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13.ダンジョン攻略(5夜目②)

俺たちが足を踏み入れたダンジョンは、“初心者ダンジョン”と呼ばれている場所だった。


地上に広がる一層、そこから地下へと続く二層、三層。


一層にはゴブリン、二層にはウルフ、三層にはコボルト。


そして三層の奥――ボス部屋にのみ、Dランクの魔物が存在する。


そこに入らない限りは、出てくるのはすべてEランク相当。


だからこそ、新人冒険者たちの登竜門として使われており、初心者ダンジョンなんて呼ばれている。



「不思議だよねー」


ユナが、空を見上げながら呟いた。


「ダンジョンの中なのにさ、木があって、太陽まであるなんて」


見上げれば、確かに空がある。


青く澄んだ空。


柔らかい光を落とす太陽。


風も吹いているし、木も揺れている。


ダンジョンの中だと言うのに外にいるとしか感じない。


「そうか?」


エルザは肩に斧を担いだまま、あっさりと言う。


「ダンジョンなんて、だいたいこんなもんだろ?」


「えー、そうなの?」


ユナが目を丸くする。


「もっとこう……石の壁で囲まれてて、迷路みたいなやつ想像してた」


「俺もだな」


思わず頷く。


ゲームとか本で見たダンジョンは、だいたいそんな感じだった。


「もしかしたら、2人の地元にはそういうのもあるのかもな」


エルザが笑う。


「あはは、あったら面白いね……」


ユナはそう言ってもう一度空を見上げた。



「……あ、少し道ずれてるかもです」


後ろから、控えめな声。


振り向くと、ソフィアがマップを覗き込みながら立ち止まっていた。


「もう少し左側に進みましょう……こっちです」


小さく手で示す。


「助かる」


俺は素直に礼を言う。


「この先も頼むな」


「い、いえ……その……」


ソフィアは少し俯く。


「私、戦闘ではあまり役に立てないので……その分、こういうことで頑張らないと……」


「何言ってんだよ」


横からエルザが笑う。


「ソフィの魔法にはこれから助けてもらうつもりだよ」


「そ、そんなこと……」


照れたように視線を逸らすソフィア。


その様子に、ユナが優しく笑った。


「私も頼りにしてるからね、ソフィアちゃん!」


「……はい」


小さく、でもはっきりと頷いた。



ダンジョンに入る前、俺たちはギルドでいくつかの準備を整えていた。


マップ、保存食、水袋。


魔物避けの粉に、簡易テント。


今回はンジョン内で2泊していけるところまで行ってみるつもりだ。


「……ミナトさん」


ソフィアが、ふいに小さな声で言う。


「その……木の陰に……」


「ん?」


「ゴブリンが、います……」


「え?」


ユナがきょろきょろと周囲を見る。


「どこ?全然見えないけど……」


俺も視線を巡らせるが、特にそれらしい影は見当たらない。


「右側の……五本目の木です」


そう言われて、改めて視線を向ける。


その瞬間――


「おらっ」


エルザが石を拾い、軽く投げた。


カンッ、と木に当たる音。


そして――


「ギッ!?」


木の陰から、ゴブリンが飛び出してきた。



「ほんとにいた……!」


ユナが驚いたように声を上げる。


「ソフィア、すごいな」


俺が言うと、ソフィアは慌てて首を振る。


「い、いえ……これは、その……索敵の魔法で……」


「ほらな?すごいだろ!」


エルザが得意気に笑う。


「ソフィの得意分野!」



ゴブリンは棍棒を握りしめ、こちらを睨んでいる。


まだ一体。


なら――


「ユナ」


俺は声をかけた。


「……一人でやってみるか?」


「えっ、私だけ?」


「危なくなったらすぐ助ける」


少し間を置いて、続ける。


「前のは油断だったんだろ?」


前回ユナはどんな戦い方をしたのか。見れば何かアドバイスできるかもしれない。

そう思い、提案する。


「……」


ユナは一瞬だけ考えて――


「……うん、やる」


小さく頷いた。


その目には、さっきまでの不安よりも強い意思が宿っていた。


「任せて」



ユナが一歩前に出ると同時にゴブリンが仕掛けてきた。


ゴブリンが棍棒を振り上げる。


狙いは頭。


荒く、力任せの一撃。


普通なら、まともに受ければただじゃ済まない。


「っ――!」


ユナはそれを――


“ギリギリで”避けた。


ほんの数センチ。


頬をかすめるほどの距離で、体を捻る。


「……っ」


そのまま、流れるように踏み込み。


片手剣を横薙ぎに振るう。


だが――


「ギッ!?」


ゴブリンも反応する。


とっさに棍棒で受け止める。


金属と木がぶつかる鈍い音が、森の中に響いた。


「くっ……!」


弾かれる衝撃。


ユナの細い腕には明らかに重い。


それでもユナは、歯を食いしばりながら剣を握り続ける。


一歩、後ろへ。


無理に押し合わず、距離を取る。


視線は一瞬も逸らさない。


ゴブリンの動きだけを、真っ直ぐに追い続ける。


(速くはない……でも、ユナには重いか……)


さっきの一撃が頭をよぎる。


まともに受けていたら、ただじゃ済まなかっただろう。


「ギィッ!!」


再びゴブリンが踏み込んでくる。


今度はさっきよりも強引に。


棍棒を大きく振りかぶり――振り下ろす。


「――っ!」


今度のユナは、避けなかった。


ほんの一歩だけ、前へ出る。


“間合い”の中へ、自ら踏み込む。


ガンッ!!


振り下ろされた棍棒を――


真正面から受けるのではなく、剣をわずかに傾けて流す。


力で受け止めずに、受け流す。


「……っ!」


その瞬間。


ゴブリンの体勢が、ほんのわずかに崩れる。


大振りゆえの隙。


ほんの一瞬。


(今……!)


ユナは右足で地面を蹴り、腰を入れる。


無駄を削ぎ落とした一閃。


「はぁっ!!」


狙いは――首元。


真っ直ぐ振り抜く。


「ギッ――」


ゴブリンの反応は、間に合わない。


視線が追いつくよりも先に――


刃が届く。



ズバッ――


鈍い感触とともに、剣が肉を断つ。


ゴブリンの体が一瞬だけ硬直し、


そのまま力なく崩れ落ちた。



「……はぁ……っ」


ユナはその場で小さく息を吐く。


剣を構えたまま、すぐには動けない。


手の震えが、まだ止まらない。


「……や、やった……?」


自分でも信じきれていないような声。


その時――


「やったじゃん、ユナ!」


後ろから、エルザの声が飛んできた。


その一言で、ようやく実感が追いついたのか、


「……うん……!」


振り返るユナの顔には少しの驚きと、確かな達成感が混ざっていた。


「ちゃんと……倒せた……!」


ぎゅっと握った剣が、わずかに震えている。


「驚いたな、いつでも動けるようにしてたんだが、無駄になるとは」


「だから言ったじゃん!前のは油断だって」


「それにミナトの剣を見てたからね」


見ていたと言っても俺がユナの前で剣を振るったのはゴブリンとの1戦だけだったはず。


それだけで、あそこまで動けるのならユナには剣の才能があるのかもしれない。

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