再会の季節 その3
コンビニに入る寸前で慌てて足を止める。ポシェットからハガキを取り出しポストへと手を伸ばす。お母さんが書いたメッセージが目に飛び込んでくる。
奈月も私も元気にしています。京都なら美味しい抹茶のお菓子がたくさんありますよね。ぜひお土産に。それではお元気で。
何これ。
つい溜め息がこぼれてしまう。メッセージを書くスペースが狭いのは分かるけれど、なんて内容がないメッセージなのだろう。というか、どれだけ抹茶好きなんだ。私にも買いに行かせておいて、出張中のお父さんにまで頼むなんて。お母さんらしいと言えばそれまでだけれど、いつも封書で丁寧に手紙を書いてくれいているお父さんが可哀想だ。
そういえば、さっきの人、誰に似ているのだろう。
お母さんのハガキのおかげですっかり心は落ち着いていた。改めてあの人のことを思い出してみる。あの後ろ姿、誰かと雰囲気が似ている気がする。それに、あの手。あの整えられた爪。どこかで見たことがあるような。でも、知り合いに杖を使うほど目が見えにくい人はいないしなあ。
きっと芸能人か誰かに似ているんだ。
そう結論づけてコンビニの中へと入っていく。自動ドアが開くと、入店時のメロディーと共にひんやりとした空気が流れ込んでくる。もう冷房をつけているんだ。長袖1枚だと気持ち寒い。
入り口で買い物カゴを取り、早速スイーツコーナーへ向かう。時間帯がよかったのか、いつもより種類も在庫も多い。お目当ての商品を探すのに一苦労だ。
あった、あった。
お母さんに頼まれた抹茶スイーツを手に取り、消費期限を確認する。棚の奥の方にある商品を選べば、もっと先の日付のもあるはず。でも、どうせお母さんすぐに食べるよね。そのまま商品をカゴに入れる。ついでに隣にあったチーズケーキもカゴに入れる。これは自分用だ。そして更にイチゴのシフォンケーキを2つ。お母さんと一緒に食べようっと。
レジの列に並ぶ前に、角のスペースで立ち止まる。例のくじの景品がぎっしりと陳列されている。まだ発売されてから日が経っていないから、在庫がほとんど減っていない。A賞のおっきなクマのぬいぐるみがつぶらな瞳で私を見つめてくる。ライトブラウンでもふもふな毛並みに、首にはダークブラウンのリボン。足裏にはブランド名が刺繍してある。可愛すぎる。B賞は一回り小さいサイズでクマ、犬、ウサギの3種。他にも文房具やアクリルスタンドなどがH賞まで続いている。
よし、やってみるか。財布を取り出してレジの列に並ぶ。
「あ、見て。この店にもあのくじあるよ!」
「本当だ、可愛いー」
高校生らしき女子たちが私の真横を通り過ぎていく。狭い通路でぶつかりそうになるけれど、なんとかかわす。
「次のお客様、こちらのレジへどうぞー」
ショートボブのお姉さんが素敵な笑顔で接客してくれる。この髪型が似合う人っていいなあ。思わず見とれてしまう。
「あの、くじを引きたいんですが。あそこにある動物のやつ」
買い物カゴを台に置きながら伝えると、お姉さんがにっこりと笑ってくれる。
「はーい。何回引かれますか?」
「……じゃあ、2回で」
答えると、お姉さんは台の下から箱を取り出して私の前にそっと置いてくれる。
「では、この中から2枚お取りください」
緊張しながら箱の中に手を入れて、小さな紙の山から2枚を選ぶ。どれを選べばいいかなんて分かりっこない。えいっ。勢いよく紙を取り出してお姉さんに手渡す。
「……えっと、あっ、2枚ともC賞ですね。おめでとうございます!」
お姉さんが小さく拍手をしてくれる。嬉しいけれど、後ろの人がこちらを覗き込んできて、ちょっと恥ずかしい。
「では、あちらの景品からお2つ、好きなのを選んでくださいねー。ありがとうございましたー」
お姉さんはまたにっこりと笑ってから、次の接客に取りかかる。
私はさっきの角のスペースまで戻ってきて景品を選ぶ。レジでは恥ずかしかったけれど、2つもC賞が当たるなんてすごいことだ。心の中でガッツポーズをする。
C賞は小さめのストラップで柄はクマの1種だけれど、体とリボンの色がそれぞれ違って5種ある。素材はぬいぐるみと同じ感じで、頭の上にヒモがついているタイプだ。これはこれで可愛い。
どの子にしようかしばらく悩んだけれど、白い体に赤いリボンの子と、A賞と同じ色の子に決めた。
ふと見上げると、A賞のおっきなクマがなんだか寂しそうに私を見つめている。
ごめんね。
私も名残惜しい気持ちをグッとこらえて、開かれた自動ドアから外へと踏み出した。




