表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/27

16.ダンジョン攻略(6夜目①)

予約投稿の時間ミスってて、昨日は1話しか投稿できてませんでした。

今日は3話投稿します!

目が覚める。

天井を見ても、周りを見渡しても、目に入るのは簡易的な布ばかり。


いつもとはまったく違う景色に、俺は一瞬だけ違和感を覚える。


どうやら俺は、夢の中で一日を過ごしてしまったらしい。


幸い今日は休日で、大学はなく、特に予定もない。

問題はない――どころか、今の俺にとっては、むしろ都合がいいとさえ思えた。

こっちの世界で過ごせる時間の方が、現実よりもずっと濃く、意味のあるものに感じてしまっている。


「おーい、起きてるかー」


エルザの声がテントの外から声が聞こえる。


昨日は男女で分かれて、二つのテントに寝泊まりした。

わざわざ起こしに来てくれたのだろう。


そう思い、布を押し上げて外に出る。


「おはよう」


「おう、おはよう」


軽く言葉を交わすと、エルザはすぐに本題に入った。


「それより、ほら。新しい剣」


差し出されたそれを見て、思わず目を見開く。

見慣れないが、しっかりとした造りの剣だった。


「お、おう……ありがとう。エルザは剣も使えるのか?」


「いや、使えないぞ?」


あっさりと否定され、思わず間の抜けた声が出る。


「じゃあなんで、こんなもの持ってきてるんだ?」


「言ったろ、なんとかしてやるって。買ってきてやったんだよ」


当然のように言う。


「え……どこで?」


「街に決まってるだろ。大変だったんだからな。ソフィたちが寝てから急いで行って――おかげで五時間くらいしか寝てない」


さらっと言ってのけるその内容に、頭の中で計算が走る。


昨日、俺たちがテントに入ったのがおよそ八時間前。

つまり――俺たちが半日かけて進んできた道を、三時間もかからずに往復したことになる。


「……はは、化け物だな」


思わず漏れた本音に、


「おいおい、それが剣を用意してもらったやつの言葉か?」


呆れたような視線が返ってくる。


「悪い悪い。ありがとな、この剣。大切に使わせてもらうよ」


そう言って、手にした剣を軽く握る。

重みが、やけにしっくりと馴染んだ。


やっぱりエルザは強い。


昨日のことを思い出しながら、そんな考えが頭をよぎる。


だが、もしそれが本当だとしても、無理に聞き出すつもりはなかった。

これからも一緒に冒険を続けていくのだから、きっと――いつか、向こうから話してくれる。


その時を、待てばいい。



俺たちは朝食を済ませ、二層への階段を下りていく。


石でできた階段はひんやりとしていて、足音がやけに大きく響いた。

一段、また一段と下るごとに、空気がわずかに重くなっていくような気がした。


やがて視界が開ける。


「二層も、あまり一層とは変わらないんだな」


辺りを見回しながら、思ったままを口にする。

広がるのは一層と同じような森の景色。


「…このダンジョンは、全フロアこんな感じみたいです」


穏やかな声でソフィアがそう答える。


「変わるのは出てくるモンスターだけだな。二層はウルフが出てくるはずだぜ」


エルザの言葉に、わずかに息が詰まる。


ウルフ。


俺が冒険者初日に、怪我をーー恐怖を負わされた魔物。

あの鋭い牙、素早い動き、そして――何もできなかった自分。


(……大丈夫か、俺)


心の中で問いかける。


もし、またあいつと対峙した時、俺はまともに動けるのか。

剣を握って、前に出ることができるのか。


だが――


(上を目指すなら、こんなところで止まってる場合じゃない)


怪我なんて、これから何度でもするだろう。

恐怖だって、いちいち立ち止まっていたらキリがない。


そう思った、次の瞬間だった。


――ガサッ。


草を踏み分ける音。


視線を向けた先に現れたのは――灰色の毛並み、鋭い牙。


ウルフだ。


しかも一体じゃない。


二体、三体――四体。


「四体か……ちょっと厄介だな。全員で戦うぞ!」


「補助は任せてください」


エルザの言葉に併せてソフィアの補助魔法が身体を包む。

昨日と同じ、ストレングスの魔法だ。力がわずかに引き上げられる感覚がある。


それを合図に、エルザとユナが同時に駆け出す。


斧を構えた背中と、軽やかな足取り。


――戦いが始まった。


エルザは二体を相手に、軽やかに、そして確実に立ち回っている。

攻撃を受け流し、隙を見て反撃。無駄が一切ない。


一方で――


ユナの方は苦戦していた。


補助魔法がかかっているとはいえ、二体同時は厳しい。

必死に攻撃を受け流し、防ぐので精一杯だ。


「おい、何してるんだ!早くお前も戦え!」


エルザの怒声がソフィアの横で立っているだけの俺へと飛ぶ。


その声に、身体がびくりと震えた。


(行かなきゃ――)


頭では分かっている。


このままじゃユナが危ない。

俺が加われば、状況は変えられる。


でも――


足は動かなかった。


目の前のウルフの牙が、やけに大きく見える。

あの時の記憶が、鮮明に蘇る。


痛み。恐怖。無力感。


ルナに治してもらったはずの右腕が、疼くような錯覚さえあった。


(……無理だ)


「クソ、しょうがねぇな」


その声と同時に、空気が変わる。


エルザが一瞬で間合いを詰める。

振るわれた斧が、まるで風のように軌跡を描く。


二体、瞬時に沈む。


そして間髪入れず、


「ユナ、伏せろ!」


ユナが地面に身を伏せたその上を、斧が薙ぐ。


残りの二体も、抵抗する間もなく地に伏した。


静寂が戻る。


荒い息遣いと、草が揺れる音だけが残った。



戦いは終わった。


誰も怪我はしていない。

それなのに、空気は重く、張り詰めていた。


エルザの足音が近づいてくる。


「おい、なんで動かなかった。あのままじゃユナは怪我してたぞ」


目の前まで来て、鋭い声が突き刺さる。


何も言えない。


身体はまだ震えているだけで、まともに動かない。


「なんとか言えよ!」


胸ぐらを掴まれる。


強く、強く引き寄せられる。


「え、エルちゃんやめて……ミナトさんは前にウルフに……」


「知ったことじゃねぇよ……!」


遮るように吐き捨てる。


「ここから先もウルフが出てくるたびに、お前は仲間だけに戦わせるつもりなのかよ」


言葉が、胸に突き刺さる。


ソフィアの視線が、心配そうに揺れている。

二人の間を、何度も行き来していた。


そのとき、ようやく――身体が動いた。


喉が、震える。


そして、絞り出すように言葉が出た。


「悪かった、次はちゃんと戦う」


それだけだった。


それ以上、何も言えなかった。



それからも、何度もウルフと遭遇した。


ゴブリンとは違い、ウルフは群れで行動しているのだろう。

常に複数で現れ、戦いは自然と役割分担になっていく。


補助魔法がかかる。


ユナが数体を引きつけて時間を稼ぐ。


その間に、エルザが確実に数を減らす。


そして片付け終えれば、そのままユナの援護へ回る。


連携としては、完璧だった。


――ただ一人を除いて。


戦闘が終わるたびに、エルザの視線が向く。

何も言わなくても分かる、その圧。


そして、詰め寄ろうとするのを、ソフィアが必死に止める。


そんなやり取りが、何度も繰り返された。


俺は――結局、その後の数回の戦闘で一度も前に出ることはできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ