ。
すぐに目も覚めるはずだ」
「……よかっ……た……!」
少女はその場に崩れ落ち、泣き出した。
ユナも、そっと隣にしゃがみ込む。
「大丈夫だよ。
もう大丈夫だからね」
優しく背中をさする。
さっきまでの焦りとは違う、落ち着いた声だった。
⸻
「あの……本当に、ありがとうございます……必ずお礼はします」
「お礼はいいよ」
俺は首を振る。
「それより、宿はどこだ?送るよ」
「え、でも……」
「遠慮すんな」
「……ユナもそれでいいよな?」
「うん。ちゃんと休ませてあげないとね」
柔らかく笑う。
⸻
こうして俺たちは、怪我をした少女を背負い――
もう一人の少女と共に、宿へと向かうことになった。
そして――
「……え?」
辿り着いた場所を見て、思わず声が漏れる。
「ここ……」
「わたしたちと同じ宿……」
「……マジかよ」
偶然にしては、出来すぎている。
ユナも驚いたように俺を見る。
「ねぇミナト……」
「ああ」
「これってさ――」
「運命ってやつかもね」
その言いユナは少しだけ笑った。




