表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/27

17.ダンジョン攻略(6夜目②)

21時にもう1話投稿します。

昼食をとった後も、俺たちの間に流れる重苦しい空気は変わらなかった。


昼食を口にする間も、誰も喋らない。

視線も合わない。ただ時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。


そして――

昼食後初のウルフとの集団戦が終わった直後。


「今日はもう帰ろうぜ。ミナトがこんなんだとは思わなかった」


エルザが吐き捨てるように言う。


その一言で、空気が完全に止まる。


あぁ、俺のせいだ。


俺がウルフと戦えていたら、こんな空気にはならなかった。

エルザにこんな言葉を、言わせることもなかった。


胸の奥が、じわじわと重く沈んでいく。


(……このまま帰ったら)


きっと、このパーティは終わる。


いや、正確には――俺だけが外されるのかもしれない。


ユナは反対してくれるだろうか。


でも――

ユナがSランクを目指すなら、俺なんかと一緒にいるべきじゃない。

あいつは、エルザたちといるべきだ。


(……しょうがない)


そう、諦めかけた、そのときだった。


「ねぇ、エルザちゃん。もう一回だけ、ミナトにチャンスをあげてくれないかな」


午前中ずっと黙っていたユナが、顔を上げてそう言った。


だが――


「甘すぎないか? 今までウルフとの戦闘は何回あった? その全部で、こいつは動けなかったんだぞ。今さらどうにかなるとでも思ってんのか?」


苛立ちを隠そうともせず、鋭い言葉が返される。


その矛先は俺だけじゃない。

ユナに向ける口調まで、明らかに強くなっていた。


それでも――


「うん、そうだよね。エルザちゃんは、何回も待ってくれてた。それなのに…わたし、ミナトがこんなになるなんて思ってなくて…何もできなかった。ごめんね」


視線を落として、自分を責めるように言う。


それから、顔を上げエルザを真っ直ぐと見つめる。


「でもね、次は違うよ。次は、わたしが…わたしがなんとかしてみせる。だから…ミナトを信じられないなら、わたしを信じて。あと一回だけでいいから、チャンスをくれないかな。お願い!」


そう言って、深く頭を下げる。


迷いのない、まっすぐなお願いだった。


その姿に、胸が締め付けられる。


――なんで、ここまでしてくれるんだよ。



「エルちゃん……あの……」


少し戸惑いながら、ソフィアも静かに一歩前に出る。


「ミナトさんは前にウルフと戦ったときのことが、まだ残っていて……でも、それでもここまで来てくれてて……」


優しく、言葉を選びながら続ける。


「だから……あと一度だけでいいから、機会をあげて、私からも、お願い……」


そう言って、小さく頭を下げた。


ユナほど勢いはない。それでも、真剣な想いが伝わってくる。


「はぁー……しょうがねぇな」


長いため息。


しばらくの沈黙のあと、視線がこちらに向けられる。


「あと一回だけだぞ」



それからも変わらず二層を歩く。


湿った土の匂いと、どこか張り詰めた空気。

誰も口を開かないまま、足音だけが静かに続いていた。


やがて――


草むらの奥から、低い唸り声が響く。


姿を現したのは、五体のウルフ。


灰色の毛並み、鋭い牙。

逃げ場を塞ぐように、俺たちの前に広がる。


そんな中みんなの視線は俺へと向く。


最後のチャンス。


そう分かっているのに、身体は動かない。

指先がわずかに震えるだけで、一歩も踏み出せない。


「はぁー……やっぱりダメだったか。期待した私がバカだったよ」


呆れたように、吐き捨てる声。


そのまま、エルザはウルフの方へと歩き出そうとする。


だが――


「エルザちゃんは手出さないでね!」


その腕を、ユナが掴んで止めた。


場の空気には似合わないほど、明るい笑顔で、声で。


「ソフィアちゃん、補助魔法だけお願い!」


「は、はい……任せてください……!」


柔らかな光が広がる。

身体に力が満ちていく感覚――ストレングス。


そのままユナは、俺の手を取った。


まるで、露店を回るために、無理やり引っ張られたあの日みたいに。


笑顔のまま。


そして――


俺を引きずるように、ウルフの群れへと向かっていく。


「わたしは右の2体やるから、ミナトは左の3体お願いね」


軽く言ってのけると、そのまま遠心力を使って


放り投げた。


「な……なにして……」


驚きの声が出る。


だが、その言葉が終わる前に――


ウルフが飛びかかってくる。


あの日と同じ光景。

最初にこの世界で、恐怖を刻み込まれた瞬間。


牙が迫る。


(また――)


その瞬間。


反射的に、身体が動いた。


剣を握り――振り上げる。


ガンッ、と鈍い音。


ウルフの牙を、確かに受け止めていた。


「よかったね、ミナト。今度は防げたじゃん」


明るい声が、横から飛んでくる。


見るとユナは、二体のウルフを相手に戦っていた。

だが、余裕はない。


こちらを気にしながら動いているせいか、動きにわずかな乱れがある。

その隙を突かれ、腕や足に小さな傷が増えていく。


それでも――


止まらない。


「今のミナトは、あの時とは違うよ。ゴブリンとの戦いだって余裕だったし、今だって咄嗟の攻撃を防げてる。目標だって出来たでしょ。」


攻撃を受けながらも、言葉を続ける。


「ミナトなら大丈夫。わたしの知ってるミナトは、こんなところで止まらない。もう逃げなくていい――過去ならここで終わらせよ、ミナト。全力で!」


その言葉が、胸に落ちる。



――そうだ。


俺は、あの日の俺じゃない。


ただ退屈な日常を過ごしていた、あの頃とは違う。

ここには仲間がいる。目指す場所がある。


俺はSランクを目指す――冒険者だ。


こんなところで、立ち止まっていいはずがない。


気づけば、恐怖は消えていた。


身体が、軽い。


さっきまでの重さが嘘のように、自由に動く。


それどころか――今まで感じたこともないような力が溢れてくる。



目の前のウルフが、再び牙を剥く。


その攻撃を受け止めている剣に力を込め、そのまま振り抜く。


一閃。


それだけで、ウルフの身体は真っ二つに裂けた。


血が舞う。


倒れた一体を見て、残りの二体が同時に飛びかかってくる。


だが――遅い。


大きく振り下ろす。


一体を叩き斬る。


さらに、その勢いのまま剣を返し、地面すれすれから切り上げる。


もう一体も、空中で断ち切られた。


静寂。


俺の前に立っていたウルフは、すべて倒れている。



――まだ終わりじゃない。


ユナの方に向かわないと。


そう思って顔を上げる。


だが――


「遅かったな、もう終わってるぞ」


ユナの方を見るとそこにはエルザの姿。


足元には、すでに倒れたウルフ。


どうやら、俺が戦い始めたのを見て、援護に回ってくれていたらしい。


その事実に、思わず力が抜ける。


「はは、カッコつかねぇな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ