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溶け切らない夏 その1

 四方から聞こえてくるペンが走る音で、私の集中の糸はプツンと途切れてしまう。滴る汗を拭って、問題用紙をじーっと見つめう。

 駄目だ、分からない。溜め息をついて、ペンを置く。ペンがコロンと転がって、拗ねたようにそっぽを向く。ふと窓の外に目をやると、ギラギラと輝く太陽がこちらを覗き込んでいる。雲までも灼いてしまいそうな圧倒的な熱量に怯んで、仕方なく再び問題用紙に視線を落とした。


「奈月、テストどうだった?」

「・・・」

 美幸がパックのイチゴオレを飲みながら尋ねてくる。彼女の火照った頬は、淡いピンク色に染まっている。可愛いなあ。目を奪われて、返事が遅れてしまう。

「奈月?」

「あっ、ごめん。テストね・・・全然できなかった」

「私もー。もう早く終わらないかな。あと2日もあるよ」

「・・・そうだね」

 オレンジジュースを飲む自分の手の甲に目が止まる。汗の粒が点々とついている。その粒を数えていると、なんだか頭がボーッとしてくる。

「奈月?」

「・・・」

「聞いてる?」

「・・・うん」

 ペットボトルを握っていたはずの私の左手は、いつの間にか、彼の右手を握っている。ドロドロと流れていく私の熱。いっそのこと、彼に全部・・・。

 ピンッ!

「いったぁーっ!」

 突然襲われた衝撃で、反射的に額を手のひらで押さえる。視界の片隅で、デコピンをした美幸の手が遠ざかっていくのを捉える。

「まーた、何か考え込んでたでしょ。恋もいいけど、テスト期間中くらいは勉強に集中しなよ?」

「べ、別にっ!そんなんじゃ・・・」

 ない、とは言えずに俯く。飲みかけのジュースが視界に飛び込んでくる。中途半端に残ったオレンジ色の液面が、小さく揺らいでいる。

「・・・ねぇ、美幸」

「ん?」

 揺らぐ液面を見つめたまま、続ける。

「どうすれば、仲良く、なれるのかな・・・男の、人と」

 日光で熱せられた風が吹き付ける。髪が無造作に暴れ、ジュースの液面も激しく揺れる。

「甘えたらいいんじゃない?」

「・・・え?」

 思わず、パッと顔を上げて、美幸の顔を見つめる。彼女と目が合う。大きな瞳が、まっすぐに私を捉えている。

「奈月はいろいろ考えすぎちゃうタイプだから。たまには素直に甘えてみたら?甘えてもらえるのって、嬉しいと思うよ」

 飲み終えたパックを丁寧につぶしながら、彼女は続ける。

「まぁでも、分かる人には分かるから。無理しなくてもいいけどね」

「何が?」

「奈月の、いいところ」

 朗らかな笑みを浮かべた彼女の唇が陽の光を浴びて、つやつやと輝いている。

「・・・それって、どこ?」

「私から言ったら面白くないじゃん」

 今度はイタズラっぽく笑う。

「・・・いつか、その人が教えてくれるといいね」

 その言葉は空気に溶け込み、私の汗と混ざり合って、体内へと染み込んでくる。そんな日を、夢見てもいいのだろうか。

 私の願望を汗として搾り出そうとするかのように太陽が激しく燃え盛る。私は抵抗するように、必死で汗を拭い去った。

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