10.パーティ結成(4夜目③)
宿に戻ってしばらくすると、眠っていた少女がゆっくりと目を覚ました。
状況を説明すると、何度も何度も頭を下げられてしまい、逆にこちらが困ってしまうほどだった。
「……とりあえず、ご飯でも食べに行こう」
そう提案し、俺たちは宿に備え付けられている食堂へと移動することになった。
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夕食時の食堂は、程よく人で賑わっていた。
木のテーブルと椅子が並び、温かい料理の匂いが空気に溶けている。
冒険者や旅人、商人、いろいろな人たちがそれぞれ食事を楽しみながら談笑していて、どこか落ち着いた空気が流れていた。
ギルドのような騒がしさはない。
こうして向かい合って話すには、ちょうどいい場所だった。
料理を注文し、テーブルにつく。
湯気の立つ皿が並ぶまでの、ほんのわずかな沈黙。
その静けさを破るように――
「あ、あの……」
小さな声が響いた。
「改めて……ありがとうございます……」
背筋をぴんと伸ばし、深く頭を下げるローブの少女。
「私は……ソフィアといいます……」
声は控えめで、少し震えている。
人見知りなのだろうか、視線もどこか落ち着かない。
その隣で、
「ありがとうございました!エルザです!」
ぱっと顔を上げ、元気よく名乗る少女。
まだ完全に回復したとは思えないのに、その声音には力があった。
無理をしているのか、それとも元々こういう性格なのか。
どちらにしても――強いな、と思う。
「……ミナトだ」
「ユナだよ!」
俺とユナも名乗り返す。
そして――
「あと、こいつがルナ」
テーブルの端で、夢中になって串焼きを頬張っているスライムを指さす。
「ピキャ」
口いっぱいに肉を詰めたまま、気の抜ける鳴き声で挨拶をしている。
その様子に、ソフィアとエルザは思わず目を丸くする。
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「……あの」
ソフィアが恐る恐る口を開く。
「本当に……あの子が……その、治してくれたんですか……?」
「まぁな」
俺が軽く頷くと、
「すごいな……」
エルザが素直に感嘆の声を漏らす。
「スライムってこんなことできるんだな!」
「できるのかな?」
思わず苦笑する。
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料理が運ばれてきたタイミングで、俺は話を切り出した。
「それでさ」
二人の顔を順に見る。
「なんであんな怪我してたんだ?」
その言葉に、ソフィアの肩がわずかに震えた。
「……エルちゃんは……私を庇って……」
視線を落としながら、ぽつりぽつりと話し始める。
「ゴブリンに囲まれて……私が、もっとちゃんと戦えていれば……」
声が小さくなっていく。
だが――
「いやいや、違うって」
すぐにエルザが遮った。
「ソフィはちゃんとサポートしてくれてたし!」
力強く、はっきりとした声。
「今回は完全に私のミスだよ。判断遅れたし、距離も詰めさせすぎた」
「でも……」
「でもじゃない」
エルザはきっぱりと言い切る。
「守れなかったのは、私の責任。ソフィが気にすることじゃないって」
少し強めの言葉。
けれどそこに、責めるような色は一切なかった。
むしろ――守るような、優しさがあった。
ソフィアはしばらく俯いていたが、やがて小さく頷いた。
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その空気を和らげるように、ユナが口を開く。
「ねぇ、2人って最初からパーティだったの?」
「いや、最初はソロだな」
エルザが肉を頬張りながら答える。
「組み始めたのは半年前くらい」
「私が……他の冒険者に絡まれていたところを……エルちゃんが助けてくれて……」
ソフィアが続ける。
「それで、一緒に……」
「ほんとあの時はやばかったよな」
エルザが苦笑する。
「三人がかりでソフィに絡んできてさ」
「え、それって……戦ったの?」
ユナが身を乗り出す。
「いや、無理無理」
エルザはあっさり首を振った。
「ランク上っぽかったし。だから人呼んだだけ、ギルドの職員とか、警備のおっちゃんとかさ」
あっけらかんと言う。
「街中だったからさ!」
「……でも、それでもすごいと思うよ」
ユナが素直に言う。
「ちゃんと助けようって動けるの」
「へへ、ありがとな」
エルザは少し照れたように笑った。
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「エルザはEランクなのか?」
俺が聞くと、
「私だけじゃなくてソフィもな」
と、エルザは当然のように言う。
「ね?」
話を振られたソフィアは、
「わ、私は……最近上がったばかりで……」
と、遠慮がちに答えた。
正直、驚いた。
エルザはともかく、ソフィアまでEランクとは。
見た目や雰囲気だけで判断するものじゃないな思う。
その時、ユナがこそこそと耳打ちしてきた。
「ねぇミナト」
「……なんだ」
「この2人、誘っちゃわない?」
期待に満ちた声。
「……奇遇だな」
俺は小さく笑う。
「俺も同じこと考えてた」
「ほんと!?」
ぱっと表情が明るくなる。
「じゃあ――」
そのまま勢いよく、二人の方へ体を向けた。
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「ねぇ、2人とも」
ユナの声に、エルザとソフィアが顔を上げる。
「よかったら、わたしたちとパーティ組まない?」
「……パーティ?」
ソフィアが戸惑うように繰り返す。
「うん」
ユナは大きく頷く。
「わたしたちね、Sランク冒険者を目指してるの」
まっすぐな、迷いのない声だった。
「今日ギルドにメンバー探しに行ってて……」
少しだけ間を置いてから、
「それでね…」
と、続ける。
「一緒に強くなれる人がいいなって思ってたの」
その視線は、まっすぐ二人に向けられている。
「それにさ――」
少しだけ、はにかむように笑って、
「なんか、運命感じちゃったんだよね」
「運命?」
エルザが眉を上げる。
「うん」
ユナは楽しそうに頷く。
「メンバー探してる時に出会って、同じ宿で、こうやって一緒にご飯食べてて」
「神様が出会わせてくれたのかなって」
少しだけ照れたように、
「だからさ」
と、続ける。
「もしよかったら――一緒に冒険しない?」
俺も口を開く。
「俺からも頼む」
二人の目を見る。
「2人のことは話してて信頼できるのを感じた」
「……そういう奴と組みたい」
短く、だがはっきりと伝える。
エルザとソフィアは顔を見合わせる。
言葉はない。
けれど、その間にある空気で――分かる。
少しして、
二人は同時に、小さく笑った。
「いいじゃん」
エルザが先に口を開く。
「Sランクとか、面白そうだしな!」
「乗った」
そう言って、にやっと笑う
そして――
「えと……」
ソフィアが、少しだけ緊張した様子で続ける。
「私……まだ未熟で……足手まといになるかもですけど……」
ぎゅっと手を握りしめながら、
「それでも……よければ……お願いします……!」
「ほんとに!?いいの!?」
ユナが立ち上がる勢いで声を上げる。
「ありがとう!やったー!!」
心から嬉しそうに笑う。
「……よろしくな」
俺も、自然と口元が緩む。
その瞬間。
テーブルの下から――
「ピキャ!」
ルナがぴょこんと飛び出してきた。
肉を咥えたまま、ぴょんぴょんと跳ねる。
その様子に俺たちは思わず笑ってしまう。




