表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/27

19.ダンジョン攻略(7夜目①)

ダンジョンに入って三日目。俺たちは三層まで到達していた。


「はぁっ!」


振り下ろした剣が、コボルトの肩口を裂く。小さく呻き声を上げたコボルトが崩れ落ちたのを確認して、ようやく息を吐いた。


三層に入ってからというもの、俺はずっと前に出されている。


「疲れてるねーミナト」


ユナが軽い調子で声をかけてくる。


「そう思うなら、そろそろ代わってくれよ」


思わず愚痴が漏れる。


「二層での借り、返してくれるんだろ? ボス部屋までは連れてってくれよな」


エルザはニヤけ顔でそんなことを言ってくる。


「な、ボス部屋までってマジかよ。ブラックすぎるだろ……」


三層に入ってからコボルトと遭遇したのは、これで七回目。そのうち六回は俺が一人で戦っている。


最初の一体目は「コボルトと戦ってみたい」と言うユナが倒したが、それ以降は「昨日は誰かのせいで疲れたなー」というエルザの一言で、すべて俺に回ってきた。


お詫びのつもりで引き受けたとはいえ、ここまでとは思っていなかった。


幸い、一度に出てくるのは多くても二体。対処できないわけじゃないが、さすがに連戦続きで体力が削られていく。


「あ、あの……補助は、しっかりかけますので……その……頑張ってください……!」


控えめな声が背中から飛んでくる。


「ありがとなー。俺の味方はソフィアだけだよ……」


苦笑しながら剣を構え直す。


マップを見る限り、もう少しでボス部屋のはずだ。あと少し――そう思っていた。



「やっとボス部屋だー……」


三層の最奥にある洞窟。重々しい扉の前にたどり着いた瞬間、俺はそのまま壁に背を預けて倒れ込んだ。


三層のボス部屋は、階層の中でも最奥にある洞窟の一番奥――そこにぽつんと存在していた。


ここに来るまでに戦ったコボルトとは合計で十六回も戦った。数にすれば三十体近くは倒しているはずだ。


奥に進むほど遭遇頻度は上がり、最後の方はさすがに危ない場面もあった。


そういうときは決まって、エルザが石を投げて牽制してくれていたが。


「はい、ミナトお疲れ様」


ユナから差し出された水袋を受け取る。


「サンキュー……」


乾いた喉に水が染み渡る。生き返るような感覚だった。


「ボス部屋を覗いてきたが、ボスはオークみたいだ。どうする?ミナトも疲れてるみたいだし今回は戻るか ?」


エルザは洞窟の奥、扉の向こうを一度確認してくれたらしい。


このダンジョンのボスは、ホブゴブリンかオークのどちらか。


ホブゴブリンは取り巻きがいて面倒だが、一体一体はそこまで強くない。対してオークは単体だが、純粋な脅威度はホブゴブリン以上とされている。


「何言ってんだよ、まだまだやれるよ。ここまで来たんだ。せっかくなら倒していこう。」


息を整えながらも、そう答える。


「そうだね。それに、ボス部屋の中には帰還の魔法陣もあるはずだもんね」


ボスを倒した先には、このダンジョン唯一の魔法陣がある。それを使えば、一瞬で入口まで戻れる。


「了解! ……じゃあオークも頼むな、ミナト!」


エルザはボスまでも俺に押し付けようとしてくる。


「え、えっと……エルちゃん、さすがにボスは……みんなで戦った方が、いいと思うよ……」


「そ、そうだ、オーク相手に俺一人はきついぞ!」


「冗談だよ、冗談。流石に私も戦うよ」


あっさりと肩をすくめる。


「あ、冗談だったんだ。ミナトなら案外、一人でもいけそうな気がするけどなー」


さらっと無茶なことを言ってくる声を、意識的に聞き流す。


「よーし、じゃあみんなで戦うぞ。開けるからな」


そう言って、重たい扉に手をかける。


深く息を吸い――押し開いた。


洞窟の最奥、ボス部屋の中へと俺たちは入っていく。



ボス部屋内部は薄暗く、湿った空気がこもる石造りの空間だった。


天井は高く、壁には苔のようなものが張りつき、ところどころから水滴が落ちている。足元は踏み固められた土と岩が混じり、これまでの戦闘の跡なのか、乾いた血のような黒ずみがあちこちに残っていた。


そして――


その中央に立っているオークは……異様な威圧感を放っていた。


全身は分厚い筋肉に覆われ、緑がかった皮膚はまるで岩のように硬そうだ。身の丈は俺たちの頭ひとつ分は軽く上で、肩幅も広い。手に握られているのは、粗雑だが重量のありそうな巨大な棍棒。


その呼吸一つひとつが重く、空気を震わせる。


ぎょろりとした目が、こちらを捉える。


――次の瞬間には、殺しに来る。


そう確信できるほどの圧だった。


ただ立っているだけなのに、これまで戦ってきた魔物とは比べ物にならない。


「……これが、Dランクか」


思わず、喉が乾く。


一歩踏み込めば、命のやり取りが始まる。


そんな緊張感が、部屋全体を支配していた。



「俺が足止めする。ユナとエルザはその間に後ろから攻撃を頼む!」


「「了解!」」


オークがこちらへと踏み出した瞬間、戦いが始まる。


俺の声を合図に、二人は左右に分かれ、背後を取るように走る。


「補助魔法かけます……ストレングス」


ソフィアの魔法が柔らかな光となって身体を包み込む。


力が、底から湧き上がってくる。


俺はそのままオークへと踏み込み――


棍棒と剣がぶつかり合う。


ガンッ!!


重い。


強化されているはずなのに、それでも押し返される。


だが――


(ここで退くわけにはいかない)


後ろにはソフィアがいる。


歯を食いしばり、なんとか踏みとどまる。



「やぁっ!」


「おらぁ!」


エルザとユナの背後からの一撃。


「グルァァッ!!」


その一撃でオークの力が一瞬だけ緩む。


「今だ!」


その隙を逃さず、剣に力を込める。


棍棒を弾き、そのまま腹へと斬り込む。


「くそ、浅いか……!」


確かに当たった。


だが、分厚い皮膚に阻まれ、傷は浅い。


二人の攻撃も同様だ。



「ミナト!危ない!」


気づいたときには、棍棒が振り下ろされていた。


「くっ……!」


咄嗟に剣で受ける。


だが衝撃を殺しきれず、身体が宙に浮く。


地面に叩きつけられ、息が詰まる。


「大丈夫!?」


「なんとか……な」


息を整えながら立ち上がる。


「それより、もう一回だ。同じ形でいくぞ!」



再び、同じ形でぶつかる。


俺が受け、二人が削る。


だが――決定打にはならない。


何度繰り返しても、オークの硬い皮膚は致命傷を許さない。


(……くそ、なんかないのかよ、あいつを倒せるような一撃は……)


ソフィアが言っていた、あの力。


あれが使えれば――


だが、ウルフの時以来、再現できていない。


今はあの力には頼れない。


それなら――


別の何か。


そう思い、視線を巡らせる。


部屋全体を。


そして、オークの全身を下から上へと見上げる。


(……ある)


どれだけ硬くても。


剥き出しの、柔らかい部位が――ひとつだけ。


だが、このままじゃ届かない。


なら――


「2人とも、次は足を狙ってくれ!」


「……そういうことか、任せろ!」


「了解だよ!」


短く返ってくる。


2人とも俺のしたいことを理解してくれたようだ。



オークの一撃を――避ける。


今度は受けない。


ギリギリで躱し続ける。


時間を稼ぐ。


「ユナ!合わせろ!」


「オッケー、いくよ!」


二人の攻撃が、オークの右足に叩き込まれる。


鈍い音。


体勢が崩れ、巨体が、こちらへ倒れ込んでくる。


「これなら――どうだ!」


剣を構える。


狙いは一点。


そのまま、突き上げる。


ぐしゃり、と手応え、俺の剣はオークの目を貫いた。


「グルァァァァァァッ!!」


今までで一番大きな鳴き声、間違いなくダメージが入った。


だが――


まだ、終わらない。


オークは倒れかけた体を、強引に起こす。


剣を握っている俺の身体は宙へと浮く。


「くそ……離すかよ!」


剣を握りしめたまま、しがみつく。


足を首に絡め、体勢を固定する。


だが――


棍棒が、再び振り上げられる。


自分ごと、俺を叩き潰すつもりだ。


「させない!」


「やらせるかよ!」


ユナとエルザが同時に飛び込む。


2人の攻撃が棍棒を弾き、軌道を逸らす。



今しかない。


「これで――終わりだぁ!」


刺さった剣を引き抜き――


もう片方の目へ、全力で突き刺す。


「グルァァァァァァァァァァッ!!」


先ほど以上の絶叫。


そして――


静寂。


オークの体から力が抜ける。重たい音を立てて、巨体が崩れ落ちる。


荒い呼吸だけが、この場に残る。


「……終わった、な」


ぽつりと漏れる声。


オークにはもう動く気配はない。


――間違いない。


正真正銘、俺たちの勝ちだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ