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あの日満開の桜の下で 〜目が見えにくい彼との物語〜  作者: 綾瀬 桜


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迫り来る時 その4

 大学の帰り道。美幸と並んで歩く道は、いつもと何ら変わらなくて。私の心を知ってか知らずか、首筋をひんやりとさせる風が吹き続けていた。

「ねぇ、美幸」

「ん?」

「……この後、時間ある?」

「うん」

「ちょっと、お茶して行かない?」

「いいよ」

 彼女の三つ編みが、風にさらわれてバッと舞い上がる。

 さらわれちゃうよ。

 あの日の、彼の言葉が聞こえてくる。

 本当に、さらわれてしまえたら。こんなに胸が苦しくなることも、ないのかな。そんな身勝手な妄想を振り切るように頭を振って、足を進める。


「あ、抹茶のモンブランだってー。美味しそう」

 これにしようかな、と美幸がメニューの写真を見つめる。

「私は、ほうじ茶ラテにしようかな」

 そう言うと、美幸が店員のお兄さんを呼び止めて、注文してくれる。

「……それで?」

「え?」

「話、してくれるんでしょ?」

 彼女が静かに微笑む。

「奈月から誘ってくれたの、久しぶりだもん」

「……そう、だっけ」

「そうそう」

 彼女が優しい眼差しで続ける。

「待ってたよ」

「……」

 どうして、みんな。こんな私のことを……

「……泣かなくて、いいんだよ」

 その言葉で、頬に涙がつたっていることに氣付く。

「私が待ちたくて待ってたんだから」

「……うん」

 涙をそっと、拭い去る。

「あのね」

 俯いたまま、呟く。

「……彼が、来週、引っ越すんだ。県外に」

「うん」

「引っ越すこと、結構前に知らされて。……つらかった」

「……うん」

「いっぱい、泣いた」

「うん」

「明後日、彼にもう一度、会うから。その時は、笑顔で見送りたい、のに……」

「……」

「泣かないでいられる自信、ないよ……」

 また、涙がこぼれてしまう。

「……」

 しばらく二人とも黙っていると、お兄さんが注文した物を運んでくる。美幸が小声で対応してくれる間、私は何もできずに、勝手に溢れてくる涙をそのまま流し続けた。


「どうして」

 美幸が、そっと私のドリンクをこちらに寄せながら、呟く。

「その人は、早めに伝えたんだと思う?」

「……え?」

「きっと、お互いの為じゃないかな」

「お互いの?」

「そう。必要でしょ、心の準備が」

 彼女が、ほうじ茶ラテにストローをさしてくれる。

「大丈夫。その人は奈月のこと、ちゃんと分かってくれてるはずだから」

 彼女はバッグからティッシュを取り出して、手渡してくれる。

「もし泣いちゃったとしても、奈月の気持ちは伝わるよ。だから、明後日は体調しっかり整えて、会いに行こう。ね?」

「……うん。うん」

 目の前にあったラテを一口飲む。

「あれ? ちょっと、しょっぱい……」

「もう、口に入るほど泣いちゃって……仕方ないなあ」

 えいっ。

 彼女がモンブランを一口、私の口へ放り込む。

「苦っ!」

「もうちょびっとだけ、大人になれてもいいかもね」

 彼女が小さく笑って、モンブランを美味しそうに食べ始めた。

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