表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/27

26.オーガ②

私が初めて魔法に触れたのは、物心がついてすぐだった。


たまたま見た、お母さんの魔法。


綺麗で、優しくて――それでいて、とても強かった。


私はそれに惹かれて、自然と魔法について学び始めた。


中でも、攻撃魔法との相性は良かったんだと思う。


教えてもらったことは、すぐにできるようになった。


そのたびに、お母さんは優しく微笑んで褒めてくれた。


それが、嬉しくて。


もっと、もっとって思うようになった。



十歳になる頃には、一人で森に入っていた。


ゴブリンも、ウルフも一撃で倒せた。


そのことがバレて、お母さんにはすごく怒られた。


当たり前だ。


危ないことをしていたのだから。


それでも――


最後に、お母さんはこう言ってくれた。


「……すごいわね」


その一言が、何よりも嬉しかった。


だから私は、もっと強くなろうと思った。


どんな魔物でも、一人で倒せるように。


魔法の“威力”だけを、ひたすらに追い求めた。



十五歳になり、冒険者になった。


登録したてのFランク。


それでもその頃には、すでにDランクの魔物を一人で倒せる実力があって、いくつかのパーティから勧誘を受けた。


その中の一つに入り、やがて固定のパーティを組むようになった。


メンバーは、私以外全員Dランク。


本来なら、場違いなはずの私。


それでも――


「ソフィアがいれば大丈夫だ」


そう言って、頼ってくれた。


私は、魔法使いとして期待されていた。


どんな魔物でも、一撃で倒す火力。


それが、私の役割だった。


初めてのDランクダンジョン。


ボスは――オーガ。


「ソフィアの魔法があれば余裕だろ」


そんな言葉と一緒に、みんなは迷いなくボス部屋へ進んでいく。


正直、不安だった。


私の魔法は、威力だけを追い求めたもの。


スピードも、精度も――他の魔法使いに劣る。


そんな魔法が、通用するのか。


それでも――


期待されるのが、嬉しかった。


頼られるのが、誇らしかった。


だから私は、自分に言い聞かせた。


「大丈夫、私ならできる」って。


今思えば――


なんの根拠もないただの思い込みだった。



オーガは、強かった。


今まで戦ってきたDランクの魔物なんて、比べ物にならない。


私の魔法は――当たらない。


かすりもしない。


ただ、空を焼くだけ。


「もっとちゃんと狙え!」


「そんな遅さで当たるかよ!」


仲間の声が飛んでくる。


焦りと、恐怖。


呼吸が乱れる。


視界が狭くなる。


その中で――


オーガの視線が、私に向いた。


速い。


距離が、一瞬で詰まる。


(……死ぬ)


そう思った。


怖くて――


私は、目を閉じた。


それでも、何とかしなきゃって。


必死に、魔力を練り上げて。


自分が出せる、最大の一撃を――


オーガのいる方向へ、放った。


轟音。


焼ける匂い。


そして――


静寂。


恐る恐る、目を開ける。


オーガは、倒れていた。


……でも。


その間に、私を庇うように仲間が立っていた。


私の魔法は――


オーガだけじゃなくて。


その人ごと、貫いていた。


それからだった。


私が攻撃魔法を使おうとすると、体がうまく動かなくなってしまったのは。


もともと、魔法の威力だけには自信があった。


それがなくなった私はただの役立たず。


攻撃魔法を使えない魔法使いなんて、価値がない。


そう思われるのも、当然だった。


やがて私は、パーティから追放された。


それからは、地獄みたいな日々だった。


外に出るたびに元パーティの人たちに見つかっては、暴力を受けた。


罵られて、殴られて。


でも――抵抗する気にはなれなかった。


これはきっと、罰だから。


私がやったことへの、当然の報いだから。



そんなある日、私をその場から引き離してくれた人がいた。


それが――エルちゃんだった。


ぶっきらぼうに手を引かれて、そのまま言われた。


パーティを組もうって。


どうしてそんなことを言ったのか、今でもわからない。


それでも私はエルちゃんに救われた。


エルちゃんは私を外へ連れ出してくれて、私はもう一度、魔物と向き合えるようになった。


……ううん、違う。


一緒に戦ってる“つもり”になっていた。


私は後ろに立って補助魔法を使うだけで、守られているだけなんだから。



それから半年ほど経って、ミナトさんたちからパーティに誘われた。


エルちゃんはパーティに入ることに賛成した。


でも、私は嫌だった。


Sランクを目指すミナトさんとユナさんは、役立たずの私をきっと捨てる。


新しい仲間を見つけたエルちゃんも私を捨てるんだと。


それでも、私だけが反対してすぐに一人になるのは、もっと怖かった。


だから私は、ミナトさんたちとパーティを組んだ。



パーティに入ってから、私は少し安心していた。


ミナトさんとユナさんは、思っていたよりも弱かったからだ。


ゴブリン一体相手でも、慎重に戦わなければならないほどに。


それに二人は、とても優しかった。


パーティに加わったばかりの私たちを気遣ってくれて、補助魔法を使っただけの私に、お礼を言ってくれる。


これなら、私も――補助魔法だけでやっていける。


そんなふうに、思ってしまった。



その考えが間違いだと気づいたのは、それからすぐだった。


二層で、ウルフと戦った時。


ミナトさんは、ウルフを前にして動けなくなった。


まるで――私が攻撃魔法を使おうとした時みたいに。


でも、ミナトさんは私とは違った。


ウルフ三体を相手に、動けないはずの体を無理やり動かして――


過去を、断ち切った。


それにあの時のミナトさんの力。


あれは、エルちゃんから聞いていたSランク冒険者と、同じ力。


あぁ、きっとこのパーティは強くなる。


補助魔法だけでやっていけるなんてただの甘えだった。


Sランクと同じ力を持っているミナトさん。


本当の実力を隠しているけど、誰よりも強いエルちゃん。


そして、前だけを向いて、誰よりも早く成長していくユナさん。


私には――その全部が、眩しかった。


過去を断ち切ったミナトさんと比べて。


いつまでも、情けなく守られているだけの自分が――恥ずかしかった。


私も、変わりたい。


そう思えた。



それから私は、夜になると攻撃魔法の練習をするようになった。


誰にも見つからないように。


ただ、一人で。


仲間と一緒に、冒険を続けるために。


今度は――私が、仲間を守れるようになるために。


だから今日の冒険も。


攻撃魔法を練習する、いい機会だと思って――


私は、頷いた。


それなのに。


魔物を前にした私は、結局――補助魔法しか使えなくて。


ミナトさんを、オーガと一人で戦わせて。


また私は――守られているだけだった。



「……わたしの、せいで……」


震える声が、喉から零れる。


「ミナトさんが……こんな……」


言葉が、続かない。


オーガによって、私のそばまで吹き飛ばされたミナトさんは気を失っていた。


さっきまで、傷だらけの体を震わせながら、それでも必死に動こうとしていたのに。


泣いている私に、声を絞り出して、安心させようとしてくれた。


全部弱い私を、守るために。


視界の端で、オーガがゆっくりと動く。


狙いは私じゃない。


その先。


気を失っているミナトさんに、とどめを刺そうとしている。


「やめて……」


かすれた声で必死に絞り出す。


いつも守ってくれていたエルちゃんはいない。


いるのは気を失っているミナトさんと私だけ。


ここには私を守ってくれる存在はいない。


私が自分でなんとかするしかない。


でも――


足が、動かない。


逃げたい。


怖い。


あの時から、ずっと私を縛りつけている感情が、溢れてくる。


「……それでも……」


小さく、呟く。


「そんなの……関係、ない……」


何のために攻撃魔法を練習してきた。


ミナトさんは怖くても逃げたくても戦った。


体が動かなくても動かそうと頑張り続けた。


私を守るために。


ミナトさんがそうしたように。


今度は私がミナトさんを守る。


震える膝に、無理やり力を込める。


立て。


立て。


立て。


「……もう逃げたく、ない……」


オーガと目が合う。


あの時と同じ、圧倒的な恐怖。


逃げ出したくなる。


「……今度は……」


一歩。


踏み出す。


「……目を、逸らさない……!」


震える手を、前に伸ばす。


杖に魔力を集める。


上手くいかない。


形にならない。


それでも――止めない。


オーガが腕を振り上げる。


「――撃つ!!」


叫びと同時に、魔力を解き放つ。


バチッ――


不完全な魔力の塊が、弾けるように飛び出す。


狙いも、威力も、不完全。


それでも、オーガの顔面に、直撃する。


「ガァァァッ!?」


初めてオーガの動きが、止まった。


「……はぁ……はぁ……」


息が荒い。


体は震えている。


膝も、今にも崩れそうだ。


「……わたしは……」


ゆっくりと、もう一歩踏み出す。


「……もう、逃げません……!」


声は震えている。


それでも――私は確かに、前を向いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ