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立ち止まらせる雨 その1

 昨日から窓を叩きつける雨音が、鼓膜をちっとも休ませてくれない。ゴォーッと時折吹く風が、窓をガタガタと震わせる。外から入ってくる光は弱々しく、部屋の中はどんよりと薄暗い。じめっとした空気が身体中にべたべたとまとわりつき、私の動きを封じ込める。ニュースが梅雨入りを告げてから、2週間。もうずっと、こんな感じだ。

 もう何もしたくない。そう思うのに、頭だけは常にフル回転を続けている。

 あれから、もう3週間。彼と、最後に会ってから。

 机と顔の間に挟まれっぱなしの両腕が、いよいよしびれてきて、感覚を失くしそうだ。涙で視界もぼんやりとしている。妙に冷える足元だけは、はっきりとした感覚を保っていた。

 あの日。彼と初めて喫茶店に行った日。勇気を振り絞って「またお茶したいです」と言った私に、彼はまるでご褒美かのようにメールアドレスを教えてくれた。その直前までどこかそっけない感じだったのに、さらりと慣れた手つきで。・・・まるで、今まで何度もそうしてきたかのように。

 何人の女性と付き合ってきたのかな。想像もしたくないのに、頭の中では勝手な女性像が描かれる。私よりもずっと大人なお姉さん。モデルみたいにスラッとした体型のお姉さん。物静かで落ち着いた雰囲気のお姉さん。みんな、私とは全く違う。

 部屋が一段と暗くなり、ゴロゴロッと遠くの空で雷が鳴っても、思考回路はショートしてくれない。

 きっと、あの喫茶店だって、デートの待ち合わせに使ってるんだ。二人でお揃いのドリンクを頼んだりして。大人で上品な会話を楽しんで。私の時なんかとは・・・。

 お連れの方がこんな可愛いお嬢さんとは。

 マスターの声が、頭に響く。これって、つまり・・・普段は違うタイプの女性なのに、ってことだよね。

 やっと少し乾き始めていた腕を、再び生温かい水流がぐっしょりと濡らしていく。

 次、また行ける時に、メールします。彼が去り際に告げた台詞は、いかにも決まり文句で。深い意味などこれっぽちもない。・・・ないんだ。

 はい、待ってます。それをまに受ける、健気な私。・・・バカみたい。

 感覚を失った腕を無理に動かすと、体全体が悲鳴を上げる。構わずに、10センチ先の携帯に手を伸ばす。

 一生鳴らない携帯なんか・・・いらない。

 放り投げるつもりで握りしめたけれど、できなかった。ひんやりとした無機質な物体。それでも。

 これは、彼と私を繋ぐ、唯一の糸なんだ。

 そんなふうに思ってしまったら、みるみるうちに力は抜けた。ゴンッ、と鈍い音を立てて、携帯が落ちる。激しい雨で孤立した真っ暗な世界で、濁流のような感情に飲み込まれたちっぽけな私は、完全に逃げ道を失っていた。

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