14.ダンジョン攻略(5夜目③)
「ユナさんすごいです……あんなに戦えるなんて……」
さっきの戦闘を思い出しながら、ソフィアがぽつりと呟く。
その視線の先には、まだ少し息を整えているユナの姿。
「一昨日負けたって聞いてたからさ、正直ちょっと心配してたんだけど……」
エルザが肩をすくめて笑う。
「全然そんな必要なかったな」
「ありがとねー、2人とも!」
ユナはにこっと笑ってから、ちらっとこっちを見る。
「ね、ミナト?これで分かったでしょ?あの時はほんとに油断してただけなんだから」
「……だとしても、だ」
俺は少しだけ厳しい声で返す。
「魔物相手に油断は命取りだ。次は通用しない可能性だってある」
「うっ……」
一瞬だけ言葉に詰まるユナ。
「……ミナトのせいだもん」
「は?」
「色々思い出しちゃったし……」
「だから何が俺のせいなんだよ」
「もういいもん!」
ぷいっと顔を逸らし、頬を膨らませる。
よく分からないやつだ。
だが――その空気はすぐに変わる。
「それより!」
くるっと振り向き、今度はソフィアに満面の笑みを向けた。
「次はソフィアちゃんの補助魔法ありで戦ってみたいな!」
「え、えっと……わたしのですか……?」
突然話を振られて、ソフィアは戸惑いながら杖を握る。
「いいじゃんソフィ、かけてあげなよ」
エルザが軽く背中を押す。
「う、うん……じゃあ……」
「ほんと!?じゃあ次お願いね!」
さっきまでの不機嫌はどこへやら。
こういう切り替えの早さは、ある意味すごいと思う。
⸻
それから少し進んだところで――
「前に……2体います……」
ソフィアが小さく声を上げる。
その視線の先。
草むらの影から、ゆっくりと姿を現すゴブリンが二体。
「任せて!ソフィアちゃん、お願い!」
ユナが剣に手をかけ、一歩踏み出そうとした――その時。
「待った」
前に出たのは、エルザだった。
「2体なら、私に任せてくれ」
にやっと笑いながら、斧を肩に担ぐ。
「さっきはユナにいいとこ持ってかれたしな。今度は私の番だ」
「えー!?」
ユナが不満そうな声を上げる。
「せっかく補助魔法かけてもらえると思ったのにー」
「今回は譲ってやれ、ユナはまた後でな」
俺も軽く言う。
補助魔法ありでもユナが2体を相手にするのは心配だったから、エルザの提案には大賛成だ。
エルザが言わなければ、俺が戦ってみようと思っていた。
「……まぁ、2体いるししょうがないか」
「応援してるね、エルザちゃん!」
「おう、ちゃんと見とけよ」
そう言って、エルザは前へ出る。
⸻
エルザが前に出ると同時に――ゴブリンが動いた。
唸り声を上げながら、左右に分かれて飛び込んでくる。
挟み撃ち。
だが――
「遅いっての!」
エルザは笑ったまま、一歩前へ。
振り下ろされる棍棒を、紙一重で回避。
そのまま――
「はぁっ!!」
下から上へと斧を振る。
重い一撃が直撃し、片方のゴブリンの胴を真っ二つに叩き切る。
「ギッ――!?」
崩れ落ちる一体。
だが、エルザの後ろにはもう一体が棍棒を振り上げていた。
「はいはい、次ね」
エルザは振り向きざまに一歩踏み込む。
そして――
横薙ぎ。
避ける隙すら与えない速度。
ズンッ――と鈍い音。
ゴブリンの体が地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「よし、終わりっと」
エルザは軽く肩を回し、こちらへ振り向く。
そして――ピース。
「すごいすごい!エルザちゃんちょー強いね!」
ユナが勢いよく駆け寄る。
「お、おう……」
その勢いに珍しく少し戸惑うエルザ。
「圧倒的だったな」
俺も正直な感想を口にする。
「まぁな。ゴブリンは慣れてるから、2体くらい余裕だよ」
その言葉には、確かな実力の裏付けがあった。
⸻
その後も、俺たちはゴブリンと何度か遭遇した。
俺も一対一で戦い、動きを確かめる。
そして――
「いきます……!」
ソフィアの声。
淡い光が体を包む。
《ストレングス》
筋力を引き上げる補助魔法。
その瞬間――
「……軽い」
剣が、まるで別物のように振れる。
ユナも同じだった。
「え、なにこれ……すごっ!」
振るうたびに、ゴブリンの体が容易く裂ける。
まるで――紙だ。
「すごいな……これ」
思わず呟く。
ソフィアは役に立てないなんて言うが、パーティでは重要であることを再認識する。
⸻
そんな中――
『ねぇ、ご主人』
頭の中に、ルナの声が響く。
『僕も戦ってみていい?』
「いいけど……大丈夫か?」
『僕だけ仲間外れは嫌だからね』
『じゃあゴブリン探してくるね!』
そう言って――森の中へ消える。
「……自由すぎるだろ」
「ルナどこ行ったの?」
「ゴブリン探しに行ったらしい」
「え、1人で!?」
「大丈夫だろ、あいつなら」
⸻
数分後。
草をかき分けて戻ってきたルナの後ろには――
ゴブリンが一体。
「っ!?」
思わず身構える。
だが――
『大丈夫だよ!僕の戦い、見てて!』
ルナは急停止。
そして――
次の瞬間。
“消えた”ように見えた。
いや、違う。
速すぎる。
「――っ!?」
風を切る音。
一直線の突進。
ゴブリンの腹に直撃。
「ギッ!?」
そのまま吹き飛ばされて木へと直撃する。
そして――
ぴょん、と跳ねるように顔へ覆いかぶさる。
ゴブリンがもがく。
だが、離れない。
覆い、包み込み――
やがて。
動きが止まった。
完全に。
『どう?』
満足そうな声。
「……圧勝だな」
思わず苦笑する。
ユナもぽかんとしていた。
「ルナ……強すぎない?」
「ああ……」
本当にとんでもないスライムを従魔にしてしまったみたいだ。




