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あの日満開の桜の下で 〜目が見えにくい彼との物語〜  作者: 綾瀬 桜


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動き出す季節 その1

 彼と最後に会ってから、三週間。大学で授業を受けている時も。美幸とランチをしている時も。お母さんに頼まれて買い物をしている時も、ずっと。心にぽっかりと穴が開いたような虚しさに襲われて。その穴から、私の生命力が流れ落ちている気がして。身体中の機能が、明らかに低下していた。

 週末は、毎週のように彼と会って、話をして、手を繋いで……

 それなのに。もう、携帯が鳴ることもなくて。彼との思い出に浸ることもできずに、心の中はぐちゃぐちゃに乱れて。

 ……会いたいよ。

 その一心で、来る日も、来る日も。枕をぐっしょぐしょになるまで涙で濡らした。

 今朝も、枕の冷たさで目が覚める。頬に手をやると、乾いた涙がパリパリになって張り付いている。……まただ。

 一体いつまで、こうしていればいいのだろう。

 体をゆっくりと起こして、カーテンを開くと、窓にはしっかりと霜が降りていて。冬の気配が、着実に忍び寄っていた。

 見てみたいな。冬仕様の奈月ちゃん。

 彼の声が、聞こえてきてしまう。

 ……どうすれば、見せれるのですか。

 その場に泣き崩れそうになって、勢いよく机に手をついて、どうにか体を支える。足を引き摺るようにして、椅子へと辿り着く。

 あなたは今、どんなふうに毎日を過ごしていますか?

 何度も、聞いてみようとした。メールに途中まで打ち込んで、すぐに消した。……駄目なの。だって。

 私はまだ、彼との最後の約束を果たしていない。

 彼からもらった手紙を、そっと引き出しから取り出す。淡い水色の封筒は、ひんやりと冷たい。彼から受け取った時のぬくもりは、もう感じられない。遅すぎた、私のせいだ。

 ずっと、ずっと、開けられなくて。開けようとする度に、手が震えて。内容を読んだ瞬間、自分がどうなってしまうのかを想像したら、鳥肌が止まらなくて。……でも。

 これ以上、耐えられない。

 どんなにつらいことが書いてあったとしても、これが最後だと言うのなら。もう一度だけ、勇気を出そう。そして。

 待ってるから。

 彼の言葉に応えなくちゃ。それが、数えきれない驚きを、ときめきを、幸せをくれた彼に。私ができる、最後のことだから。

 椅子にしっかりと座り直して、姿勢を正す。大きく息を吸って、冷たい空気で頭を冷やす。そして。

 つやっとしたシルバーのシールに手を添えて、ゆっくりと剥がし始めた。

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