表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/27

03.薬草採取(2夜目)

時計は、22時50分。


「……まあ、こんなもんだろ」


スマホを置いて、ベッドに入る。


部屋の電気を消すと、一気に静かになる。


ふと、右腕に意識が向いた。


包帯の下にある、あの傷。


「……また、あの夢見るのか」


小さく呟く。


けど——


今朝のことを思い出す。


あの後、もう一度寝た時は夢を見なかった。


「……なら、大丈夫か」


都合よくそう思い込む。


考えすぎても仕方ない。


俺はそのまま、目を閉じた。



そしてまた——


落ちる。


深く、暗い場所へ。


底の見えない穴に、引きずり込まれるような感覚。


身体の感覚が、ぐにゃりと歪む。


「あ、これ昨日と同じやつだ」


そう思った時には、もう遅かった。


意識は、そのまま沈んでいく。



気がつくと、視界が開けていた。


高い天井。


石造りの壁。


広間のような場所。


「……またか」


小さく呟く。


右腕に違和感を覚えて視線を落とすと、そこには包帯が巻かれていた。


けど——


(……なんだこれ)


昨日、自分で巻いたものとは明らかに違う。


無駄がなく、綺麗に整えられた巻き方。


まるで、誰かに手当てされたみたいに。


「……あー」


その瞬間、頭の中に何かが流れ込んできた。


断片的な記憶。


誰かに治療される自分。


歩いている自分。


誰かと会話している自分。


——覚えがないはずの出来事。


「……そういう仕組みか」


思わず、苦笑が漏れる。


どうやら、この世界は勝手に進んでいるらしい。


現実で過ごしている間も。


そして、その間の“自分”の行動は——


この世界に来た瞬間、記憶として流れ込んでくる。


(便利っちゃ便利だけど……)


違和感は拭えない。


自分じゃない自分の記憶を持っている感覚。


それでも——


(……まあ、夢だと思おう)


そう思えば、納得できる気もした。


「どーしたの、ミナト」


不意に声がした。


「急に立ち止まって」


顔を上げる。


そこにいたのは、ひとりの少女。


明るい茶色の髪を揺らしながら、少し不思議そうにこちらを見ている。


初めて見るはずなのに——


「……ああ」


誰なのかは、はっきりと分かる。


ユナ。


この世界での、幼馴染。


「悪い、ちょっとぼーっとしてた」


「もー、しっかりしてよね」


呆れたようにため息をつく。


その仕草が、どこか現実の誰かと重なった。


(……なんか、似てるな)


理由は分からない。


けど、不思議と安心する。


「カーン……カーン……」


大きな鐘の音が、街中に響いた。


「あ、もう12時だね」


ユナが空を見上げる。


「ちょうどいいしさ、ギルドでお昼ご飯食べちゃおっか」


「ああ、そうだな」


言いながら、頭の中にもう一つの記憶が浮かぶ。


——今日、ユナと一緒に依頼を受ける約束をしていた。


(幼馴染パーティ、ね……)


なんだそれ、って思うのに。


妙にしっくりくるのが、少しだけ不気味だった。



ギルドの中は、昼時ということもあって賑わっていた。


木製のテーブルと椅子。


冒険者たちのざわめき。


奥には受付カウンター。


「とりあえずご飯先にしよー」


ユナは迷いなく席に座る。


「昨日はさー、やらかしたよね」


パンをかじりながら、軽い調子で言う。


「……ああ」


昨日の光景が蘇る。


魔物。


突進。


そして、右腕の痛み。


「まさかあんな強いとは思わなかったよね」


「初依頼で討伐選んだのが間違いだろ……」


「それはある」


あっさり認める。


「結果、俺が負傷して終了だしな、他の冒険者の人がいて良かったよ」


「でもさ」


ユナは少しだけ笑って言った。


「死ななかったんだからセーフでしょ」


「基準がおかしいだろ」


「そんなもんだよ、この世界」


さらっと言い切る。


妙に説得力があった。


食事を終えた後、二人で受付へ向かう。


「すみませーん」


ユナが声をかけると、受付の女性がにこやかに応じた。


「はい、ご用件は?」


「採取系の依頼ってありますか?」


「ございますよ。南の森での薬草採取などはいかがでしょう?」


「それでお願いします!」


即決だった。


俺も特に異論はない。


「ではこちらの用紙に——」


手続きを進めながら、受付の女性がちらりと俺の腕を見る。


「お怪我、なさってますよね?」


「まあ、ちょっと」


「採取でも魔物と遭遇する可能性はございますので、武器の携帯をおすすめします」


「……ですよね」


苦笑するしかない。



南の森。


日差しはまだ明るいが、奥に入ると少し空気が変わる。


「やっぱりあんまりないね薬草」


ユナがしゃがみ込みながら言う。


「取り尽くされてるな、これ」


初心者向けの場所らしいし、仕方ない。


「……そろそろ戻るか」


空を見上げる。


少しずつ、色が変わり始めていた。


「夜になると、この辺でも出るらしいし」


「そーだね」


ユナも立ち上がる。


手に入った薬草は、ほんの少し。


「これじゃ一日分の食費にもならないよー」


「厳しいな」


こうして俺たちの初採取依頼は依頼達成の最低限に終わった。



街に戻ると、少しだけ人の流れが増えていた。


「ねえミナト」


ユナがくるっと振り向く。


「武器屋、行かない?」


「武器?」


「受付のお姉さんも言ってたじゃん。持っといた方がいいって」


「……まあ、そうだな」


正直、戦うのは避けたい。


けど——


この世界で生きる以上、避けられないのかもしれない。


「行くか」



武器屋の中には、様々な武器が並んでいた。


剣、槍、斧、弓。


「ミナトは片手剣にするの?」


「たぶんな」


棚から一本手に取る。


重さを確かめる。


(……まあ、いけるか)


中学と高校で剣道をやっていた。


もちろん竹刀とは違うが、何も知らないよりはマシだ。


「それよりユナは?」


「うーん……」


店内をうろうろしながら、色々な武器を見て回る。


「ミナトが剣なら、別のにしよっかなーって思ったんだけど」


「無理すんなよ?」


「わかってるって」


そう言いながら、しばらく悩んで——


結局、ユナが手に取ったのは。


「……剣かよ」


「うん、剣」


にやっと笑う。


「なんだかんだこれが一番扱いやすそうだし」


「結局そこか」


「大事でしょ?」


確かに、その通りだ。


会計を済ませて店を出る。


手元には、新しい武器。


そして——


軽くなった財布。


「……金、なくなったな」


「ねー」


ユナが笑う。


「私たち、ほんとにギリギリだね」


「笑い事じゃないだろ」


「でもさ」


少しだけ前を向いて、言う。


「なんとかなる気しない?」


その言葉は、やけに軽くて。


なのに——


少しだけ、救われる気がした。


「……まあな」


短く答える。


いつ目が覚めるのかはわからない。


現実じゃないはずの場所。


それでも——


この世界での時間はどこまでも続いていく気がした。

ミナト達のいる街についてです。

本文で書けなかったので後書きで。


・リーベルク


複数の街道と森に囲まれた中規模の冒険者の街

初心者〜中級者の冒険者が多く集まる“育成の街”として知られている。

初心者向け依頼が豊富であり、ダンジョンへのアクセスが良い

・西の森(魔の森)


ミナトが最初に目覚めた場所であり、魔物の密度が高く、ウルフやゴブリンの群れが普通に出る、奥に行くほど危険度が跳ね上がる。

・南の森(薬草の森)


初心者向けの採取エリアであり、薬草や低級素材が豊富

普段は安全だが…夜には魔物の目撃情報もあり、

奥にダンジョンが存在しており、稀に魔物が外へ流出するため、油断するとゴブリンなどに襲われる

「安全ではあるが無防備でいい場所ではない」


・北の街道


商業都市へ続く主要ルートであり、商人や旅人が多く、比較的平和であるが、盗賊団が出ることもある


・東の街道

●街の中の主要施設


・冒険者ギルド


街の中心にある一番大きな建物

冒険者の拠点であり、食堂兼酒場にもなっている。

朝は静か、夕方〜夜はカオス

・市場・露店通り


よくユナが遊びに行ってる場所

安物から掘り出し物まで幅広い、子供の手作り品なども売られている

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ