18.ダンジョン攻略(6夜目③)
「ミナト!」
ユナが駆け寄ってくる。
勢いそのままに、俺の腕を掴んだ。
「ね、言ったでしょ! ミナトなら大丈夫だって!」
満面の笑み。
傷だらけの腕や足も気にしていないみたいに、無邪気に笑っている。
「……お前な」
思わず苦笑が漏れる。
「無茶すぎるだろ、さっきの」
「えー? でもちゃんと動いたでしょ。いつまでもイジイジしてるミナトには、一番効いたんだよ」
悪びれもせず、あっさりと言い切る。
実際、ユナのおかげなのは間違いないので、何も言い返せなくなる。
「それに――」
ユナは満面の笑みで、まっすぐに俺を見た。
「ちゃんと、信じてたから」
その一言に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
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「最初からそれやれよな」
いつの間にか隣に来ていたエルザが、ぶっきらぼうにそう言った。
だが、その声からは、さっきまでの苛立ちはもう感じられない。
「……迷惑かけたな。悪かった」
短く、それだけを口にする。
本当にみんなには迷惑をかけた。そして助けられた。
その分の恩返しはこれから先でやるつもりだ。
「……まぁ、今回は許してやるよ」
ユナはその言葉を聞いた瞬間、ぱっと顔を明るくして、ソフィアと嬉しそう手を合わせる。
その場に、少しだけ穏やかな空気が戻る。
さっきまでの重苦しさが、嘘みたいに薄れていた。
――完全に消えたわけじゃない。
それでも、確実に一歩は前に進めた。
そんな感覚があった。
⸻
「……で、どうする?」
エルザが周囲を見回しながら言う。
「もう少し進むか、それとも今日はここまでにするか」
さっきまでとは違う、ただの確認。
その問いに、自然と視線が俺に集まる。
少しだけ考えてから、口を開いた。
「……行こう」
短く、そう言う。
「まだ、やれる」
さっきまでの自分では考えられないほど、迷いのない声だった。
「……へぇ」
エルザが、少しだけ楽しそうに笑う。
「いい顔になったな」
「さっきまでとは別人みてぇだな」
からかうような口調。
それでも――その奥にはほんのわずかな評価が混じっている気がした。
「よーし、じゃあ進もっか! サクッと三層まで行っちゃおう!」
ルナに傷を治してもらっていたユナが、元気よく声を上げる。
その声を合図に――
俺たちは、三層への階段を目指して歩き出した。
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「……あの、ミナトさん……」
歩みを再開した俺に、ソフィアが少し遠慮がちに近づいてくる。
「お怪我は……大丈夫、ですか……?」
心配そうに、こちらを見上げてくるような視線。
「ああ、大丈夫。かすり傷ひとつもないよ」
そう答えると、ソフィアはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「よかったです……本当に……」
小さく微笑むその表情は、心の底から安心したようだった。
「さっきの……とても、かっこよかったです……」
少しだけ照れたように言葉を続ける。
「その……怖い気持ちを、ちゃんと乗り越えて……前に出て……」
「……すごい、と思いました」
まっすぐで、ソフィアらしい言葉だった。
「ありがとな。ソフィアも信じてくれて。すごい助かったよ」
「と、とんでもないです……そんな……私なんて……」
少し慌てたように視線を逸らしながらも、どこか嬉しそうに頷く。
「それで、その……ミナトさんって、魔法は……使えたりしますか……?」
「いや、使えないよ? 魔法の存在だって昨日知ったぐらいだし」
炎を出したりしてみたいとは思うが、現時点ではまったく使えない。
「そ、そうなんですね……」
少し考えるように間を置いてから、続ける。
「で、でも……さっきの戦い……あれ、多分ですけど……私のとは別の……ミナトさん自身の補助魔法みたいな状態、になっていたと思います……」
「え、マジで?」
思い返す。
ウルフとの戦いのとき――あの時、確かに今まで感じたことのない力が身体に満ちていた。
ソフィアの補助魔法すら上回るような、あの全能感。
「は、はい……」
小さく頷く。
「魔法って、魔力を体の外に出したり、形にしたりするものなんですけど……」
「さっきのミナトさんは……魔力を、全身にまとっているように見えました……」
その言葉に、思わず足を止める。
さっきの感覚を思い出すように、全身に力を込める。
「どう、ソフィア。今はできてる?」
「え、えっと……ごめんなさい……今は、まったく……」
申し訳なさそうに首を横に振る。
「やっぱりそうだよなー。使えるようになったら便利そうなんだけどなー」
いくら力を込めても、あの時の感覚は戻ってこない。
「その……よかったら、なんですけど……」
おずおずと、けれど勇気を出したように口を開く。
「私が、魔力の扱い方……少しなら教えられると思います……私の補助魔法とは違いますけど……きっと、ヒントにはなるはずなので……」
遠慮がちだが、確かな意思がこもっていた。
「ありがとう、ソフィア。助かるよ。じゃあこのダンジョンから出たら教えてもらってもいいか?」
「は、はい……! 喜んで……!」
ぱっと表情が明るくなる。
その様子に、思わず少しだけ笑みがこぼれた。
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「おーい、何してるのー! 先進んじゃうよー!」
少し離れた先から、ユナの声が響く。
どうやら、話している間に距離が開いてしまったらしい。
顔を見合わせ、軽く頷き合う。
「行くか」
「は、はい……!」
そうして俺たちは、小走りで仲間たちを追いかけていった。




