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88話 峰を目指す足跡

 海上で一晩を過ごし、翌日の昼前。

 アステル達を乗せた船は、東方浄土から少し離れた沖合で停船していた。

 人が滅多に立ち寄らない島、桟橋や船着き場などはない。

 その為、船に積んである小舟で上陸する事となった。


 それが海上に静かに降ろされ、アステル達六人は揺れる舟に乗る。

 ツヴァイ達狼は船から飛び降り、小舟に乗った。

「うおおお!?」

 衝撃で大きく揺れ、カインが声を漏らした。


 バランスを崩し、落ちそうになったカインを、フュンフが服に噛みつき支えた。

「あ、ありがとうな。……助かったよ」

 ワフ。と鳴く、フュンフの頭をカインが優しく撫でた。


「私どもはここで皆様のお帰りをお待ちしておりますので!」

 船の上から見下ろしながら、海坊主が言った。

 そうして、ラセツが船を漕ぎだした。


 島まではまだまだ遠い、このままでは上陸をするのは昼を過ぎてしまいそうだ。

 海坊主達が乗る船との距離を確認し、アステルは黎明色の魔力の短剣を生成し、船の後部へと刺した。

 何をしようとしているのか、瞬時に理解したのか、ラセツはオールを小舟に仕舞い込んだ。


「ちゃんと掴まっててね」

 アステルの言葉に、皆が船にしがみ付くように、各々傍のものを掴んだ。

 そして、アステルは指を弾き、乾いた音が鳴る。

 魔力の短剣から緑色の魔法陣が生まれ、突風が吹き荒れる。


 小舟は海を跳ねるように進み、島へと近づいていく。

 カインの叫び声、スズカの笑い声が重なる。

 風の出力を徐々に抑えていき、浅瀬に着く頃にはその促進力は緩やかなものとなっていた。

 そうして、小舟は静かに、島の砂浜を乗り上げた。


 アステル達が次々と白い砂へと足を降ろす中、カインが小舟の上で固まっていた。

「おえ……」

 そんなカインを置いて、アステル達は深く生い茂る森の奥、天を貫く程の切り立った山を見上げた。

 霊峰、東方浄土。


「カイン、行くよ?」

 アステルが振り向き、固まったカインを見た。

 ピクッと動いた。

「うう、……はい」


 ふら付いた足取りで砂浜へと降り立ち、森の中へと入っていくアステル達の後をフラフラと、追っていく。


 静かな森の中を進んでいく。

 鳥が鳴き、野生の動物達が姿を見せる。

 人が立ち入らない島。整備もなにもされていない、自然そのものが動物達にとっての楽園。

 

「狂暴な妖怪とかいると思っていたけど、案外平和なんだねぇ」

 周りを見渡しながら、フェリスが呟いた。

「人や妖怪にとって過ごしやすい場所とは限らないからな。それに、ここはまだ霊峰の麓だ」

 先頭を歩くラセツが答えた。


 生い茂った草を除け、足元の悪い森の中を進んでいくと、小さな湖へと出た。

 そして、空は気付けばオレンジ色を見せ始めている。

 太陽は上にある。時間的にはまだ、昼の筈。

 アステルは霊峰を見上げた。


 赤黒い光が、山々の峰から漏れ出すように、空を赤く染めていた。

「どうやら、黒龍はちゃんといるみたいだね」

 その光を見て、アステルが呟いた。


「どういう事だ?」

 スズカが首を傾げた。

「あれは龍属性の魔力の光だよ」

 ほお……とスズカが頷いた。


 魔力の光が収まると、空の色は元の青へと戻った。

「何かと戦ってるのかな?」

 シリウスが首を傾げた。

「どうだろう?」


 どちらにせよ、この地。東方浄土に黒龍がいることには変わりはない。

 湖の縁を歩き、山から流れ落ちる川を辿っていく。

 上流まで登り着くと、崖から水が落ち、水飛沫を上げる滝へと辿り着いた。


「流石に、妾でも登るのは無理だな」

 小さな身体で遥かに高い崖を見上げ、スズカが言った。

「別の道を探しましょうか」

 ラセツが言い、崖沿いを歩きだした。


 その後を追っていき、そうして、太陽が落ち始める頃。

 アステル達は山を登れそうな道を見つけた。

「日が落ちる。この先何があるかは分からない、ここで野営にしよう」

 先頭を歩いていたラセツが振り返り、そう言った。

 

 アステル達は頷き、野営の準備を始めた。

 夜が静かに近付いてくる。

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