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23.魔纏の異端者

「今日は付き合ってくれてありがとな」


「……いえ、わたしも暇だったのでちょうど良かったです」


ソフィアから魔力の扱い方を教えてもらった翌日、俺は彼女を誘ってダンジョンに来ていた。


まだどこか距離があるように感じるソフィア。


ユナとエルザが訓練に行っている間に、少しでも仲良くなれないかと思って誘ってみたのだ。


意外にも、ソフィアは二つ返事で了承してくれた。


「今日は夕方まで、一層でゴブリンだけ狩って帰ろうか」


「は、はい……よろしくお願いします」


ソフィアは小さく頷いたあと、少しだけ視線を落とす。


どこか緊張しているようにも見えた。


「そんな固くならなくていいって。危なくなったらすぐ引くし、無理はしない」


「……はい。ですが、その……」


言い淀むソフィアに、俺は首を傾げる。


「足手まといには、なりたくないので……」


「ならないって。むしろ今日は連携の練習みたいなもんだし、いつもみたいに補助魔法でサポートしてくれ」


そう言って軽く笑うと、ソフィアは少しだけ安心したように表情を緩めた。


「……はい。精一杯、サポートします」



ダンジョン一層。


薄暗い森の中に、湿った空気と土の匂いが広がっている。


視界の奥から、低い唸り声が響いてきた。


「ミナトさん、右から……二体、来ます」


ソフィアがゴブリンの位置を教えてくれる。


「任せてくれ」


現れたゴブリンは二体。


粗末な棍棒を持ち、こちらに気づくと甲高い声を上げて突っ込んでくる。


俺は剣を構えながら、体の中の魔力の流れを意識する。


――あの時の感覚。


ソフィアに教えてもらった、あの纏うような感覚を思い出す。


もしかしたら、魔物を前にすれば再現できるかもしれない。


だが――


(……やっぱり、だめか)


あの時の力は、まるで応える気配がなかった。


そのまま、ゴブリンとの戦いに踏み込む。


「……強化、かけます」


背後から、小さな詠唱。


直後、体がわずかに軽くなった。


(来たな)


ソフィアの補助魔法だ。


それだけで、動きが一段階鋭くなる。


ゴブリンの一体が右から棍棒を振り上げる。


それを紙一重で躱し、踏み込み――横薙ぎに剣を振る。


鈍い感触。


一体目がその場に崩れ落ちた。


だが、もう一体がすぐに間合いを詰めてくる。


「ミナトさん、左――!」


言われるまでもなく、気配は感じていた。


振り下ろされる棍棒を剣で受け、弾く。


重い衝撃が腕に伝わるが、そのまま体勢を崩さずに踏み込む。


思えば、ゴブリンを二体同時に相手にするのは初めてかもしれない。


だが――


(意外と、なんとかなるもんだな)


呼吸を整え、もう一歩踏み込む。


ソフィアの支援があるからか、体がよく動く。


迷いはなかった。


振り抜いた一撃が、二体目のゴブリンを捉える。


短い悲鳴とともに、その体は崩れ落ちた。


静けさが戻る。


「……すごいです。二体同時でも、あんなに落ち着いて……」


少し驚いたような、けれどどこか安心した声。


「いや、ソフィアの補助があったからだよ。かなり動きやすかった」


そう言うと、ソフィアは一瞬きょとんとして――


「……お役に立てて、よかったです」


控えめに、でも確かに嬉しそうに微笑んだ。



「そういえば……ミナトさん、さっき……あの時の力、使おうとしてましたか……?」


ソフィアが、先ほどの戦闘を思い出すように口を開く。


「ああ、そうだよ。魔物の前なら使えるかもなって思ったんだけど……やっぱりダメだった」


肩をすくめながら答える。


「そ、そうなんですね……あの……間違ってるかもしれないんですけど……ひとつ、思い出したことがあって……」


「思い出したこと?」


「は、はい……ミナトさんが使っていた、あの魔法について……」


「ほんとか!?」


思わず身を乗り出す。


「あ、は、はい……で、でも……わたしも聞いた話なので……もしかしたら全然違うかもしれなくて……」


「それでもいい。教えてくれ」


「は、はい……!」


小さく息を吸ってから、ソフィアは言葉を紡ぎ始める。


「これは……わたしとエルちゃんがパーティを組んで、少しした頃に……エルちゃんが話してくれたことなんですけど……」


記憶を辿るように、ゆっくりと続ける。


「上級の冒険者になる人たちは……それぞれ、自分だけの得意な魔法を持っていることが多くて……」


「その魔法に由来した名前が、“二つ名”として呼ばれることがあるそうなんです……


「その中でも……エルちゃんが憧れているって言っていた冒険者の魔法が……ミナトさんのものに、少し似ていて……」


「エルザの憧れ……?」


「は、はい……」


小さく頷く。


「その冒険者の二つ名は――“魔纏の異端者”……」


その言葉に、思わず息を呑む。


「その人の魔法は……まるで魔力を纏っているように見えたことから、そう呼ばれるようになったみたいで……」


「魔纏、か……」


思わずその名を口にする。


「は、はい……どんな効果なのかまでは、わからないんですけど……でも、“魔力を纏う”っていう点は……ミナトさんと、同じだなって……」


「す、すみません……あまり参考にならないですよね……」


少し不安そうに視線を揺らす。


「いや、そんなことない」


すぐに言い切る。


「同じような魔法を使う冒険者がいたってわかっただけでも、十分だ。それに、いつか直接会って、教えてもらえるかもしれないしな」


「あ……い、いえ……それは……多分、難しいと思います……」


いつか会ってみたいななんて思った俺の発言をソフィアは否定する。


「え、なんで?」


「その……わたしも気になって、少し調べたことがあって……」


少しだけ声を落とす。


「その冒険者の方は……およそ百年前に存在した、Sランクの冒険者だったそうなんです……」


「記録が残っているのも、その頃までで……それ以降は、何も……おそらく……ダンジョンで、事故に遭ったのではないかと……」


「……そうか」


静かに息を吐く。


「もう、いないのか」


わずかな沈黙。


「じゃあ帰ったら、エルザに聞くしかないな、その憧れの冒険者ってやつについて」


「は、はい……!エルちゃんなら、何か詳しく知ってるかもしれません……」


ソフィアはそう言って、小さく笑って頷いた。

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